第61話:王取り
「はぁ〜〜緊張するな」
僕は試合場に続く道に置かれたベンチに座っていた。
相手はあの魔王シェリー。
ルナさんから魔法の特徴を聞いてはいるけど、相対するとなると緊張もするし恐怖もある。
まぁ、濡羽のおかげである程度は落ち着けたし作戦もある。
あとは僕がその作戦をどれだけ魔王相手に実行できるか。
織可は立ち上がり、試合場に向かった。
試合場にはもうシェリーの姿があり、長杖を構えていた。
「遅いじゃない。日和ったかと思ったわ」
「魔王様のお相手をするんだ。万全の体調で挑まなきゃ、無礼だろ?」
心身ともに大丈夫。
濡羽の言葉を思い出せ!
不安は忘れろ、戦闘の高揚を感じ咀嚼しろ。
「魔王の威光を見ろ! 魔王の恐怖を刻め! 魔王の偉業を味わえ!」
「風流の魔術師、茶淡家の風流は魔王を捉え、その心を治め、勝利を掴むことが出来るのか!?」
「第二回戦第四試合、シェリー・フェメノン・ルージュ、対、茶淡織可の試合を始めたいと思います」
「互いに健闘を祈って……ファイト」
シェリーが杖を振るう。
僕は準備していた魔術を行使する。
「盆景魔術、『城景』」
平城は広い空の下に、静かにその身を横たえていた。
城壁は陽光を受けて淡く輝き、幾重にも重なる瓦は波のように連なっている。
まるで大地に根を張った巨獣の背——動かぬまま、時代を見下ろしていた。
「顕性魔法——」
「さて何が出るかな?」
顕性魔法は行使されるまで何が出るか分からない。
だから、どうしても後手に回ざるをおえないし様々な対処が必要。
それなら一辺倒に対処して仕舞えば良い。
時には考えること以上に考えないことの方が重要な意味を持つときがある。
「雷撃」
シェリーの周囲から生じた雷が降り注ぐ。
雷が降り注ぐ中、瓦が城の屋根から剥がれ、織可の頭上に傘を形成する。
瓦傘は簡単に雷を防ぐ
「……炎球」
次に炎球が投じられるが、これは織可の前に立った城壁が防ぐ。
雷も炎も水も形の有る無しに関わらず、それがそこに存在している限り相性とか魔力消費とか考えず物理的に封じて仕舞えば良い。
ただでさえ領域内に限れば僕の魔力消費は少ないのだからケチる理由なんてない。
何も考えずにただ消費し続けろ。
「バカ正直に防ぎ続ける……それがお前の出した私への策なら、呆れるわ」
シェリーは杖を大きく振るう。
「顕性魔法、『属槍撃』」
無窮戦で見せたように多種多様な属性の槍が顕現し、発射される。
僕は瓦、城壁、城の庭にある木、池の水を操作し防御に回す。
生じた隙、僕の周囲から僕を守る物が無くなった瞬間、シェリーは杖を手放し空を飛ぶように駆けた。
「ちっ」
「『顕現』、雷斬り」
雷を纏った刃が慌てて用意した瓦の盾を切り裂き、織可の胸に大きな傷を刻む。
「くっ」
シェリーとの間に城壁を建て、距離を取る。
胸の切り傷には切られた瞬間に雷が奔った為、火傷になっていた。
これがルナさんの言っていた。
古今東西にある武器を生み出し、それに属性を纏わせることであらゆる対象に特攻を持った武器を即興で扱うことが出来る、顕現。
「どうするの? 私の読みじゃ、貴方には二つの未来がある。私がこれ以上の武装を生み出して嬲られるか、純粋な武術に敗れるか」
「もう一つあるよ」
城が崩れていく。
瓦、城壁、石垣、木片などが宙を舞い僕の元に集まる。
濡羽が戦いで見せてくれた一個の特徴を伸ばす技術を僕の魔術に見様見真似で再現し、改変の自由性を伸ばしルールから逸脱させる。
逸脱した影響でこの領域維持に必要な魔力量は伸びてしまったが、自由に改変が出来ることは大きな効果を生む。
僕の周囲に集まったそれらは僕を包み込み、一つの形を作る。
シェリーの攻撃を防ぐ際に僕に隙が生まれるなら僕を守りながら防ぎ、それでいて攻撃を行えるようにすれば良い。
「盆景魔術、変景、『城郭人形鎧』」
そこには四つ腕で大きめの人形をした鎧のような物が佇んでいた。
石垣で四肢などの攻撃の要を、城壁と木片で体の大まかな部分を、瓦で関節部分を、頭部には鯱鉾が添えられていた。
人型の胴体部と首部分に格納されており、鯱鉾の目と視覚共有することで外界を見ていた。
巨大な体が動くたびに、僕にも若干の負荷が掛かるが問題じゃない。
それが僕は確かにここに居ると思わせる
これはまだ戦いの布石だ。
「そのおもちゃが貴方の切り札? 期待して損した」
数十の属性武装がシェリーの周囲に生まれるが、発射される前に人形鎧はシェリーに向かって駆ける。
「馬鹿なの?」
属性武装が近づいてくる人形鎧に放たれるが、前方部に防御用の瓦や石壁の一部が集まり、攻撃を防ぐ。
そして距離を詰めた人形鎧はシェリーに向かって拳を振るう。
確かに近接はシェリーの大きな攻撃を伴う魔法には不利な距離だが使えないとは言っていない。
「『重力破壊』」
強大な重力が人形鎧に向かって放たれ、人形鎧を包み込み粉々にする。
「さて、皮はボロボロだけどそこから出て貴方が戦う?」
重力で人形鎧の胸をこじ開け、織可の状態を確認しようとするが……
「え?」
そこには織可の姿はなく。
遠くからその言葉が紡がれる。
「魔奥——」
濡羽は戦う前、織可に零式の内容を簡単に伝えていた。
織可は才能で少しの情報で術の効力の上げも行えたし、その後の……
「『神が住まいし黄天の高天原』」
魔奥の詠唱破棄も可能にした。
「王手だ、魔王!」




