第7話:方法
魔件局の捜査官は基本、魔術師で構成され、二人組で行動する。
一人はベテラン捜査官で一級魔術師が多く、もう一人は若手捜査官で三〜二級が多い。
「あの捜査官らが掴んでいる情報が禁言以外にあったら、もう追い付くのは無理だぞ」
「やっぱり、あれは禁言だったか」
「禁言でござったか」
「禁言って?」
ミアの言葉に俺は頭を抱えながら説明を始める。
「取材の時、急に生徒たちが揉め始めていただろ」
「確かに、短気だなって思ったわ」
「あれは禁言と呼ばれる口封じの術で別名、悪魔の契約とも呼ばれている。その由来は術で封じられた事を意識しようとすると書き換えられ、それが原因で揉めてしまうからだ。禁言の厄介な所は術者が解除しない限り解けないし、記憶に残っている名称も書き換えられてしまう点で無理やり解こうとすれば施された者が死んでしまう」
「それを捜査官たちが掛けた?」
「いや、掛けたのは話題に出ていた組織だろう」
「ああ、WWとか言われていたのね」
「そうだ。俺の読み通りならその組織が生徒行方不明事件に一枚噛んでいると思う」
「確かに怪しい組織だと思うが、決めつけるのは早計じゃないか?」
織可の言葉に俺は理由を答える。
「いや、俺はここに来るまでその組織の事を尋ね回ってみたんだが、分かったのは一ヶ月前にその組織が活動を始めただけ、でもそれで合点がいった。ミアの話が合っているなら行方不明者数が増加したのはここ一ヶ月だから丁度、合う」
「理由には納得だが、ここからどうやって情報を入手していくんだ。捜査官達の方が俺たちより一日の長があるのは明らかだ」
「ああ、だから生徒にしか出来ない。いや、俺にしか出来ない方法を取る」
***
シュッツは学院長に用意された部屋でクリスと相談していた。
「記者になって情報収集ってのは良い案だったな」
「せやろ? だからワイのこと一人前って認めてクレメンス」
「いや、早い。それじゃ、今まで得た情報を元に立てた君の推理を聞かせてくれ」
「はいはい、とりま情報まとめたンゴ」
クリスはそう推理披露を始めた。
「まとめるとやな、ウチら捜査官に渡されたネタによると、行方不明の生徒は全員魔術師で、不良かボッチ系が多め。んで夜中徘徊の常習犯。当人たちの情報はスカスカ過ぎて草。せやから外堀から埋める方向にシフトして、学院街に絞って学生らに聞き込みしたんよ。そしたら怪しい組織の噂と、禁言食らってる生徒を多数確認。つまり生徒を誑かして最後にぶっ壊す系の組織が学院街に巣食ってるって推理できるんやな」
「う〜ん、80点」
「え、足りんかったとこあるん? KWSK」
「そんな事は分かり切っている事だ。後、学院側から提出された行方不明になった女子生徒の魔力痕跡と白い短刀、そして謎の液体。これらを生かしきれてない」
「じゃあさ、シュッツさんはその証拠からどんな推理をしたん? 気になるンゴ」
「液体は分からなかったけど、魔力痕跡と白い短刀から分かった事は二つある。この魔力痕跡は女性生徒当人が描いた物だが、怯えと震えが見られるから脅されて書かされた物だと言う事、白い短刀は犯人の持ち物である事は確実だけど何らかの儀式の媒体であるという事かな。君もこのくらい推理できるようになるさ」
「おっけ、精進するわ! がんばるで〜〜」
「さて、ここから俺たちが出来る事は今学院に提出を頼んでいる行方不明になった生徒の残っている行動記録が来る事を待つ事だけかな。それにしてもこの事件、六年前に起きた事件と同じ匂いがする」
「え、9年前って……ブラッディー家殺害事件のことちゃう?」
「ああ、あの事件と同じ復讐と怨念の匂いがする」
***
俺とミアはある場所に向かっていた。
織可とタクオは俺の判断で寮の部屋で待機している。
「ねぇ、やっぱり私より織可の方が良かったんじゃない?」
「いや、ミアの方が彼女の調子も上がってボロが出るかもしれない」
俺とミアはアイシスの部屋の前に立つ。
玄関扉の側にあるインターホンを押す。
「濡羽です。アイシス先生に話が会って来ました」
「はいはい、濡羽君。ミアちゃんと一緒にどうしたの? もしかして失敗しちゃったかしら? 先生、緊急××薬持っているけど使う」
「違います。ここでは話し難い事なので入れてくれますか?」
「そうよね、下の話は廊下でする物じゃないわ」
玄関の扉が開き、アイシス先生の部屋に入る。
リビングで用意されたお茶を一口飲むと俺はアイシスにその言葉をぶつける。
「一ヶ月前までの生徒の行動記録を下さい」
俺にしか出来ない方法、寮母であるアイシス先生から捜査官よりも早く行動記録を入手する。
「あら、もしかして勅令の件? まだ、公表されていないハズだけど……」
その笑顔はいつもと変わらなかったが故にどこか不気味で恐ろしかった。




