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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第74話:誕生、終局

 十大魔法が最上位たる理由は、最も最適化され強力になった以外にもう一つある。

 魔法は概念に干渉することが出来る、これは一般常識であり世界の理だ。だが、最上位魔法はその理を超え、概念を手中に収め、特定条件下にて星外の理を星内で起こすことが出来る。

 その特定条件は魔法によって変わるが、顕性魔法と潜性魔法においては魔奥の行使だ。


「『儚く移り変わる現象の世界を今日超える』」


 シェリーの詠唱に被せるようにルナも詠唱を続ける。


「『香りよく色美しく咲き誇っている花も、やがて散る』」


 光子の粒が膨張し、空気が高熱で震え、シェリーの影が二重に伸び揺らぐ。

 空気の流れが逆転し、ルナの髪がふわりと後ろへ引かれる。


「『浮ついた夢を見ず、酔ったような生涯を生きず』」

「『無限ゆえに有限に憧れ、原理を離す』」


 周囲の音が遠のき、光子が明滅する。

 そして光子の周りに、原子の軌道のような極細の光輪が出現、回転を始める。

 その影響下、砂粒や小石が浮き上がる。


「『この世に生きる私達とて、いつまでも生き続けられるものではない』」

「『有限ゆえに無限を望み、真理を掴む』」


 視界の端にある物質が薄いノイズとなり分解され、世界が波紋のように揺らぐ。

 ルナの足元に幾何学的な崩壊の紋様が出現し、中心へすべり落ちるように沈む。

 低重力のような浮遊感が生まれる。


「『空宙()は稀に消滅・変化・生成し、永遠に止まり忘れる』」

「『死あるものが必ず生まれるなら、始の空を離す』」


 シェリーの背後が深宇宙のように黒く沈み、光輪が崩れ、量子揺らぎのようなノイズ光が散る。光子が卵殻のようにヒビ割れ、中から強烈な白光が漏れ出す。

 空間が低く振動する。


「『万物は常に生成・変化・消滅し、一時も止まることを知らない』」

「『生あるものが必ず滅びるなら、星の海を掴む』」


 ルナの背後に明滅する星空が生まれ歪み、小石や瓦礫が逆に落ちる。空間にヒビ割れたような黒い筋が走り、背後の星々がその筋へと収束を始める。

 重力の唸りのような低い振動音が響く。


「『命よ、命よ、貴方を側に置き離れぬように』」


 シェリーの体を中心に、光線が螺旋状に立ち昇る。


「『星よ。星よ、私を遥か彼方還られぬところまで』」


 ルナの頭上に小さな黒点が生まれ、周囲の光がその中心へとゆっくり曲がる。


「「『願いは星に、希望は夜に、誓いは夢に』」」


 光子が臨海に近づき、目に見える震えが全体を走る。影は消え失せ、シェリーの姿は光に包まれる。

 黒点が拡大し、背後の星空が全て斜めに引き伸ばされていく。風が全て中心へ吸い込まれる。


「「『今こそ宙に——』」」


「『——手を翳し、開かん』」「『——翼を広げ、旅立たん』」


 シェリーが手を掲げた瞬間、白光がシェリーの掌に集束し、世界は無音の白へと沈む。

 同時に、周囲の空気は赤い残光に染まり、星雲のような光が揺らめいて世界を歪ませた。

 白光は全てを無に還すように脈動し、赤い残光は空間をずらすように流れ、二つの色は触れ合う寸前で震え合いながら決して混じらない。

 ただ一人、ルナの周囲だけが赤い光を弾き、空間が楕円に歪んでいた。


「『終われ終われ、一重の停滞、無の闇を見ろ』!」


「『巡れ巡れ、二重の回転、銀の川を渡れ』!」


「『開闢を告げ拓かれる(スター・オーシャン・)原始の星海(ノヴァ)』!」


「『終末へと誘わん(スター・オーシャン・)宇宙の真理(ウェトゥス)』!」


 白光が耐えきれず爆裂し、閃光が一気に膨張。

 眩い波動が万物を押し出すように広がり、魔術・魔法・空間・構造が光に呑まれ無から再構成される。

 黒点が渦状の収束点となり、星々の光跡が二重螺旋を描きながら落ちる。

 全ての光が中央一点へ吸い込まれ、音も色も、質量の概念すらも消え、世界が折り畳まれていく。

 晴れ上がりと曇り始めがぶつかる。

 それは膨張宇宙論における、宇宙開始時の爆発的膨張。

 それは宇宙の終焉の一つであり、宇宙の全ての物質と時空が、無限の特異点へと収束する終焉。

 創世、終末。

 物語の始め、物語の終わり。

 誕生、終焉。

 事の発端、事の終局。

 全ての起こりと全ての収まりという相反する理の果て……


「「はぁはぁ」」


 理は終わり、二人は血だらけで息も絶え絶えになりながら杖を支えに立っていた。

 こうなる事は二人とも分かっていた。

 分かっていたからこそ、やったのだ。

 赤色の髪は元の白銀へと戻っており、魔力はあるが魔奥による冷却時間で二人とも魔法を行使することはできなかった。

 だから、語らう。


「姉さん、なんで私の邪魔をするの? 私が嫌いなの?」


「え?」


 妹の予想できない言葉に姉は驚く。

 姉の顔を見ながら妹は続けて紡ぐ。


「魔王になったのも、姉さんに勝ったのも……全部、家族のため、姉さんのため」


 妹は、魔王は、多くの観衆が居る中、名誉や地位など捨て、一人の少女のように涙を流し始めた。

 

「私、知ってるよ。私のせいで母さんが亡くなったこと……」


 観客は沈黙し、存在が二人の世界から消えていく。

 姉と妹は、過去を、現在を、語らう。

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