第66話:死闘
俺は拳を構え、インクで補強した右足を確認しながら後悔していた。
魔奥を発動して鱗で覆ってから魔術使わないって言った方が良かったな。
まぁ、後悔しても遅いし、全力で事に掛かりますか。
「黒曜秘伝——」
一々、ブランを殴る時に魔力で骨身を覆うのは慣れてないから面倒だ。
だから攻撃時に黒曜秘伝を使わずに黒斑、黒羽レベルの攻撃力を出すしかない。
こいつを使うのは久しぶりだな。
その技は黒曜秘伝を会得した者なら初手に使い、勝負を自分有利に進めるための布石にして定石。
だけど、使えば勝負が楽になるからと使ってこなかった技。
「『黒痣』」
濡羽の身体中に黒色の線が走る。
魔力を血管に流すことで血圧上昇、心拍数増加などの身体強化を施す。
その際に血管内の魔力が外からは黒く滲んで見える。
「その姿は……」
ブランが言い切る前に、俺は駆ける。
左足を軸に黒蹄で生成した魔力板を蹴りながら距離を詰める。
俺の拳が届き、ブランの手が触れられる距離まで来る。
「白染め!」
手が伸びる。
掌を避け、肘を起点にズラし、俺の拳を滑り込ませる。
胸に打撃を叩き込む。
「くっ」
もう片方の手が伸び、振るわれる。
半歩距離を取りながら屈み、回避する。
そして足を伸ばすと同時にブランの顎に掌底が入ったと思った瞬間。
ブランの頭が後ろに倒れ、回避する。
距離を詰めすぎた俺を両手で包み込もうとしてくるが、俺は寸前で飛び退き、距離を取る。
「お互いに危なかったですね」
いつもより磨きの掛かった白色の双眸が俺を見る。
「そうかもな……」
白究基礎理論『白演』の応用理論『白眼』。
動体視力の情報処理能力を向上させ、世界をゆっくり観測する。
アレを使うとなるとカウンターも警戒しないとな。
「少し油断してません、白草」
また足元の白化した地面から白色の草が生え出し、俺を攻撃してくる。
出方が分かっていたので上に逃げ、回避する。
この白色の草が生える高さは2メートルほどで限界だな。
来ると分かっていれば回避は容易だが、攻撃している最中に来たら厄介だ。
「そろそろ終わりにしましょうか……『白陣』」
ブランを中心とした半径2メートル圏内に白色の魔力が漂い出す。
知らない理論だな。
近づくのは避けた方が良さそうだけど、近づかないと殴れない。
「白純魔術『白妙』」
ブランの手の中に純白の槍が生まれ、彼はそれを濡羽に向かって投げる。
槍を避けながら思考する。
終わりにしようと言っておきながら俺の体力と魔力切れを狙った持久戦が狙いか。
いや、同時に短期決戦も狙いか。
生憎、持久戦は戦っている気がしなくて嫌いなんでね。
「そっちがその気なら攻めてやるよ」
純白の槍が投じられる中を抜けて駆ける。
少しづつ高さを下げながら白草を警戒する。
案の定、白草が生えてくるが回避しながら駆ける。
「チッ、想定内だけど」
白陣の影響範囲内に踏み入れた瞬間、魔力板の生成が困難になり崩れる。
俺は白化した地面に降りた瞬間から襲ってくる白草を回避しながら侵食を恐れ、最高速度を維持しながら駆ける。
ブランは逃げるように距離を取ってくる。
「逃げるなよ」
俺のほうが速い。追いつける。
拳が届く距離にブランが収まった瞬間に拳を振るう
だが、未来が分かっていたかのように背後からの攻撃は避けられる。
白瞬。白眼を極限まで高めることで、1秒先の未来を予測する。
そして隙を晒した俺に手が伸びる。
「白染め、『浸透』」
咄嗟に前に出した左腕を掴まれ、白化していく。
白染めと同時に行使された浸透の効力は、侵食スピードを早めると同時に内部白化を強化するもので神経、血管などは力を失う。
本来なら白は左肩に広がり、左肺まで白化するはずだった
「何故?」
しかし白化は左肘と左肩の間までしか広がっていなかった。
「勘だったが、黒錆が効くとはな」
黒曜秘伝、黒錆。
魔力を流し込むことで武器や鎧などの非生物を急速劣化させる。
白化した部分は非生物なのでやってみたが効いて侵食を抑えれるとは、まぁ激痛が奔って痛いけど勝利出来るなら許容できる痛み。
「はっ!」
拳を容赦なく鳩尾に叩き込む。
「ぐぅう……くっ」
ブランは吐血しながらも魔力を発し、術を行使する。
「『皚々』!」
白が辺り一面を覆い隠す。
なるほど光を白化することでの光学的な煙幕。
何も見えないが、身体の感覚からブランが居た位置から距離を取る。
一時的だった煙幕が晴れると、少し離れた位置に吐血したブランが立っていた。
「読み通り、白による回復は外傷にしか効果がないみたいだな」
あの白回は白が傷口を包み、白化し傷口を無くすことで治す技だ。
だから白で包むことの出来ない体内の怪我には意味がない。
「黒曜濡羽。貴方は私の予想を超えて強い……だが、私にはまだ切り札がある」
ブランの魔力が激しく高まる。
魔奥の気配。
拳だけで魔奥を凌げるか。いや、凌ぐしかない。
右手の拳を構える。
「掛かって来い」




