第76話:復讐
私は初めて妹の、シェリーの心の内を聞いた気がした。
姉でありながら妹の事を私は何も考えないで生きてきた。
これは姉としての役目を果たせなかった私への罰だ。
「姉さん、うちを殺して……裁いて」
そうシェリーは己の首を差し出し、抵抗の意がないことを示すように魔法杖を地面に落とした。
私は杖の先端をシェリーに向ける。
「貴方の罪を裁く」
早く妹に真実を話していれば良かった。
そんな一つの行動を行なっていればこうはならなかっただろう。
「ありがとう、姉さん。やっと向こうへ行ける」
シェリーは目を瞑り、己の首に死という刃が落ちることを切に願う。
キングクラウンの試合で対戦者を殺すことは罪でない。
敗北ではなく死を受け入れたい者が昔は多かったためだ。
「死ね」
これは何もしなかった私への復讐。
私はその手でシェリーを殺した。
〜〜〜
「え?」
いつまで待っても死が訪れずシェリーはうずうずしていた。
目を開いた瞬間、額にデコピンされた。
「イタッ」
シェリーは姉のルナの顔を見る。
「今ので悪事を働いたシェリーは死んだ。今からは姉を慕う普通の妹になりなさい」
姉の言葉にシェリーは呆けた顔をする。
「え、許してくれるの? 私は母さんと父さんを殺したのよ、姉さんも苦しめて……」
「シェリー、それは真実じゃないわ。私が真実を教えるわ」
私はシェリーに今まで教えていなかった真実を教えた。
「うちのせいで死んだわけじゃない……?」
「母さんと父さんを殺したのは今まで罪悪感を煽り、貴方を脅していた長老会の連中よ。私が魔王になったら長老会を潰すつもりだったから貴方を利用したのよ」
シェリーは突然、涙を流し始めた。
「わぁぁうわぁー……良かった。うちの、せいで家族が壊れたと思って……っ、ひっく……みんなを、苦しめたのは自分だからって……っ、ひっく」
私はシェリーを両手で包み込み、抱く。
「シェリーは私の妹で、父さんと母さんの大事な娘だよ。愛してるよ、シェリー」
「うちも、姉さんのこと……愛してる」
シェリーは嗚咽を漏らしながら、魔王である事やこれが試合の最中である事を忘れて一人の少女のように姉の腕の中で涙を流した。
その様子に審判は判断を下し、実況は小さな声で宣言した。
「準決勝第二回戦、勝者はルナ・フェメノン・ルージュ」
試合が終わり、待機室に戻ってやっとシェリーは泣き止んだ。
シェリーはルナの膝の上でぐっすり眠っていた。
全ての枷からやっと外れ、自由の身になった。
その待機室に一団が突撃した。
「シェリー! よくもルナに負けよった上にキングクラウンで泣くなど貴様は魔王の風上にも置けぬ!」
「そうだ。誰のおかげで魔王でいれると思ってる!」
長老会のジジイ集団だ。
「久しぶりね、皆さん」
私は満面の笑みで接する。
「ルナか……魔王に勝って嬉しいか」
「貴様らは結局、穢れた血だ。魔王になどしなければ良かった」
「そんな権限、長老会にないでしょ。魔王はあの戦いで一番強い者がなる、それが昔からのルールでしょ」
「ああ、そうじゃが。魔王になった後なら我々の力で魔王を辞めさせるなんて簡単なんじゃよ。シェリーは悪事を働いているから尚のこと簡単じゃ」
「それは貴方たちがやらせたことでしょ?」
「そんな証拠はないじゃろ。嘘を申すでない」
私は一度、呼吸を挟んでから言う。
「証拠ならあるわ。貴方たちが私の両親を殺した件とシェリーにさせていた事についての証拠が」
そう私は長老会の連中が一目見れば証拠だと分かる書類を見せつける。
「な、何故それを貴様が持っている!」
「魔王になって貴方たちを裁くために用意していた物と問題解決室と魔件局に提出するために最近の悪事を調べて用意できた証拠よ」
問題解決室は明確な証拠プラスアルファ、元老院に関する悪事を載せておけば動いてくる。
魔件局も動かすために魔術師被害者の情報もある。
二つの捜査機関が動けば、否定することは出来ない。
「それでは問題解決室と魔件局の人。お願いします」
私の言葉に部屋の外から入ってきた捜査員が長老会の面々を拘束する。
「な、何をしている。我々はフェメノン・ルージュの長老会であるぞ」
「そうじゃ、無礼だ」
「犯罪者に無礼もないだろう。全員、しょっぴけ!」
長老会の面々は捜査員に連れていかれる。
「待て待て、あそこで寝ているシェリーも悪事を働いているぞ」
「その件はシェリー殿の当時の精神状況から利用されたと判断し、無罪だ」
「な、そんな事が認められるか!」
長老会の人間は全員、連れて行かれ待機室にはルナとシェリーの姿だけが残った。
これで私の復讐も終わり、復讐に生きる人生から探索者になるための人生にやっと行ける。
「姉さん……」
シェリーは頭を起こす。
「起きてたの?」
「うん……ありがとう」
私はシェリーに微笑む。
「感謝される謂れはないわ。姉が妹のためにしたことだから」
部屋の扉が開き、濡羽が入ってきた。
「おめでとう、ルナ。気絶してて見てなかったけど勝ったらしいな」
「ええ、勝ったわ。まぁ、勝負で勝ったとは言えないけど」
その時、ルナは思い出す。
あの人って絶対に濡羽のことよね。
濡羽のことだから意図せず女性を惚れさせると思うし、さっき隣に座ってたし。
ルナはシェリーの様子を見ようと顔を向けるが、そこにはシェリーの姿はなく。
「先輩〜〜うちのこと心配して来てくれたんですか?」
濡羽の胸にもたれ掛かっていた。
「な……!」
なんとあざとく素早い手口。
「シェリーさん、離れてくれます?」
「後輩なので呼び捨てで結構ですよ、濡羽先輩♪」
ルナはその様子に頭を抱えた。
またライバルが増えたってミアに文句言われそうね。
でも、今のシェリーは幸せそうで……私は嬉しかった。




