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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第79話:理由、出会い

 ——どうして、私は探索者を目指すようになったのか。

 ふと、昔の記憶が脳裏に蘇る。

 母が語ってくれた冒険譚に憧れた——確かにそれも理由の一つ。

 けれど本当の理由は、もっと単純で、もっと切実で……

 私は「魔法使い」という存在が嫌いだった。

 魔法使いは強い。

 強過ぎる力を持つがゆえに、己の主義主張を他者へ当然のように押し付ける。

 私の家——フェメノン・ルージュはその典型だった。


「優秀な血を取り入れていけば、我らは始まりの魔女すら超えられる」


 二代目当主が掲げた血統主義は、長い年月をかけて家を歪ませていった。

 しかし、その象徴であった初代からの赤い髪と瞳は私とシェリーの代で途切れてしまった。

 赤くない髪、赤くない瞳。

 それだけで、存在を否定された。


「赤ではない者に価値はない」


 それが私が生まれて最初に押し付けられた理不尽な主義主張だった。

 胸がひりつくほど痛かった。

 私とシェリーはただ、生まれただけなのに。

 何故、そんな事を言われなければならないのか?

 そのことがあって私は髪を赤に染めた。

 叔父の一言も私に深く突き刺さった。


「魔法使いは崇められ高められる存在であり、どんな事をしても良いと世界に許されている」


 傲慢という言葉すら生温いほど残酷で身勝手な考え方だった。

 そんな言葉をまにうけ己の力に酔った結果が私たちより先に生まれた魔法使いたちだった。

 自分を世界の全てだと定め、他者を顧みる事なく抱くのは侮蔑か嫉妬。

 人というより獣に近い生き方だ。

 家には獣しか居らず、探索者になりたいと一言でも言えば食われるのは目に見えていた。

 故に誰にもこの思いを言えずにいた。

 そんな頃、幼少の魔法使いの精神状態を安定させるためにと精神科医の元に送られた。

 精神科医は魔法使いだが、魔法使いらしくない人物だった。

 獣ではなく人のように振る舞い、傲慢ではなく他者を顧みることの出来る人だった。

 私はこの人ならと、今まで思っていた事を吐露した。

 精神科医は黙って聞き、私が言い終えると静かに始めた。


「何故、人は特別という物を作るのだろうか? と私は疑問に感じたことがあってね。人は上がないと生きていけないんだ。人にはどれだけ努力しても限界がある、それを自覚しながらも目標のために頑張ることは辛く苦しく死にたくなってしまう。死を覚悟した時、人は死にたくなくて諦める理由を作り出す、それが特別だ」

「自分には才能がなかった。だから、これだけ努力しても目標を達成出来なかった、才能がないから諦めようってね。『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という言葉があるけど、これはあっているけど少し足りない部分がある。天は人の上に人を造らず、しかし人は人の上に人を造るってね」

「魔法使いは人の上に造り出された人の典型だ。才能があって特別だという言葉で括り付け縛り付けられる。縛り付けられた魔法使いは不自由な生き方を強制させられる。君は魔法使いは獣だと言ったが、その獣を生み出したのは獣以上に残酷な人だ」


 精神科医はそこから私に教え諭す。


「例え他者に、人に縄を掛けられ、鎖で縛られて獣として生きる道を強制されても君はその道を行かず、鎖を壊し、縄を外して自分の道を生きる事をお勧めする」


「その生きる道が獣でもですか」


「獣でも、不自由な獣と自由な獣は違うだろ? そこに君の意思があるなら私はその道を行くことを薦める。君は何かなりたいもの、したいことはあるかい?」


「……あります」


 震える声で答えた時、胸が熱くなった。


「そうか……なりたいもの、したいことがあるならそのために魔法を使う魔法使いになりなさい。それこそ魔法使いらしいからね」


 私は精神科医と話した後、本気で探索者を目指すことを決意した。

 その第一歩として、家の魔法使いにそのことを伝えようとした。


「私は……」


「何だ、何を言いたい?」


「私は立派な魔法使いになります」


 ……違う。

 言いたかったのは、それじゃない。


「そうか。あの女みたいにはなるなよ」


 私は家から逃げた。

 探索者になりたいという目標から逃げたのだ。

 反対されるのが否定されるのが怖かった。

 母と同じ目に合うのが怖かった。

 森の中、誰もいない大きな木の下で、私は膝を抱えて震えていた。


「死にたくない……」


 8歳の子どもらしい言葉が、ポツリと漏れた。


「何で泣いてるの? 大丈夫だよ、僕が守ってあげる」


「嘘よ。誰も私のことなんて……」


 誰かが私の頭を撫でる。


「大丈夫、大丈夫、涙を流しても良いよ。悲しかったら悲しんでも良いんだ」


 私は初めて人に自分の行動を肯定された。

 思わず顔を上げるとそこには黒髪黒目の同年代と思われる少年が居た。


「もう泣き止んだの、悲しくない?」


「うん、もう大丈夫」


「そう、元気になってよかった」


 少年は笑顔で嬉しがっていた。


「僕は濡羽、君は?」


「私は……」


 家名を言えば怖がらせるかもしれない。


「私はルナ」


「ルナ。良い名前だね、友達になろ?」


 濡羽は手を差し出す。

 私はその温かく優しい手を握る。


「……ええ、友達になりましょう」


 それが、私と濡羽の出会いだった。

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