幕間:四つ目
2年時、大試験、実習試験。
2年の実習試験は1年の時と同じく、結界で囲まれた広大な森林での生き残りを賭けたサバイバルが行われた。生徒の敗北判定は生徒が着用している防護服が許容できるダメージを超えた時と、魔力が一定値を下回った時、そして時間によって縮小する結界の外に出た時だ。
濡羽は今年も、最終結界まで生き残った。
最初は半径15キロの広大な土地で生徒数も数百名ほど居たが、今は半径500メートルほどで生き残っている生徒も自分を入れて10名ほどしか居ない。魔術師と魔法使いは別の会場と内容でやっているのでこの10名は全員魔術師で自分と同じく戦闘が得意な者たちと言える。
そして最終結界まで来ると10分経つ毎に100メートルずつ結界が縮小していく、つまり制限時間は50分ということだ。まだ広い面積があるうちに、戦わないと戦いづらくなるため俺を含む10人は動き出した。
濡羽がその人物と接敵した時には、半数が敗れていた。そして、濡羽が相対したのは去年も戦闘し、ギリギリ勝利した魔術師グリム・テイカー。
「濡羽、去年のようにはいかないぞ」
「お前に負けたら後がないんでね」
何とか今回の実習試験もグリムに濡羽は勝利したが、グリムとの戦いで負った傷が原因で濡羽は最後の一人になることは出来なかった。
そしてグリムは2年時全試験終了時に5000単位ほどを保有し、魔術師の中で学年一位の単位保有数になった。
時間を現在に戻す。
犬歯事件の犯人と思われる大男の登場、そしてグリムの介入。
俺は考えていた。
グリム……目的は勅令達成の単位だと思うけど、何故ここが……? セリオは運だと思うが、グリムは何らかの意図があるはず。
「濡羽……お前を尾行していて良かったよ。やっぱり、お前は私が思っていたように情報屋を買収し、情報統制して他の生徒を撹乱していた。だから、真実の情報を知るお前を私は尾行していたんだ」
グリムは、刃を首元に当てる大男を視る。
「そして、この犯人を見つけることが出来た。感謝しているよ」
犯人を学院に出せば、報酬の単位は問答無用でグリムの物だ。
「お前、三学年で魔術師単位保有数一位のグリム・テイカーか。私はセリオ・リュネール、話が読めないんだが、その男が犬歯事件の犯人なのか?」
「そうだと言っているだろ。 てか、お前は誰だ?」
「だから、セリオ・リュネールだ。お前、何、街中で武器抜いてんだよ!」
俺はセリオの言葉に呆れながら、視線を大男に固定していた。
連続殺人鬼がこんなにあっさり捕まるか? 魔術を行使していないみたいだし……
「貴様ら……」
大男が口を開く。
何故だかエコーが掛かっているように聞こえた。
「学院の魔術師だな」
「ああ、そうだ。大人しくお縄につくんだな」
グリムは睨みながら刃を強調する。
「そうか……なら、死ね」
「ッ——」
グリムが反応する暇もないほど素早く、大男が手を振るった。
その手は毛で覆われており、爪は鋭利だった。
刃を持つ手が切り裂かれ、グリムは短刀を落とす。
引くことなくグリムはもう片方の手に握った短刀を大男の脇腹に容赦なく突く。
「チッ」
しかし、短刀の刃は外套を貫通するのみでそこから先、深く刺さることはなかった。その隙に、大男はグリムから距離を取り、近くに居た女性の首を掴み、壁を背に立つ。
「学院の魔術師ども! 一歩でも動いたら、この女の首を握り潰すぞ!」
「ヒッ、誰か、た……助けて」
女性の言葉と大男の突然な行動にそれを目撃したお客さんたちは一瞬、停止したがすぐに叫び声を上げながら逃げ出した。その声に触発され、目撃していないお客さんたちも逃げ出し、現場に残ったのは濡羽、ミア、グリム、セリオたちだった。
「グリム、何してる」
俺はグリムに近づく。
「五月蝿いぞ、液体がないと魔術が使えない癖に」
グリムはそう、傷口を確認する。
「チッ、まるで獣の爪痕だな。人間なのか?」
「何言ってんだよ? 二本足で立っているだから、人間に決まっているだろ。それよりも、あの不運な女性をどうやって解放するか考えろ」
馬鹿のくせに、正論言うな。
セリオ以外、全員そう思いながらも納得し、大男を監視できる離れた場所に移動し、考え始める。
そして俺は一つの作戦を立てる。
「グリム、突破口は俺が作るから、お前は突撃しろ」
「ああ、お前本当に突破口作る気あるのか? 途中で裏切る気だろ?」
グリムの言葉に俺はすぐに反論する。
「こんな状況でそんな事する訳ないだろ。それにするなら、俺よりもお前だ」
「ハハ、確かに俺はするな。まぁ、分かった……突撃すれば良いんだろ? 俺に合わせろよ」
「上から目線だな」
「え、え? 私も何かしますよ。このセリオ・リュネールにも何か仕事を!」
セリオが急にグリムと俺の間に出てくる。
「「お前は黙ってろ」」
「は、はい……」
「はいはい、セリオくんはこっちに来ようね〜」
馬鹿セリオはミアに連れられ、俺たちとも大男とも離れた場所に向かった。
「タイミングは一瞬だ。出来るよな?」
「俺を舐めすぎじゃないか?」
グリムは信用できる。
無能な味方より有能な敵と言うからな。まぁ、グリムは敵じゃないけど戦って、実力は認めているからな。
俺とグリムは大男の前に立つ。
「それ以上、近づくとこの女を殺すぞ!」
大男は更に首を掴む力を強める。
「きゃー、痛い痛い……死にたくない」
「グリム」
「ああ」
グリムは濡羽を置いて、大男に向かって駆け出す。
「何してる。この女を殺して良いんだな!」
大男が手に力を込めようとした瞬間——
「液体魔術」
大男の手に付いたグリムの血が動き、女性の首を覆い、力を防ぐ。
「何!」
その隙にグリムは分解していた大鎌を展開し、女性の首を掴む手を狙う。
「チッ、邪魔だ」
大男は女性をグリムに向かって手放した。
「あっ」
グリムは女性を受け止めるため、大鎌を下に向け、踏み止まってしまう。
その隙に大男は自分の背後の影に潜り、消える。
大男の姿が完全に消える前、俺は薄っすらと外套の奥に隠れた四つの赤い目を見た。それは明らかに人の目ではなかった。
「どこに行った?」
俺は大男が消えた場所に、何か落ちているのを発見した。
それは飼い犬に付けるような首輪だった。




