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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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幕間:死犬

 テイカー家とギバー家、魔術師の世界でも有名な家系だ。

 武力、財力、政治などで活躍するテイカー家とテイカー家の公認の支援一族であるギバー家。

 テイカー家があってギバー家があり、ギバー家があってテイカー家がある。

 一部の魔術師達はそう揶揄しながらも両家の関係性の高さを異質に思っている。

 テイカー家の者にはギバー家から一人、生まれた瞬間から従僕が就き、一生変わることはない。

 そしてテイカー家当主となった者の従僕が、次代のギバー家当主となる。

 テイカー家当主は、決闘によって決まり、当主に挑み勝った者が次のテイカー家と当主となる。

 だが、当主に挑める権利を持つのはテイカー家の中で選抜された5名だけだ。

 シャフハフトはグリム付きのギバー家の人間だ。

 そしてグリムは、その五名のうちの一人だ。


【ああ、初めましてだ。シャフハフト】


 シャフハフトは通信機越しに返ってきた濡羽の声を聞きながら、主に言われたセリオ一味を影から見張りながら、主の考えを読み解く。

 シャフハフトも学院に通う同級生だが、主の命令で偽名・偽証し素性を隠して生活し、影ではグリムの事を支えてきた。その理由を、学院内で自由に動かせる手駒として自分を運用するためと思っていたのに、主はあっさり自分の存在を他者、濡羽らに暴露した。もし、濡羽らがシャフハフトの存在を学院中に流布すれば今までのようにシャフハフトは動けなくなるというのにだ。

 生まれてからシャフハフトはずっと主に付いてきたが、未だに主の考えを父であるギバー家当主のように完全に読み解くことは出来ずに居た。


【ギバー家の人間も居たんだな】


【当然だろ】


 濡羽と主が向こうで会話している。

 少しだけ嫉妬してしまいそうだし、同時に奇妙に思う。確かに主をずっと負かしている黒曜濡羽に主が興味を持つのは不思議でないが、その興味の深さは今まで無いほどだった。

 主は何度も負けたことがあったし、自分を負かした存在に興味を持つのは今までもあったが、ここまで真摯に接しようとしている主を見るのは初めてだった。


【話を戻すか。シャフハフトは今、セリオを監視しているんだよな?】


「はい。そうです」


【セリオ達がどこに向かおうとしているか、見当が付きそうか?】


 セリオが向かっていく方向と現在位置、そして今の状況と首輪からシャフハフトは一つの場所を結論づける。


「島内管理局の動物センターに向かっていると思われます」


【動物センターか。なるほど、首輪に名前でも書いてあったな。名前から検索しようとしている訳か】


【名前は見てないのか?】


【お前に見られないように急いで隠したから、ちゃんと確認出来て無いんだよ】


【それで盗まれてたら、無意味じゃねぇか】


 シャフハフトは言葉の調子から主の怒りを感じた。

 でも、それは単純な怒りという感じではなく「何で俺に隠すんだよ」という濡羽にとっては理不尽な怒りのように思えた。


【シャフハフト。動物センターでの会話を盗聴出来るか?】


 島内管理局の施設で盗聴。並の魔術師には不可能な事を、この人はまだ話して数分も経っていない僕を信頼して頼っている。

 彼は期待しているのだ。

 テイカー家の支援一族、ギバー家の力と主であるグリムに対する信頼からその従僕である僕のことも。


【ちょ、俺の従僕に何、命令してるんだよ】


「グリム様。大丈夫ですよ」


【それで盗聴、出来るのか?】


「出来ます」


〜〜〜


 島内管理局の施設内には魔術・魔法の効力を弱める結界と通信を規制する結界が張られており、施設内に魔術を施して盗聴しようとしても前者の結界で徐々に崩壊し、後者の結界で盗聴そのものができない。

 ならば、盗聴ではなく内部の音を記録すれば良い。

 それなら後者の結界は完全に無効化出来る、そして前者の結界は——


「来たぞ、動物センターだ」

 

 セリオ一味が動物センターに到着し、そのドアの取手に手を掛けた瞬間。

 僕は懐から取り出しておいた符を一味の1番後ろに居る女性の背中に投げ付ける。

 セリオ達に付けることで最短時間で回収を行い、崩壊を抑える。

 符は女性の背中にピッタリと張り付き、効力を発揮する。

 隠遁符。

 術者以外から見えなくなり、感知しづらくなる。

 セリオ一味は動物センターに入っていき、ドアが閉まった瞬間に隠遁符の下に重ねていた記録符が効力を発揮する。


「さて、後はバレない事を祈るだけかな」


***


「この首輪を見つけまして、持ち主っていうか飼い主を探していまして。多分、ペットはゲストという名前だと思うんですけど……」


 メガネの男が動物センターの職員と会話を始める。セリオは後方で腕を組んでメガネの男を眺めていた。


「ゲスト……ペット名前検索してみますね」


 職員がパソコン内の記録で検索を掛ける。


「ゲストって名前のペットはいませんね……その首輪、見せてくださいますか」


 職員はメガネの男から首輪を受け取り、改めて名前の部分を見る。


「ああ、薄くなっていますけど……ゲストの前に二文字ほど入りますね。五文字検索して探してみますね…………多分、このバーゲストっていう名前の犬の首輪ですね」


「そうですか。それじゃ、飼い主の名前と住所は分かりますか? この首輪を届けたいので」


「えっと、飼い主はバリモアっていう老婦人ですね。住所は……」


 職員はセリオらに住所を伝えた。


「分かりました。向かってみますね」


 セリオらは動物センターを後にした。

 そしてシャフハフトはもう一枚、下に重ねていた風乗りの符を発動し、記録符を回収し、記録内容を確認すると、無線機に流した。


***


【記録を今から流しますね】


「ああ、頼む」


 俺の言葉の終わりと同時に、セリオらの会話が流れ始めた。

 そしてバリモアという人とその人が飼っていたバーゲストという犬の情報を入手することが出来た。


「住所も分かったし、その家に向かえば良いんだな」


【いえ、まだ記録は続いています】


【あの、ちょっと待って下さい。バリモアさんはここに犬の登録の時で90を超えていて、その時から30年以上経っているので念のため、バリモアさんの住民票を確認してみて良いですか?】


 去ろうとするセリオに声を掛ける職員の声。


【あ、お願いします】


【あ、バリモアさん。ちょうど7年前に死んでますね】

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