第65話:ライバル
俺はインクを周囲に広げる。
あの手に触れたらどうなる? 白化したら死ぬのか?
まぁ、さっきのを見るにただでは済まないだろうな。
「ブラン。お前が何故、そこまで俺を嫌っているかは知らないし、お前の意義も知らないが対戦相手である以上、倒させてもらう」
ブランは笑う。
「希望的観測を語るな」
ブランの足元の白が広がる。
濡羽は距離を取りながらインクの槍を飛ばす。
「希望じゃない確定事項だ」
「それはお前の確定だろ。私の確定事項はお前を倒すことだ」
槍はブランの手に触れられ、白の塊として地面に落ちる。
「黒蹄」
黒曜秘伝で濡羽は試合場全体を見渡せすほどの高さに立つ。
その頃には白は試合場全てに広がっていた。
白律による制御は本来、自身の魔術に適応するためのものだから他者の魔力制御は近距離じゃないと無理。
あの四肢がある今、無闇に近づくことはないので崩される心配はしなくて良い。
地面の白も危なそうだけど、触れただけじゃ侵食はされないだろう。
それが出来るなら白を直接操作した方が有用だ。
でも念のため、空中で戦う。
「宙に逃げる。最適な回答だ、故に読みやすい」
ブランが白化した地面を蹴ったと同時に、俺の場所まで跳んでくる。
なるほど、白化していれば性質変化も出来ると。
手が俺の体に伸びる。
「触れさせるかよ!」
インクが間に挟まる。
手が触れたのかインクは白化していく。
「チッ」
読みやすいのはこっちも同じだ。
警戒するのが四肢、特に両手だけで良いからな
触れそうになったら今みたいにインクで壁を作れば危険なことはない。
「ブラン。罠に掛かってくれてありがとうな」
黒蹄解除による落下とインクの補助で地面スレスレまで移動する。
そして今だ。宙に居るブランに向かって攻撃する。
「黒水、『逆さ雨』」
白化を防ぐため水滴ほどのインク刃を無数に生成し、天に向かって降る雨のように放つ。
さて、何をする?
宙に浮遊するお前に防御も回避も出来ない。白を浸透させることしか出来ないお前には何も出来な——
「『白草』」
俺の足元、白化した地面に遠隔で魔術の起こりが生じる。
そして反応する暇もなく地面が割れ、白色の草が濡羽に向かって成長した。
回避するために取った行動は今のブランと同じく攻撃だった。
「黒羽!」
黒蹄で生成した魔力板を攻撃するように蹴ることで高く跳び、距離を取る。
ふとブランを見ると逆さ雨をまともに全身にくらい血だらけだった。
地面に落ちる前に黒蹄で着地点を作り、そこに倒れる。
ブランも同じタイミングで地面に落下した。
「くっ」
「ゔうっ……は、掠りはしたみたいだな」
ブランの言葉に俺は自分の体を見る。
右足の足首付近まで白化していた。
ちっ、右足の膝から下の感覚がない! インクで補助すれば立つことは出来ると思うが、動くことは出来るか?
まぁ、痛みわけでもないしあっちの方が重症だから有利なのは変わらないな。
「私の勝ちと言わせてもらおうか」
ブランは全身血だらけなのに自信満々だった。
「は、何言ってんだ?」
「現状が悪くとも好転するってことさ。『白回』」
ブランの体を白が包み、血を、傷を無くしていく。
「お前の敗因は私の操作する“白“の可能性を予測出来なかったことだ」
「ああ、そうかもな」
白で血を無くし同時に傷自体を白で覆ってしまえば白化し無傷と同じようになる。
こっちは片足がまともに動かないってのに。
でも、まぁ……
「燃えてきた」
「は? 何を言っているんですか。現実を見た方が良いですよ」
俺は右足の膝から先をインクで覆い、簡易的に筋肉を作り動かせるようにする。
「現実は見てるさ。確率、0じゃないだろ」
「確率? 何の確率ですか」
「ここから俺がお前に勝つ確率に決まってるだろ」
止めだ。
俺らしくない。
「それと一つ訂正したい」
「そうですか? なら当主にならないという発言をはやく訂正して下さい」
ブランは待ちに待ったという顔をする。その表情がすぐにでも崩れると知らずに。
「それじゃない」
「俺が訂正するのは魔術で戦うことだ」
今の状態の俺では液体魔術を使ってあいつを倒すことは不可能だろう。
なら、簡単な事だ。
「魔術は一旦忘れる、黒曜秘伝でお前を倒す」
諦め、捨てていた近接で攻める。
「お前は本当に私を舐めているだろ?」
ブランは天を仰ぐ。
「ああ、検証は終了にしよう。ここからは人体実験と行こうか」
前を向いた時、ブランの顔は研究者のそれではなく怒りに満ちた表情だった。
俺もその表情に応えるように笑顔で返す。
「お前、良いね」
「久しぶりに魔術師相手に倒したくなってきた」
「そうかよ、俺はお前が嫌いだ。黒曜濡羽」
「まだ会ったばかりだけど、俺。お前のこと好きだぜ」
「この戦いが終わったら友達になろう。ブラン・ホワイト」
「嫌だね」
「ならライバル!」
「そっちの方が嫌だ」
「はぁ、話し合いはここまでで——」
「ああ、ここからは——」
「「存分に殺し合おう」」




