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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
黒の魔術師と魔王となる少女
93/141

幕間:達成

 俺は生まれた時から一人だった。

 いや……一人になるべくして生まれた。

 俺を生んだのは、魔族ではなくバーゲストだということを含め、俺は生物の遺伝子に残された世界の常識を漠然と理解していたが、何故生み出したのかを俺は全く理解出来ず、生んだバーゲストを愚かだと思った。

 

 バーゲストの魔技は、霧の発生と操作だが、生まれながらに持つ性質というか運命として、バーゲストと長く居ると死にやすくなってしまう。少し一緒に居るだけでも、体調を崩しやすくなりその状態でずっと居ると最終的に前述の通りになり、死に至ってしまう。だから、バーゲストは目撃されるとすぐに殺されるか、距離を取らなければならない。その性質が広まる前は、不幸の象徴として避けられ、バーゲストを目撃した者は死ぬとも言われていた。

 

 話が逸れたが、バーゲストのこの性質は同じバーゲストであっても適用され、自分を生んだバーゲストは生んだ時の疲労と自分が安定化するまで近くにいたはずだから、そう長くはないだろう。

 

 だからこそ、愚かだ。と俺は笑う。

 バーゲストを含めた魔生物は不老ではないが魔族と同じように人間よりも遥かに長命で、自分の命を投げ打ってまで子孫を残そうとする思考は意味不明だった。

 

 愚者の行動や思考を考えるのは、時間の無駄だ。

 それよりも、この世に生を受けたのなら俺は魔生物の一種、バーゲストとしてこの世界を生きよう。

 意思を示すかのように、俺は遠吠えを上げた。


 20年生き、俺の体も生まれた当初より大きくなり、人の定義なら大人の犬と同等の大きさだろう。俺はまだ寿命で死ぬことはないが、これ以上大きくなることはないだろう。これはバーゲストという種の限界であり、かの有名な神喰らいの大狼の血を引いていれば、更に大きくなったことだろう。まぁ、気ままに生きるのならこの程度の大きさが丁度良い。


「やったぞ。バーゲストを捕えたぞ」


 30年生きた俺は、魔術師のグループに捕まった。こいつらはバーゲストの持つ性質が怖くないのか? いや、こいつらが身に付けている腕輪、魔技を含めた魔族・魔生物の特徴を無効化する能力を持っているのか。だから、俺の生み出した霧が上手く操れなかったのか。なら、俺に近づける理由も理解出来たが、捕える理由は分からなかった。


 魔術師は、人間はやはり愚かだ。

 純血の魔族が絶滅した今の時代で、魔族……いや、魔技を得るために魔族と似た俺たちの体を研究しようとは……俺は暗く冷たい檻の中で俺の能力を無効化する鎖を括り付けられ、俺はただ檻の前を通り過ぎる魔術師、魔法使いを眺めていた。

 彼らは一度は俺の前で足を止め、俺を見るがバーゲストだと分かるとそそくさと去っていた。そいつらの吐き捨てる言葉の内容からバーゲストの持つ霧発生操作の魔技も周りの人間を死にやすくする性質をデメリットや意味のない能力でしかなく興味を引くような物ではないらしい。

 俺は売れないからと、ただの犬として普通のペットショップに回された。しかし、ここまで大きくなった犬を飼う者など居らず、多くの人はまだ小さい子犬を好み、そいつらを飼う選択をした。

 一生売れないでここに居るのかと、俺が絶望する中、その人物が現れた。

 その人物は老婆で子犬には目をくれず、俺の方を見た。


「この子にするわ」


 そう老婆は俺を買った。

 老婆の名前はバリモアというらしい。

 彼女は家に連れてきた俺に語り出した。


「私、もう長くないんだけど子もこの家に来なくなっちゃってね。一人で余生を過ごすのも寂しいから、貴方みたいな犬を飼いたかったの」


 俺はバリモアと暮らしていくうちに、バリモアの行動全てに疑問を抱いた。

 彼女は俺を犬、獣としてではなく一つの存在。つまり人のように接する。そして、獣の俺に道理や礼儀を説き、獣である俺に人の楽しみを教えてくれた。

 獣は一生、獣でしかなく人のように生きることは出来ないと思っていた俺にはバリモアは衝撃的な存在で出会って1年も経たずに、親愛なる家族となっていた。


 バリモアに買われて5年後、バリモアの息子がよく家を訪ねるようになった。息子とバリモアの会話を聞く限り、彼はギャンブルで借金を負ってしまい、その返済のためにバリモアの遺産をくれるように迫っていた。しかし、彼女は息子だからと甘やかすことなく遺産をあげないと宣言し、彼を追い返した。彼は玄関に向かう際に、俺を見ると、俺を侮辱するような言葉を小さく呟き、蔑んだ目で俺を見る。


