第80話:二人の幼き誓い
濡羽と友達になってから、私は悲しみと苦しみで心に傷を負っても彼に会えば自然と癒されるようになった。
私はルージュ家の令嬢で家の者との関係は悪かったので友達は今まで居なかった。
彼も私が初めての友達だったらしく、お互いに接し方を確かめ合いながら絆を育んでいった。
「ねぇ、濡羽。大きくなったら何になりたい?」
「大きくなったらか、分からないな。でも多分、家を継ぐことになると思うよ」
彼も私と同じく家の事を嫌っているので家について語ることはなかった。
断片的な情報から彼は魔術師一族の当主の息子で当主になることが確定しているらしく、厳しい修行を叔父の手でやらされてるらしい。
彼は修行から逃げたくてこの森に来ているらしい。
家の事情から逃げている私と同じ逃げている者同士だから仲良くなれたのかもしれない。
「家を継ぎたくないならさ、私と一緒に探索者にならない?」
「探索者? 探索者ってなんだ」
「知らないの! 探索者ってのは大いなる野望を抱きながら迷宮に潜る人のことだよ」
「なんか叔父さんが隠れてやっている賭け事みたいだな」
「全然違うって! 探索者は賭け事と違って冒険が出来るんだから」
私は熱量が込もりながら続ける。
「本や物語で読んだような命を賭けて敵と戦って財宝を手に入れるような冒険が出来るのよ。それって、最高に楽しくて自由だと思わない!」
「その探索者が良いってのは分かったから……近いって」
気付くと私は濡羽に馬乗りになっていた。
「ごめんなさい」
私は急いで退きながら両手で顔を隠す。
多分、頬は赤くなっていた
指の隙間から見た濡羽の頬も若干、赤くなっていた。
「じゃ、明日……探索者に関する本持ってくるから! バイバイ」
「ちょ、ちょっと」
私は恥ずかしさから急いで帰った。
次の日、昨日の出来事を内心考えてしまってドキドキしながら持ってきた探索者の本を見せる。
「へぇー、迷宮には遺産っていう特別な力を持った道具があるんだ」
濡羽は平気な様子で一人でドキドキしている私はバカみたいだった。
「遺産に興味あるの?」
「うん、俺の家は長く続いているけど特別な道具とか何もないから」
魔術師の一族なのに特別な道具がない?
そんな一族もいるのかな。
「じゃ、昨日言ったこと考えてくれる?」
「昨日、言ったこと? 何かルナ、言っていたか」
「だから、大きくなったら私と探索者にならないってことよ!」
「探索者になるってことはあの家から逃げられるってことだよな」
「うん」
探索者は命を賭ける特性上、家から離れてなる者が多い。
「それなら良いな。あの家とおさらばできて、ルナと一緒に冒険できるなら俺が言うことはないよ」
濡羽と親しくなって思うが、彼は自分の思っていることを何も考えずに恥ずかしげもなくいうところがある。
大きくなってもこの調子なら多くの女性を惚れさせてそうで、心配だ。
まぁ、それで友達が増えても彼の初めての友達で一番の友達は永遠に私だけどね。
「探索者になるなら、迷宮は危険だから強くならないとね」
私はふと濡羽の身長が私と同じ8歳なのに私よりも低いことに目がいく。
「私は魔法使いだから大丈夫だけど、濡羽は魔術師で私に身長でも負けてるから足手纏い確実ね」
「言ったな。大きくなる頃には実力でも身長でもルナより上に行ってやる」
「行けたら良いわね」
友達で大きくなって、探索者の相棒になって、濡羽が私を守れるようになったら……
母と印象に残っている会話を思い出す。
「どうしてお母さんはお父さんを好きになったの?
「うん、そうね……恥ずかしいけど」
母は照れながら話し始めた。
「私が探索者の頃、迷宮でドジしちゃって迷宮の最奥に落ちてしまったの。そこはパーティーメンバーのみんなでも助けに来られない場所でもうダメだと思っていた時に、その事を街で知ったお父さんが助けに来てくれて、その時あの人に惚れちゃってそこから猛アタックしたのよ」
母は優しい笑顔を浮かべながら私を撫でる。
「ルナもいつかそういう人に会うことになるわ。この人だって思ったら、その人に全力でぶつかって何があっても惚れさせなさい」
私は母さんみたいに猛アタックするような勇気も気概もないから、徐々に惚れさせるわ。
友達から探索者の相棒になって、そこからこの人の恋人になって結婚する。
長いかもしれないけど濡羽の隣に居れるのなら苦じゃないわ。
「濡羽、絶対に一緒に探索者になりましょう」
私は誓うため、小指を出す。
「ルナ、絶対に一緒に探索者になろう」
濡羽は自身の小指と私の小指を絡める。
幼い子供の口頭での誓いだが、私にとってはどんな事よりも大事な誓いだった。
徐々に惚れさせるつもりだった。
そう思っていたけど——結局、私は何も出来ずにいた。
そんなある日、私は家を抜け出していることがバレ、罰として一年ほど軟禁されてしまった。
一年後、あの森に何度も行ったが濡羽と会うことは出来なかった。
いろいろなことがあって学院に入学すると濡羽の姿があった。
その時、濡羽が黒曜家の人間だと知ったし彼の隣には織可さんとミアさんの姿があった事もあり、私は近づかず彼の方から気付いて近づいてきてくれる事を期待していたが彼は六年待ったのに一度も近づいてこず何の関係もなかった。
やっと再開して六年間待ち続けて、それでも一度も名前を呼ばれなかった。
あの森での誓いは、私だけのものだったのだろうか。
私は嫌われたと思ってだいぶ凹んだけど、色々あって改めて彼と友達になれて良かったし、私のことに気付いていないことを知った。
まぁ、昔のことだけど私を覚えていたのにまた凹んだけし、昔思っていたより少ないけどミアさんは確実に濡羽のことが好きだ。
まぁ、ミアさんの聞いた話だと私は濡羽の初恋なので、私が本気を出せば負ける要素はないのだけど。
でも今、戦いながら気付いてくれたら良いなと思い、口に出す。
「身長は大きくなったけど、実力でも私に勝っているのかしら?」
濡羽は少しだけ驚いた表情をとったが、すぐに落ち着き答えた。
「足手纏いは嫌なんでね」
私は戦闘中なのを忘れて涙が出そうになる。
——やっとだ。
やっと、この人は私に気付いてくれた。
ダメよ、ルナ。
抱きつきたくても、イチャイチャしたくても抑えるの。
今は戦闘中、勝った後のご褒美として受け取れば良いのよ。
だから、今は全力で濡羽に勝つ。




