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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
黒の魔術師と魔王となる少女
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幕間:勅令

 濡羽、ミア、ルナが入学して2年後、3年生時の冬。

 その日、学院中の生徒が湧き立った。

 講義棟入り口近くにある掲示板に張り出された一枚の貼り紙。

 その内容を、その文字を見た生徒は興奮した。

 内容はこうだ。

 “勅令(オーダー)

 全学院生徒に命ずる。

 市中で起きる“犬歯事件“の犯人を突き止めよ。

 1番最初に上記の内容を成した学院生徒には、単位2500を与える。

 久しく出されていなかった勅令。

 その唐突な発令に、生徒たちは驚きながらも順応する。


 個人で挑む者が大半の中、濡羽はその内容を見終えるとある場所に向かった。雪の降る寒空の中、庭園に行く者は少数で誰にも気にされることなく、俺は歩みを進めた。庭園中央近くにある大木の木陰、そこにピンク髪の少女ミアの姿があった。制服の上に学院指定のローブコートを纏っている。


「ミア、勅令は本当だった」


「やったわね。これで……これで……」


 ミアは興奮冷めやらない様子だった

 決闘での単位奪取を剥奪されて以降、俺とミアは頑張ったが3年生の試験を終え、今まで獲得した単位は……俺は4500ほどで、ミアは4000ほどだった。2年、3年に上がって試験の難易度は上がり、獲得出来る単位が減ったため本当に卒業出来るのか怪しくなって来た。

 でも、この勅令を達成して得られる2500単位を二人で分ければ3年生時に獲得しておかなければならない5000単位は達成出来るし、卒業が見える。


「それじゃ、作戦を立てるか」


 ライバルは多い。

 卒業がちゃんと見えるレベルで単位を持っている人は魔法使いだけで、魔術師の多くは単位を求めている。そして魔術師の多くはチームを組んで、確実に取りに来る。俺たちより優秀な魔術師が集団を組むかもしれない。

 それでも、勅令を取るのは俺たちだ。


「さっそく、情報収集に向かうぞ」


 俺は木の下から雪の降る寒空の下に向かおうとする。


「ちょっと待って、濡羽」 


 ミアが俺を呼び止める。

 振り返り俺に少女の体が飛びつく。


「ちょ、ミア?」


 その柔らかい体を密着させながらミアは俺の耳元で囁く。


「絶対に二人で卒業するわよ」


 覚悟の込もったミアの声に、俺も触発される。


「ああ、絶対に二人で卒業するぞ」


 更にミアが抱きしめ、密着してくる。

 そろそろ胸に当たる二つの双丘を意識しそなので離れたいのだが、一向にミアは離れようとしない。


「ミア、離れてくれ」


「もう少しだけ……」


「はやく情報収集に行かないと、先を越されるぞ」


「ヤバいじゃない。早く、行くわよ」


 ミアは慌てて、俺から離れ、木の下から出る。


「待って、俺に一つ作戦がある」

 

「作戦」


***


 俺は勅令が発表された今日まで、何もせず過ごしてきた訳じゃない。勅令が発令された時のために、この島中の情報屋たちとコンタクトを取っており、大金を約束する代わりに勅令に関しては偽情報を売るように頼んでおいた。


 情報屋の多くは、学院を卒業出来なかった者が副業で勅令が起きた時のみ行う仕事で、勅令に関する情報を教える代価にお金を要求する。だから、お金を払うことを約束しているのなら、彼らは雇用主のために動く。


 俺とミアはそんな情報屋を統括し、俺に全ての情報屋との中継ぎをしてくれた人物の元に向かった。彼が居るのは学院近くにある寂れた屋敷で、彼と面識のある者しかその場所を知らず、会うことはできない。


「連絡していた通りに、情報屋たちは動いてくれたか?」


「ええ……動きましたよ。さて君は、いったいどれだけ払ったのか。いやぁ、不思議なものでね、私に噛み付く情報屋たちが犬みたいに忠実でしたよ」


 裏社会情報の王、久世眞(くぜ まこと)はそう濡羽とミアを観察するように見る。ミアはその視線に少しだけ敵意を見せるが、俺の平然と眞と向かい合う形でソファに座る態度に敵意は消え失せる。


「すいませんね。私、人を見るのが癖でして……人って敵意を出す瞬間って、だいたい同じ顔をなさるんですよ」


「ミア、俺の横に座れ。そういう事だから、この人の視線はあまり気にしないで良い。毎回来ても俺にこの視線を飛ばす人だから」


「人というのは昨日と今日、明日で全然違うんですよ。目で見て、その違いを確認するのが楽しんじゃないですか。例えば濡羽さんは前回会った一週間前より、この部屋に入ってきた動作が違った。今日は、無意識に出口を気にしてらっしゃる。それから声、以前は質問される前に答えを用意していたのに今は……ええ、言葉を選んでいる。服装も……今日は整っているし視線も、少しだけ和らぎましたね」


 眞はふっと息をついて、そこで止まる。


「……失礼、つい、癖が出ました。あそこまで言わなくて良かったですね。私が言いたかったのは、あまり人を信じすぎない方が良いという事です。人は誰しも、私ほどではないですが人の事を見ていますから」

 

 一泊置いて、穏やかに続ける。


「それで……今日、わざわざ私のところへいらした理由ですが。勅令——犬歯事件、その件でしょう。ええ、来ると思って今してね。事前に、少しばかり調べておきました。代金は……規程価格で結構ですよ」


 そう眞は表にデカデカと『犬歯事件』と書かれたファイルを俺と眞の間にある机に置く。俺は懐から情報屋の間だけで使える金貨の入った袋を机に置き、ファイルを手に取る。


「ありがたく。貰うよ」


「お買い上げ、ありがとうございます……それとですね、一つだけ。よろしければ、良い情報を差し上げましょうか」


「良い情報?』


「君ではありません。ミア・ファタール、貴方に関する情報です」


「私に関して……良い情報」


「貴方の目標は達成出来ますよ」


「ありがとう、良い情報だったわ」


 濡羽とミアは屋敷を後にする。

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