幕間:睨み
「おい、本当にこの首輪を付けていたバーゲストって犬の飼い主であるバリモアさんの関係者と思われるあの大男に、こんな墓場で会えるのか?」
「整理ありがとうございます。物凄く馬鹿っぽいですよ、セリオ様」
「私は馬鹿じゃない!」
「馬鹿じゃないって大きな声で言うなんておバカのすることよ、セリオ様」
「うるさいな!」
「それじゃ、セリオ様は置いといて、この霧の中でどうやって大男を探すか?」
軽薄そうな男の言葉に、セリオは怒るが三人は無視する。
目の前には墓場の入り口から墓場全体に霧が掛かっている。
幽霊でも出そうな雰囲気で、実際にはこの霧の中に殺人鬼が居ると考えると恐怖しかない。
「地道に探すしかないですね。セリオ様もそれで良いですね?」
「私がリーダーだぞ! 私が決めるべきなんだが、お前は頭が良いからお前の言う通りにする。だが、私の事を敬え! 讃えろ!」
「ありがとうございます。セリオ様」
「可愛いですね。セリオ様」
「頑張って行きましょう。セリオ様」
「そうだな。濡羽の野郎より先に、勅令を達成するぞ」
「それは諦めて貰おうか」
「何!」
セリオたちは後ろを振り返る。
そこには肩に大鎌を置くグリムと隣にはシャフハフトが居た。
「よっ! さっきぶりだな」
「何のようだ」
「何のようだって、分かってるんだろ? ああ、馬鹿だから理解力が足りないのか?」
「本当にお前らは俺の事を馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿って誰が馬鹿だよ! グリム・テイカーァァァァ!」
「さんを付けろよデコ助野郎!」
「え……」
セリオは困惑する。
「プッ」
「うぐっ」
「アハハハハ」
メガネを付けた男子、軽薄そうな男子、ギャルみたいな女子の三人はお腹を抱えて笑い出す。
セリオは確かに髪型による影響もデカいが、オデコが出ており、三人とも出ているなぁと常日頃から思っていた為にそれを言われた本人の様子に抑えられないほどの笑いが込み上げていた。
「お前ら、何笑ってるんだよ! おい!」
「す、すいません。本当に……ハハハハ」
セリオが抗議するために本人たちに顔を合わせ、そのオデコを見るため更に笑ってしまう悪循環に陥っており、三人ともすぐに戦闘体勢を取れそうには無かった。
「笑うなって!」
「さて、戦おうか?」
グリムは気にせず、大鎌を構える。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
セリオは止めようとするが、グリムは聞くことはない。
「……負けな」
大鎌の棒の部分でセリオの鳩尾を突き、彼は地面にお腹を抱えながら倒れる。
「うっ……」
「お前たちも負けで良いな?」
「はい」
「良いですよ」
「はい、大丈夫です」
こうしてグリムの手でセリオたちの勅令達成の道は潰えた。
***
シェリーの魔法が紡がれる。
「顕性魔法『岩槍』」
数本の岩で出来た槍が顕現し、大男に向かって射出される。
大男は墓場の墓石を盾に弾幕を走り抜ける。
「魔法使いか。魔法使いが何故、勅令を」
「興味本位よ。優秀な魔術師を知りたかったんだけど、貴方に興味が湧いたわ」
「そうか……死ね」
大男は距離を詰め、シェリーに殴り掛かる。いや、それは殴り掛かると言うより鋭利な爪で切り裂くような動きだった。
確かに魔法使い相手に近接勝負を挑むのは、有利な一手だ。
しかし、それは相手が普通の魔法使いでシェリーでない時に限る。
「『顕剣』」
自分の手の中に顕現させた剣で大男の拳を受け止める。
そして力を流しながら、綺麗に崩す。
崩された空いた大男の急所と隙にシェリーは剣を振るう。
「チッ」
大男はあえて深くシェリーに向かって一歩踏み出すことで、剣を体で受け止める。剣は大男の纏う外套を切り裂き、皮膚を傷付ける筈が……大男の体は闇と同化し、刃は沈み込む。
「取った」
大男はその言葉と共に、目の前のシェリーに掴み掛かる。
シェリーは咄嗟に剣を引き抜こうとするが、固定されているのかびくともせず、剣を手放し、後方に逃げる。
「杖。持ってくれば良かったわ」
まぁ、メンテナンスに出してて無理だけど。
「持っていなくて、こっちは幸福だよ」
大男は剣を引き抜くと同時に、闇との同化を解除し、剣を構える。
失敗ね、そうシェリーは自らの行動を恥じる。
剣を生み出した時点で、取られる事を想定しておかないなんて……これも学院に入るまでのブランクの影響ね。まぁ、失敗した事はしょうがないし、それをどう対処するかって師匠も言ってたし……
「少し本気出すね」
数十本の岩槍が顕現し、シェリーを中心に放射状に広がり、その穂先を大男へと向ける。
防がれ、回避されるならそれを見越した上で圧倒的な弾幕で押し切ってしまえば良い。それがうちの魔法の強みなんだから。
「弾幕はパワーって言うでしょ」
「ああ、だがそれも見えていればだろ?」
大男を中心に霧が発生し、渦を巻きながらシェリーを巻き込んで広がる。まるで、霧の台風のように霧は常に流れていき、足元以外を視覚出来なくし、自分の場所が分からなくなる。
「確かに、そうだね」
シェリーは岩槍を消すと思考に耽る。
獣のような体格と爪牙、闇との同化、そして霧操作。いくつ能力を持っているのよ。魔術師じゃない事は確実だけど、ここまで幅広い能力の魔法なんてありえる?
それより、どうしようかな。
全方位巻き込んで、霧ごと吹き飛ばすのが手っ取り早いんだけど……流石に他人のお墓を破壊するのは気が引けるけど、しょうがないよね
「『顕爆』」
シェリーを中心に無数の小さな火球のような物が生まれ、それらは閃光と爆風、破壊を撒き散らしながら墓石、地面もろとも霧を吹き飛ばす。
「?」
霧はある意味、晴れたがそこに大男の姿はなかった。
シェリーが逃げたのかなと思った瞬間、彼女の足元の影から大男は現れ、その鋭利な爪による貫手でシェリーの胸を貫く。
「かはぁ……」
「油断大敵だぞ、魔法使い」
「顕雷!」
シェリーを中心に無数の雷が降り注ぐ。
大男は思わず、シェリーから手を抜き、距離を取る。
シェリーは吐血しながら地面に膝を付く。
やられた。
血を流しすぎた……魔力が練れない。
「死ね」
大男は拳をシェリーの頭蓋を砕かんと背後から振り下ろす。
しかし、拳は頭蓋を砕くことは出来ず。
代わりに一人の人物の掌に抑えられ、止められる。
「あとは任せろ」
シェリーは振り返る。
その紅い瞳が、黒色の髪を捉える。
そして、その人物は黒色の双眸は外套に隠れた大男の瞳を睨む。
「黒曜濡羽」
大男もその睨み返しながら、その人物の名を口にする。




