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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
黒の魔術師と魔王となる少女
92/141

幕間:人獣

 彼が、姉の好きな人、黒曜濡羽。

 シェリーは体勢を変えるほどに、濡羽の背中というかその姿をまじまじと見ていた。


「大丈夫か?」


「ええ……大丈夫よ。少し安静にすれば、この程度の傷なら」


 魔力も練れてきた。これなら、傷の治癒は出来そうね。


「そうか。でも、安静にしてろよ」


 濡羽の意外な言葉に、シェリーは思考停止に陥る。

 え、何この人? 魔法使いであるうちの事を心配してるの? 魔術師なのに?

 シェリーはルナの言葉を思い出す。


「濡羽について教えて欲しいって?」


「そうね。彼は何というか……生きるのが不器用っていうか、人生を転びながら歩いているというか」


「姉さん、それって大丈夫な人」


「大丈夫よ。要するに……優しすぎて自己を顧みない人なのよ」


 その時は、変な人だと思ったけど、今感じているのは姉さんの言葉の正確さと濡羽という人物に対する驚嘆と疑問だろう。


「うちは魔法使いよ」


 敢えて突き放すような物言いをぶつける。


「そんなのは分かっているさ。俺が言っているのは、君は傷ついた女性だってことだ」


 え。


「さっきまで死にそうになっていた君を、戦わせるのは俺の信念に反する。それに、戦うことは無茶して命を削る事じゃない。肩書きに囚われず、自分の意思を自分で尊重した上で、考えて行動するべきだ」


 彼は魔法使い(うち)ではなくシェリー(うち)を見ているのだ。

 どこに行っても、誰に会っても、何があっても……うちの周りの人間はうちの事を魔法使いとして扱う。

 魔法使いなら魔法使いらしい振る舞いをしろ。

 魔法使いなら魔法使いらしい行いをしろ。

 魔法使いなら、魔法使いなら、魔法使い……それだけが重要視され、個人の意思など尊重されない。

 それが魔法使いの世界の当たり前、魔法使いとして生きていく上での常識。

 そう思っていた。そう思わせていたはずなのに……

 狡い人ね。本当に……狡い。


「だから、後は俺に任して休んでろ」


 濡羽は更に、大男の拳を掴む握力を強める。


「クソが……」


 大男はやむを得ず、闇と同化する。

 確かに闇と同化すれば掴む拳も掴めなくなり、触れられなくなる。

 しかし、それは物理的な話であり濡羽の前ではそんな事、邪魔にもならない。

 濡羽は懐から懐中電灯を取り出し、大男に向かって強烈な光を浴びせる。


「ああ、何を……」


 光に触れた闇は、闇ではなくなり元の姿へと戻っていく。

 同化出来ず、触れられるようになった大男の体に濡羽は容赦なく拳を叩き込む。

 まずは……顔面に一発だ。


「黒斑」


「ぐっ」


 次に鳩尾。


「黒炎」


「ぐへぇ」


 そして、深く深く踏み込み。

 そして練り上げた魔力を拳に集中させ、放つ。

 本気の——


「黒斑!」


「ゔぁはぁ」


 大男は盛大に吹き飛び、墓石を壊し、止まる。


「おい、この程度じゃないだろ?」


 濡羽の問いに、大男は少し時間を置いてから立ち上がり、答える。


「ああ、濡羽。お前は私の運命の相手だ」


「運命の相手?」


「私は……俺は……お前と出会い、お前を殺すために。この体となり、生きてきた。全てはバリモアの願いと私が、俺が完全な人になるための運命」


 大男は外套を手に掴む。

 そして外套を脱ぎ捨て、その姿と顔を露わにする。


「何、その姿……」


 シェリーは驚きの声を上げるが、濡羽は平静としていた。


「やっぱり、か」


「改めて名乗ろう。犬歯事件が犯人……私は、俺は……」


 一拍置き、その人物は名乗る。


「バーゲスト、ブラックドッグ」


 それは二つの犬頭を持つ二足歩行の大型の獣だった。

 それはバーゲストとブラックドッグという二種類の魔生物が融合化した存在。

 そもそも魔生物とは、魔族が作り出した魔族に似た何かという生物であり魔族であって魔族ではなく、獣であって、人ではない存在。

 特徴は魔族と似たような力を持つという点であり、魔生物一種につき一つの能力を持ち、バーゲストの能力は霧発生と操作、ブラックドッグの能力は闇同化。

 それは、融合した影響で二つの能力を持った存在となった。


「考えてみれば、すぐに分かることだった」


 濡羽は続ける。


「獣のような爪や手、硬い皮膚が能力による物ではなく生まれながらに持っている物であり、闇との同化が能力だとしたら……そして、獣の所業のような犯行が人ではなく獣が行なっているとしたら、と考えたら簡単なことだ。バーゲストもブラックドッグも犬のような見た目のはず、人のような姿になっているのは誰かの介入かな? 人を殺して喰らうのもその人の命令、いや助言かな」


 純血の魔族がほとんど絶滅した今の時代でも、魔生物は世界に存在している。半分以上はペットや家畜、実験動物としての役割だけど……人が使役し、飼うことはできるが……


「所詮は獣……人を殺し、喰った時点で狩りの対象でしかない」


「そうだな。その思考が、お前らみたいな家畜同然、奴隷同然の扱いを受けた上で自分は人間であると言える汚い思考の論理だ。獣も、人も根幹じゃ変わらねぇ……誰かを喰らってしか生きれねぇんだよ!」


 バーゲストを中心に霧が発生し、濡羽の視界を防ぐ。


「俺はお前を殺し、運命に従って、遂に人となる」


 人になりたい魔生物か。

 面白いけど、やってることは残虐極まりない。


「殺すしかないな」


 勅令のため、平和のために。

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