幕間:チーム
銀髪の美少年が仲間である友を連れ、歩いていた。
彼の名はセリオ・リュネール。
一級魔術師『吟凛の魔術師』の息子で、濡羽とミアと同じクラス。
そして濡羽に決闘で最も単位を奪われた者だ。
一回目は、ミアに騙されて決闘をして敗れた。
それからは奪われた単位を奪うために、何度も濡羽に決闘し敗れ続け、彼は濡羽に1000単位を奪われた。
「チッ、私が何故、市中を歩き回らなければならないのだ」
これも全て、あの男のせいだ。
黒曜濡羽。
決闘の悪魔の一人で、私から単位を奪い続けた悪者。七家の一家、黒曜家の癖にノブレス・オブレージュを行わない、高貴なる者に連ねる価値のない者、固有魔術もまともな魔術ではない無能。
「隣に綺麗な女子、ミアが居れば我慢できたものを」
そんな者なのに、何故ミアはあの男と共に居る。
彼女のような美しく可憐な者の隣には私のような美男子、つまりイケメンの方が映える。陰鬱な男など、彼女の光を翳らせる邪魔な存在だ。
「セリオ様、勅令を達成し、単位を得ればミアさんもセリオ様に傅くでしょう」
「そうだな。ミアも優秀で美麗な魔術師を好むはずだ」
セリオ・リュネール。
彼は自分に陶酔しているナルシストで、状況を楽観する楽観主義でそして……馬鹿だった。2500単位を得れば、卒業も見えるし、ミアを手に入れられる。やっぱり、世界は私の事が大好きみたいだな。
彼は彼の周囲に居る3人の仲間でチームを組んだ際、こう言っていた。
勅令を達成したら報酬の単位は4人で分けようと。
そう言っていたはずなのに、セリオの中ではそれは消えた記憶で、仲間たちは自分のために無償で行動するボランティアで報酬は自分の全取りだという記憶に書き変わっていた。
「それで情報屋の情報だとこの辺りなんだよな?」
セリオの仲間が情報屋から買った情報。
濡羽の策で勿論、嘘の情報だが彼らはそれを知らずに学院街近くの住宅街に来ていた。
***
濡羽とミアは眞から買った情報を見ていた。
犬歯事件。
それは学院街で一ヶ月前から起きている連続殺人事件だ。
被害者は5名で全員、共通して心臓を爪で掘り返され、首元に深い噛み跡があることから犯人は同一犯であることは分かっているが、学院街を含めたこの島には監視カメラなど設置されていないので犯人を絞り込む事が困難で、一週間後に魔件局の捜査官が来るらしい。
事件捜査専門の捜査官が来たら、生徒たちが太刀打ち出来るわけないので勅令は失敗になる。
つまり、俺たちに許された時間は捜査官が来ても少しの猶予はあると思うが一週間以内に解決した方が確実だと言うことだ。
「眞さんから得た情報は本当に有用だな」
そう俺は、ファイルの最も重要な部分を見る。
被害者の遺体の見つかった発見現場付近で、外套で容貌を隠した“大男“が目撃されている。
明らかにこの人物は犯人か、事件の関係者だろう。
「この大男が犯人なら、簡単に達成出来そうね」
「そうだな。眞は犯人が次に犯行を犯す現場を予測しているみたいだし」
俺は違う資料を開く。
発見現場の多くは人が集まる商店街やデパート付近の路地裏で、ここから犯人は家に帰る者を襲っている事が読み取れ、次に犯人が犯行を犯すとされる場所は今、俺たちが居る。
「本日の閉店は午後十時となります。専門店とレストランでは、営業時間が異なりますのでご注意ください」
俺とミアの前と後ろ、左右を家族、彼氏彼女、子供たちなどが通り過ぎる。
「ここ、何でもあるな……服も飯も、映画館まで入っているのか」
ここはマネーモール。
魔術師名家ゴールデン一族が人間世界にある大型複合商業施設を元に作り、運営しており魔法魔術世界の人口が多い所には必ずある。
さて、こんな人が多い所でどうやって大男を探そうかな。魔術を使えば、すぐに見つけられそうだけど、街中では緊急時以外魔法や魔術を使ってはいけないと元老院と中央魔術境会の法律で定められている。
「ミア、ひとまずこのモールの構造を把握するか」
「え、分からないの? 私、よく来るからだいだい分かるけど……」
「マジで」
確かにミアは俺とは違って交流関係が広く。休日はよく女友達と遊びに行くが、ここに来ていたなんて……
「学院近くだと映画館ここにしかないのよね。濡羽は映画とか見ないと思うけど……濡羽。もし、良かったらな……勅令が終わったら一緒に映画見ない?」
映画、映画か。
俺はそもそも音楽とか物語とか人の作った作品にあまり触れずに生きてきたからな。あっ、でも叔父さんが好きだった『多撃の剣神』っていう作品は読んだことあるし、黒曜家の歴史書も読んだな。
「良いよ。玉には息抜きも必要だしな」
「良かったわ。濡羽は好きな映画のジャンルとかある? 無いなら、勝手に決めるけど良い?」
「あまり映画見たことないから、ミアが決めて良いよ」
濡羽は気付かなかった。
その言葉にミアが思い浮かべ一緒に見ようと思ったのが恋愛映画だと、それも学生モノの。
「話は戻るけど、このモール内で人が通って出入り口が近い場所って検討がつくか?」
犯人もここで犯行に及ぼうとは思わないはず。ここで人を攫って、別の場所でやろうという思考になるはず。
「そうね。このモールの東口は動線的にあまり人も行かないけど、モール近くに住んでいる人が利用するから、その条件に則った場所じゃないかしら」
「分かった。そこに向かおう」
濡羽とミアは移動する。
そして、そこで……
「おい! 濡羽とミアさんじゃないか! どうして、ここに?」
自分の直感に従い、住宅街からここまで移動してきたセリオとその仲間に遭遇した。セリオは目があったと同時に大声をあげ、指差した。
周りの人たちもその大声にセリオの方を見て、そのセリオが指差す濡羽とミアにも視線が向かう。
「え、お前誰だっけ? ミア、分かるか?」
「制服着てるから学院生徒だと思うけど、名前は分からないわ」
「私だよ、私。お前ら二人に1000単位奪われたセリオ・リュネールだ」
「ああ……」
「ここで会った事を後悔するんだな!」
セリオは飛び出し、濡羽に向かう。
しかし、通り掛かった人物とぶつかる。
「あっ、すいません」
セリオは謝罪で、濡羽も流れ的にその人物を見る。
人物は2メートルはありそうな大男だった。
俺は瞬間的にその人物が探していた人物だと気付くと同時に、その大男の纏う死の気配から犯人だと分かる。
「セリオ、離れろ」
「え?」
俺の言葉に、大男も気付く。
その大きな手をセリオに向かって伸ばす。
やむを得ず俺が魔術を行使しようとした瞬間だった。
「動くな」
突如として大男の背後に現れた濃灰髪の人物。その人は大男の首元に小刀の切先を向けていた。
濡羽はその人物を知っていた。
実習試験の時、よく争いギリギリで何とか勝ってきた生徒。
同学年の中で最も単位を保有する魔術師。
「濡羽、やっぱり君も動いていたか」
「グリム。お前もな」




