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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第64話:天才

 天才が嫌いだ。

 彼らの思考は例外なく傲慢へと収束する。

 観察すれば分かるが、天才は皆、世界を自分の支配下にある変数程度にしか扱わない。

 検証もせずに“自分なら出来る“と確信する——あれが本当に嫌いだ。

 私はかつて“神童“などと呼ばれたがゆえに、その考え方も理解していた。

 ホワイト家、研究第一の現実主義者で夢想家の一族。

 魔術を魔法に上げるという夢でも叶わないことを叶えようとする。

 昔の私はそれを愚かだと思わず、賢いと思っていた。


「ブラン、お前は天才だ」


「私の息子ながら誇らしいわ、ブラン」


 幼い私は、手の届かない夢は“特異点“が叶える者だと信じ込んでいた。

 そして、その役目は自分だと疑いもしなかった。


「はい。お父様、お母様。私が誓いを果たしてみせましょう」


 今思えば、あの時点で既に間違っていた。

 ホワイト家の天才たちが誰一人届かなかった誓いに、手を伸ばす行為そのものが愚かだったのだ。 


「おい、アイツまだ研究してるぞ」


「良い加減、気付けっての」


 研究者は論文を書き、功績が認められなければ存在意義がない。

 功績こそ価値であり、行動こそ証明である。

 だが誓いを追う限り、私は成果を出せない。積み上がるのは未完成の式と、失敗した検証ログだけだった。

 やがて私は自分の才能、“天才“という肩書に疑問符を抱き、そしてホワイト家は私から視線を外した。

 功績も、才能もない者。

 ホワイト家のスケール上、私の評価はゼロに近づき、ついには観測値から除外された。

 そんな折に“アイツ“が誕生した。

 ホワイト家2000年の歴史で生まれた技術を結集させ、無能力者の科学も使った。

 2000年でやっと私たちは理解したのだ。

 魔術を魔法に上げることは出来ない。

 魔法とは神が与えしブラックボックスだ。

 魔法使いは己の魔法の仕組みを理解しないままに行使している。

 逆に魔術とは魔法を基に始まりの魔女が立てた魔術理論に則って構築された簡易的魔法だ。

 人の手で作った物が神の作った物に匹敵することなど不可能なのだ。

 だから、私たちは考えた。

 人だから無理なのだ。なら神の手で魔術を魔法に上げて貰えば良いと。

 無能力者のゲノム技術、ホワイト家の技術で人造的に神を創り出す。

 そして生まれたそいつはプロジェクの責任者であった私の両親の子として迎えられた。


「兄さん。初めまして……僕はナイト・ホワイト。よろしくね」


 私は、ホワイト家は彼に恐怖した。

 人類の歴史は天才が生まれ、段階的に進んでいった。

 だが、彼の誕生と彼が成す事は世界そのものを変えてしまうような気がした。

 同時に私はナイトと過去の自分を重ねた。

 才能があるからと言って暴れる自分はどれほど愚かだったかを、天才だからと凡才を駒のように従える事がどれほど醜かったかを。

 天才は嫌いだ。

 全てを変えてしまう天才が……

 ホワイト家の誓いも初代という天才が立てたもの、天才に縛られ、天才の開いた道しか歩けない

 研究とは未知を開拓するもの、誰かが開いた道を歩くことではない。

 天才を知る凡才として私は天才の過ちを正さねばならない


***


 意識を取り戻す。

 私は今、気絶していた。

 思い出した。黒曜秘伝の黒斑をくらって……

 しかし考えましたね。

 体外()を覆う魔力を体内(骨身)に施すとは。

 相手、濡羽を見ると無限インクを解放していた。


「天才が……」


 操作系統魔術は最も簡単で最も難儀な魔術。

 魔術式として生成の次に単純で簡単だが、操作するのは難しい。

 第一に単に操作と言ってもその効果は無数にあるからだ。

 増減、変形、造形、浸透……操作系統の魔術師は操作する対象によってそれらを使い分ける。

 だが、そもそも操作自体が難しいのだ。

 操作には“操作対象への適正“と“操作自体の能力“という二つのセンスが必要。

 操作対象への適正はその対象が人間が理解できる感覚つまり固体、液体、気体、概念と離れていくほど数は少なくなっていく。

 もう一つの操作自体の能力は人間の脳は四肢とそれが持っている物以外は操れにくくなっている。

 そのため四肢から離れた操作対象を操作するにはセンスが必要でセンスがあっても手による指揮が必要で、指揮なく操作する者は極めて少ない。

 濡羽は液体全てへの適正があり、操作系統全振りが可能で今まで操作系統全振りした者たちと違い、操作自体の能力も高かった為に今のような事が出来ている。

 逆に私は“白“という概念への適正はあったが操作自体の能力がなかった為に宙に浮かせての操作や造形などの細かな操作が出来なかった

 だから……


「白純魔術『白染め』」


 ブランの立つ地面の石材が白色に染まっていき、拡大していく。

 濡羽の放ったインクの剣が投じられる。

 私はそれに触れる。

 手が触れた瞬間、インクの剣は質量情報を剥奪され、ただの白色の塊へと分解された。実験通りだ。


「接触での干渉か」


 濡羽の的確な読みに驚きながら私は冷静に自分の魔術を思い起こす。

 白純魔術、ホワイト家の秘伝魔術で魔法使いの手による改造を受け、“白“という概念を操れる魔法とも魔術とも言える術だ。

 本来は白を生み出し操作する魔術だが、これに適性者である私には操作のセンスが無かったため自分の四肢を起点に生成した白を接触、浸透させ対象に“白という無質の状態“を付与する形へ拡張した。

 私の白が広がった箇所は質感を失い、力を使えなくなる。

 武器ならただの白の塊となる。


「黒曜濡羽……お前は天才だ」


 蔑まれているお前なら私と同じだと思っていたが、お前はまだ天才だ。

 才能を疑いもしない天才だからこそ、私はお前を嫌悪し、お前を倒す。


「はっ、俺が天才だと? 俺は天才じゃねぇよ」


 最も厄介なのは、自分を天才と思っていない天才だ。

 無自覚で、無邪気で、そして残酷だ。


「賢者は自身を愚者と言うが、お前は特に賢者だな」


「は?」


「だからこそ、倒す」


 天才を否定し、天才に縛られないため。

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