 彼は母であるバリモアと違い、獣を獣として接し、家畜のような存在としか見れないのだろう。俺は獣ながらに人のような思考で、彼のことを哀れに思った。そして、同時にバリモアが言っていたように自らのお金で借金を返済するように切に願っていた。しかし、その願いはあっけなく壊れる。


 2年後、彼は何気ない感じでバリモアの元を訪れた。そして、バリモアと話すために彼女と共に書斎に入っていき、その10分後、彼一人だけ出てきた。そして俺の前に来ると、俺を平然と蹴り上げた。


「キャン」


 俺は痛みに鳴くが、書斎に居るはずのバリモアは反応を示さない。


「クソ犬、これでお別れだ」


 その言葉を吐き捨てると彼は家を去った。バリモアはその日から、書斎から出てこなくなった俺がどれだけ鳴いて吠えても彼女が書斎から出てくることは無かった。そして一週間ほど経つと書斎から腐臭がし始め、その匂いは窓を通って近隣の住宅に広がり、住人が訪ねてきた。そして、住人が書斎の扉を開けた。

 

 瞬間、書斎の椅子に座った状態で腐ったバリモアと思われる死体がそこにあった。バリモアの死は、事故として処理されたが俺はあの息子が殺害したのだと分かっていた。だが、犬である俺に、彼のことを訴えることも裁くことも出来ない。俺は飼い主不在の、捨て犬となった。


 7年後、奇妙な人物と出会った。

 そいつは錬金術師と名乗り、俺のことを人にしてやろうと手を差し出した。俺は、考えることなくその人物の誘いに乗った。そして、そいつの実験動物として様々な能力を獲得し、ブラックドッグと融合した影響で違う一人称や意識が出てしまうことがあったが、俺は人として最低限の二足歩行を獲得した。しかし、俺の身体はいまだに毛が生え、爪牙も獣の物で、頭も二つある。


 錬金術師は言った。


「魔生物であっても多くの魔力を得れば、魔族となることが出来る。魔族は容貌においては、人に似ている者も居るので君の願い通りになるだろう。しかし、そんな大量の魔力を得るには多くの魔術師の心臓を喰らわないとならない。君には、それが出来るか?」


 俺はそれを何の躊躇もせず、行った。

 そして今、勅令の対象として目の前に立つ魔術師に敗れそうになっている。

 あれから何度も、何度も、拳を振るったが俺の拳はこいつに掠りもせず、こいつの拳だけが俺の命を削る。

 その果てに俺は力尽き、倒れた。

 液体が無ければ、魔術を行使できない魔術師、黒曜濡羽。

 こいつも俺と同じ半端者だ。魔術師であるのに、魔術師として生きる事が出来ない半端者。

 そして、俺は人を見て気付いた。


「お前も、この島に居る魔術師、魔法使いも全員、人の皮を被っただけの獣だ! 自身の欲望のために、たとえ血の繋がった家族であっても切り捨て、他者を貶める! それのどこが、俺たちと違う? 獣の方がまだマシだ、俺たちは自分が獣だと理解しているからな!」


 俺は血反吐を吐きながら訴える。

 濡羽はその黒い瞳で俺を見、そして喋り出す。


「ああ、俺は魔術師であり、人であり、獣だ。だから、今からお前を殺しても悲しみはするだろうが、その行動を否定するつもりはない。人が行う事は全て、理不尽と不可避の上で成り立っている」


 濡羽は一拍置く。


「だからこそ、俺はお前に謝罪しよう……すまない」


 ああ、やめてくれ。

 お前もそうなのか……獣を否定もせず、肯定もせず、ただ接し、共感する。

 それは……それでは、俺は……


「俺もそっち側の半端者になりたかったよ」


 こうして犬歯事件の犯人は死亡し、勅令は濡羽、ミア、グリムの三人が達成した。そして話していた通り、達成報酬の単位は濡羽とミアの中で分ける事になった。


***


 錬金術師は事の終わりに、ただ笑みを溢す。

 ああああ……バーゲストよ。

 お前は死んでやって、醜く愚かな人の仲間入りを果たしたのだ。

 錬金術師は、その瞬間から実験動物の存在を忘れ、次の対象に興味を向ける。

 ああああ、作りたい。

 作りたい……誰もが、魔法使いになれる、そんな薬を。

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