第77話:決勝戦
試合会場に外套を纏う二人の姿がある。
「両者、準決勝を終え、そこで負った傷を癒やし、魔力も全快しました」
実況は続ける。
「選手紹介の場で魔術師初優勝を宣言し、そこから怒涛の勢いで勝ち進めた黒の魔術師。彼は宣言通り、魔術師初優勝という栄光を掴むのか?」
「こちらも選手紹介の場で魔王打倒を宣言し、魔王を打ち倒した朱の魔法使い。彼女は魔術師初優勝を阻むことが出来るのか?」
二人は外套を取り、空に投げる。
「紹介しましょう」
「黒水の魔術師、黒曜濡羽ァ!!」
「銀針の魔法使い、ルナ・フェメノン・ルージュ!!」
歓声と拍手が二人を包み込む。
「2000年前から争われてきた討論が今、決着する」
「魔術師と魔法使い、どっちが強いのか? それは最後に立っていた者が証明する!」
「互いに健闘を祈り、始祖に神話の戦いを捧げると誓って……ファイト!」
***
「黒水、『雨暈』」
濡羽の背後に黒色の大きめな傘が生まれ、彼の周囲だけ影に包まれ、雨が降る。
俺は最初からインクを解放し、全力で行く。
ルナもそうだろうという考えのもと距離を詰める。
「『潜沼』」
すかさずルナは試合場全てを沼化させる。
が、それは読んでいた。
俺は黒蹄で沼に嵌ることなくルナの側まで来る。
「黒雨、『剣粒』」
降っていた雨粒の一つが俺の手元で小柄な短剣に変形する。
俺はそれを掴み、ルナに振るう。
「銀刃ッ」
寸前で生成された魔法杖の魔力刃で防がれる。
流石に防ぐか。
「『浮上』」
先の試合で潜らせた長剣や槍が射出される。
「黒雨、『暈蔽』」
傘が回り、盾のようになって防ぐ。
雨暈、傘下での液体魔術の操作強化や天蓋による防御などを行う万能サポート魔術。
彼我見との戦いの後に生み出した物で、想定では絶突も耐えられる耐久性だ。
「もっと派手に行かないか? ルナ」
「ええ、良いわよ。その天蓋砕いてあげます」
ルナの魔力が高まる。
「潜性魔法『深波』」
先の試合で潜らせた全ての武器が今、この世に浮上し、一人の魔術師に向かう。
それらは銀色の魔力を纏っており、天から降り注ぐ吹雪のようだった。
濡羽は吠える。
「液体魔術、黒海、『天暈』」
濡羽両手を天を支えるように突き出す。
傘を構成するインクを簡易的に暴走させ、増殖速度を上げることで傘は大きく広がり、天を覆う天蓋になって吹雪を迎え撃つ。
武器群は容赦なく天蓋にその刃を突き立て崩さんとするが、崩せずにいた。
「どうした、ルナ。魔王に勝った実力はその程度か?」
「いいえ、まだよ」
世界から齎される銀色の魔力と魔法使いとして生来持つ朱色の魔力が噴出し、混ざり合う。
武器群が赤い残光を引きながら一点に集い、収束、合体していく。
朱銀色の魔力に覆われ、弾ける。
「『魔群朱銀閃輝』」
閃光が天蓋を破り、破片が散る。
黒い影が、破片を足場にルナに迫る。
「あれを砕くなんて、本当に凄いよ。でも魔力を放出し過ぎたな」
黒い影こと濡羽は魔術を行使する。
「黒水、『黒槍穿』」
濡羽の周囲に生まれた無数の槍がルナに向かって射出される。
「『潜水』」
ルナの姿が空中で潜り消える。
そしてその姿は俺の頭上で浮き現れる。
魔法杖を短く持ち先端から出る魔力刃を軽く落下と同時に振るってくる。
「黒海、『深水剣』」
先と同じようにインクを簡易暴走させるが同時に剣の形に凝縮させる。
目指す姿は彼我見がかつて持っていた黒曜家の宝剣『無曜剣』。
深水剣で魔力刃を受ける。
「近接勝負と行こうか!」
魔力刃を返し飛ばすことで体勢が崩れたルナに詰め寄るように刃を振るう。
刃とは反対側の魔法杖の棒部分で突かれ、回避を余儀なくされる。
「くっ」
あの魔力刃を生やした魔法杖は剣というより薙刀と思った方が良いな。
手首のスナップと短柄を効かせ、刃の軌道を変え、突き抉るようにルナの手を狙う。
俺とは違い空中で移動する手段を持たないルナは現状、落下している。
落下していてはこの突きを防ぐことも回避することも容易ではなく、魔法を行使する時間もない。
「チッ」
ルナは杖から軽く手を放す。
魔法杖は支えを失い真っ直ぐ下に落下していく。
しかし、ルナは鋭い反射神経で杖の一番下を掴む。
そして俺に向かって振り下ろした。
長い魔法杖の振り下ろしは回避を許さず、深水剣を持たない方の手で防ぐしかない。
「ぐっ」
腕で魔法杖を受けた衝撃で深水剣の狙いがズレ、ルナの手から離れた位置に刃の先端は向かう。
だが、まだ攻撃出来る。
「くっ」
受けた魔法杖をズラし、下に落とす。
黒蹄を使い上にステップすることで、深水剣の刃先がルナの首を捉える。
俺は躊躇なく振るうが、それよりも早くルナが俺の剣を持つ手に触れ魔法が行使される。
「『溺潜』」
水に浮いているような感覚と同時に青一色の世界が目の前に広がる。
これはミアとの戦いで使った対象を強制的に三次元と二次元の狭間に潜らせる技。
周囲には何も浮いてない。
何だ、この意味不明な攻撃は……
「ごふぅぅくっ」
気付くと現実の試合会場の地面に戻っており、魔法杖の魔力刃が背中を貫き腹の前でその銀刃を見せていた。
背後から声が響く。
「私の勝ちよ、濡羽」




