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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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幕間:首輪

 俺は、見つけた首輪をすぐ隠す。


「どうした? 何か、見つけたか?」


「いえ、何もありませんよ」


「そうか」


 グリムの追求を逃れた俺は、大男が消えた場所を再度見る。

 そこには魔術や魔法を発動した時、残る特有の魔力残滓もなく何も無かった。

 あの大男は魔術師でも魔法使いでもない。

 それならあの毛に覆われた手とどうやって影に潜り込んだかに説明が付かない。

 グリムの呟きが耳に入る。


「魔族みたいだな」


 魔族。

 確かに彼らが持つ魔技は体が持つ特性であって魔力を外部に漏らさず使うため残滓は残らないが、今の時代に魔技を扱える魔族が生きているとは思えない。

 いや、魔族の血を引く者が隔世遺伝で魔技を得るかもしれないが、それも天文学的な確率だ。


「まぁ、要検証だな。ミア、少し作戦会議だ」


「分かったわ」


「それなら俺も混ぜて貰おうか?」


 グリムが平然と俺とミアの話し合いの場に入ってくる。


「グリムは……優秀だけど、これ以上メンバーが増えたら貰える単位が減るだろ」


「ああ、俺は単位目的ではないぞ」


「単位目的じゃないなら、何で勅令受けてるのよ」


 ミアの疑問はそうだが、俺にはグリムの目的が理解出来た。

 それは勅令というあまり出ない課題を成し遂げた者に与えられる勅令と同等、いやそれ以上の価値を持つ名誉だ。。


「名誉か」


「当たり。やっぱり、濡羽は俺と合うよな」


 勅令達成者という価値は、魔法魔術世界に計り知れない価値を持つ。

 勅令とは言わば、九人の魔女が直々に出す課題。つまり、古来よりある魔女の課題だ。

 物語や伝承の中に登場する魔女たちは、自分の力をその者のために使って良いか試すために課題や試練を出したという、それが魔女の課題でありその対価として大いなる力による利益を得る。それが勅令では単位であり、同時に名誉だ。


「名誉って、それ意味あるの?」


「今は無いが、これから生きていく時に役に立つんだよ」


 名誉とはそういうものだ。

 目に見えないが、人の思考にも影響を及ぼすほどの力を持っており、あらゆる人生の転機・選択によっては役に立ち、失うかもしれない。


「分かった。名誉が目的なら、仲間に入れてやる」


「それなら私も仲間に入れた方が良いんじゃないか? この私、セリオ・リュネールを、ね! 仲間に入ってほしいだろ、だけど単位は勿論、全部、私の物だけどな」


「ああ……馬鹿は置いていこうか」


「そうだな」


「そうね」


「ちょ、ちょ待てよ! この私の、私の力が必要だろ!」


「セリオ様、落ち着いて下さい」


 俺はミア、グリムを引き連れモールを後にする。


***


 俺たちは学院にある大図書館で調べ物をしていた。


「やっぱり、最近というか100年前までの記録を調べたけど、隔世遺伝で魔技持ちになった奴は居ないな。そもそも魔族の血を引く者自体が少ないのにここ100年で減っているからな」


「魔技以外であんな力、無いだろ」


「そうだよな」


「私、二人の話に付いていけそうに無いんだけど……」


「そうだ。忘れていた、現場にこれが落ちていたんだった」


 俺は懐に手を入れるが、そこには何も無かった。


「あれ? 無い」


 何度もまさぐるが、やはり、そこには無かった。


「ミア、グリム。多分、取られた」


「「は?」」


***


「濡羽の野郎、私のことを過小評価し過ぎたな」


「盗んだのは俺ですけどね」


 そう軽薄そうな顔をした男が盗んだ首輪をセリオに差し出す。


「これがあの大男が残した痕跡……うん、ただの首輪にしか見えないんだが」


「セリオ様、少しは自分で考えましょうよ」


 メガネを付けた男がメガネをクイっとやりながら、セリオが持つ首輪を見る。


「ふむ……ここに名前が彫られているようですよ」


「何!」


 セリオはメガネの男が指し示した部分を見る。


「ゲ……ゲスト? お客様?」


「絶対に違うでしょ。明らかにペットの名前とかでしょ……ホントにセリオ様はおバカですね〜」


 ギャルみたいな風貌をした女子が、セリオを馬鹿にする。


「う、うるさいな。で、ここからどうするんだ?」


「はぁー、この島で飼われている動物は全て管理局に管理されているので連絡して、この名前のペットを探せば自ずと飼い主とその人の住所も分かりますよ」


 メガネの男の言葉にセリオは目を輝かせる。


「流石、私のボランティアだ」


「ボランティアじゃないので、ちゃんと単位下さいね。名誉は全部、あなたの物で良いので」


「そうですよ。俺は何でも盗むので」


「おバカなセリオ様は私たちが支えてあげるからね」


 セリオの仲間、三人。

 彼らはセリオの友でありセリオに心酔する者たちであり、実習試験でも後半まで残る実力者。そして彼らの固有魔術はセリオを支えるためだけに作られた。彼ら三人のサポートを受けたセリオは濡羽、グリムに匹敵する存在と言えよう


「そうだ。お前たち三人は私のために生きていれば良いのだ」


 セリオだけはその事実に気付いておらず、自分の実力だと思い込んでいるが彼らにとってはそれで良いのだ。敬愛するセリオがそのままで居ることこそが自分たちの生き甲斐なのだから。


***


「盗まれたって……濡羽って重要な所で失敗するよな」


「いや、今回のはマグレだろ」


「運も実力のうちだから、マグレの結果も結果だ。まぁ、俺が居て良かったな」


 そうグリムは立ち上がり、図書館の入り口付近に近づく。


「その首輪を盗んだ相手には覚えがある」


「セリオとその仲間か」


 セリオは優秀だが優秀程度の魔術師だ。だが、あの三人がセリオを超優秀の魔術師まで上げてくる。チーム戦では急に集まって出来た俺たちよりコンビネーションもあって厄介だ。


「ああ。念の為に監視を付けているんだ」


 そうグリムは俺に無線機を渡す。

 俺は無線機から返事を聞く。


【初めまして、濡羽さん。私はシャフハフト・ギバー……グリム・テイカー様の忠実な奴隷です】

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