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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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幕間:抗戦

「?」


 少女はもう誰も集まっていない掲示板の前で足を止めた。

 そして掲示板に貼られた勅令の紙を見る。

 少女は、ただその紙を虚に見ていると、少女よりも上の学年と思われる男子生徒が近づく。


「君も勅令に興味あるの? 僕はシナル。君、何年生? 良かったら、勅令なんて忘れて、僕とお茶しない?」


 周りの生徒たちが二人に注目する。

 少女の方はその容貌から、男子生徒の方は彼の噂から。


「見ろ、またシナルが下級生を誘ってるぞ」


「あいつ、あの美形に物言わせて女子生徒取っ替え引っ替えし過ぎだろ。そろそろ痛い目見るぞ」


「そうだと良いな。てか、あの女子生徒、可愛いな。白い髪も相まって妖精みたいだ」


「白い髪……ああ、あいつ死んだな」


 シナルは女子生徒が返事しない事を良いことに続ける。

 彼は慣れているのだ。

 喋るのが得意な子も、苦手な子も居る。自分はその苦手な事に付け込み、支え、ヤレれば良い……そうやって、多くの女子生徒を手篭めにしてきた。


「僕みたいなイケメンとお茶出来るんだよ、嬉しいでしょ?」


 少女は何も答えず、シナルの方に顔を、視線を向けることはない。

 シナルはその態度に若干、イラつくがツンデレなのだろうと思い、続ける。


「僕、優秀で強いんだよ」


 その瞬間——

 少女の雰囲気が明らかに変わった。

 今まで相対していたのは無口で可愛らしい少女のはずなのに、目の前に立っているのはドス黒い殺気と雰囲気を纏った化け物だった。


「それなら、戦おうか?」


「ああ……ああ、君は……」


 シナルはやっと気付く。

 紅い瞳、白色の髪——それは生徒会役員ルナの容貌とそっくりで、ルナの妹が今年入学した事をシナルは脳裏に思い出す。

 確か、名前は——


「シェリーさん。す、すいませんでした。僕の負けですから!!」


 シナルは観衆の目など忘れて、逃げ出した。


「残念だな。戦いたかったのに……」


「ここに居たのね。約束の場所で待っていたのに」


 シェリーの姉、ルナが姿を現す。


「お姉ちゃん、この勅令って……」


「ええ、本物よ。だから、学院には今、優秀な魔術師が居ないわ」


「それって、お姉ちゃんの想い人も?」


 シェリーは揶揄うように言う。


「な、それは……そうだけど」


 ルナは頬を分かりやすく染める。


「ほんと一途だよね。お姉ちゃんの好きなぬ……」


「シェリー!」


「分かったよ。言わない代わりに、勅令に挑む魔術師の中でも最も優秀な人ってどこに行けば会える?」


 ルナは思考停止する。

 勅令に挑む魔術師の中でも最も優秀な人? 濡羽しか、居ないじゃない。

 濡羽の居場所、教えるのは嫌だな。でも、妹に嘘は吐きたくないし……

 ルナは思い出す。

 それは幼少期の自分と濡羽の思い出の一つ。


「濡羽、この魔契陣に血を垂らして」


 ルナは魔導円に似た記号が描かれた紙を濡羽に差し出す。


「え、これ何?」


「魔力と血による契約よ。込められているのは、私と濡羽の互いの場所が分かるようにする術よ」


「え、ヤダ」


「探索者になって、迷宮に潜った時にハグれて迷子になるかもしれないでしょ。その時のためにと思って、作った術なの! これで私たちは互いに互いを守ることが出来るでしょ! それって良い事じゃない! そうでしょ?」


「うん。分かった」


 濡羽は早口で喋るルナの言葉を少しも理解していなかったが、ルナのする事だから大丈夫だろうと血を垂らした。しかし、術は発動せず、濡羽は実験として隠されたルナの場所が分からなかった。


「うん。失敗だね、また作るよ」


 何故か、嬉しそうなルナに疑問を抱きながらも濡羽は何も言わなかった。

 その後、ルナがまた作ることは無かった。それは、成功していたからだった。

 実はこの魔契陣はルナに濡羽の位置情報を共有し、意識すれば濡羽が見聞きしていることの盗聴が可能だった。そのため、濡羽は気付かずにルナにその居場所がバレていた。

 これを作ったルナの動機は、濡羽が万が一そういう事をしようとしたら突撃して邪魔するためと濡羽の居場所を常に知っていたいからだった。

 この術の影響で、ルナは濡羽が勅令に挑んでからの情報をバッチリ把握していた。

 そのため……


「それなら、この場所に行ったら……」


***


「一体、整理しよう」


 俺はその言葉の次に、今まで起こったことを順序通りに語っていく。


「まず、犬歯事件の犯人を探しにマネーモールに行った。そして、そこで犯人と思われる大男と遭遇し、一触即発だったが逃げられ、その大男が落としたと思われる首輪を俺はセリオの仲間に盗られ、セリオたちがその首輪に描かれていた犬の名前を動物センターの方で検索し、飼い主であるバリモアさんの住所を抑えたが、そのバリモアさんは死んでいた。これであってるよな?」


「ああ、合ってるぜ」


「どうするの? これじゃ、手詰まりじゃない!」


「いや、ミア。また、出来ることはある」


「共同墓地だろ」


 グリムに先出しされた。


「ああ、犯人はバリモアさんと親交があった人物で間違いないだろうから、バリモアさんのお墓があると思う共同墓地に行くはずだ。ちょうど7年前にバリモアさんが死んだなら、今日はプロテスタントの追悼の記念集会が行われる時期だからな」


「確かにそれなら遭遇出来るかも知れないわね」


「セリオたちにもな」


「ああ、あのメガネの男がこんな簡単な事を見出せない訳ないからな」


 セリムは馬鹿だけど、それをあの男が支えている限り、馬鹿であること想定した動きは出来ない。


「戦闘は確実か。見つけた方の早い者勝ちだからな」


「グリム……戦闘は避けるべきだと思うけど」


 あの大男の能力も分かってないのに、消耗するのは危険性を孕む。


「セリムたちを相手しても、俺は消耗しねぇよ。それに……」


 グリムは俺に近づき、肩を叩きながら言う。


「俺が消耗して窮地に陥ってもお前がどうにかするだろ? 濡羽」


「俺のこと信頼し過ぎだろ」


「良いじゃねぇか。一度、刃を向け気心の知れた相手を信頼するのは普通の事だろ。それじゃ、俺はお先に行く……露払いは任せろ」


 そうグリムは図書館を後にした。


「行かせて良かったの?」


「大丈夫だろう。グリムは戦闘では卑怯な手を多用するけど、こういう時は裏切らない奴だ。それに、少し調べておきたい事がある」


***


「ここに優秀な魔術師が来るの?」


 シェリーはルナの言葉通り、共同墓場に来ていた。

 墓場全体に霧が立ち込めており、怪しげな雰囲気に包まれていた。


「あ、あれ何?」


 霧の中に人影を見かける。


「魔術師……?」


 シェリーはその人影に近づく。

 それはあの、大男であった。

 大男はシェリーが身に纏う学院制服を見て、殺意を露わにする。


「学院生徒!」


 大男はシェリーに向かって、爪を振るう。

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