第60話:心配無用
俺は勝者が宣言された瞬間に駆け出していた。
試合場直結の待機室近くの救護室に着いた時、ちょうど担架に寝かせられたミアが運びこまれていた。
その隣にはルナの姿があった。
「ルナ、おめでとう」
救護室に運び込まれる前に、俺は担架の上のミアを見る。
傷だらけでボロボロだが、どこか安堵したような顔をしていた。
「ありがとう。ミアさんは心配要らないわ、脳を酷使し過ぎた影響で気絶しているだけだから。念の為、ここで検査するらしいけど」
「そうか。ルナは何とも無いのか」
「私は回復術で回復出来ると思うけど、今回の戦いで貯蔵していた魔術と魔法を全て使ってしまったわ」
「マニアは?」
ミアの事だからルナに伝えているだろう。
マニアとファタール家、自分の魔術について。
「止めたわ」
マニアの力を使う選択をしたのはミアだが、マニアの力で勝っても彼女は心から喜ばないだろう。
ルナには感謝しかないな。
マニアを止め、ミアへの被害を最小限に留めてくれた。一歩間違えば彼女はミアよりも多くの非難の言葉を浴びせられることになったのかもしれないのに。
「ルナ、ミアのことありがとう」
「それは私もよ。叔父さんに伝えていたのね」
「ああ、マニアの暴走は小さくても起きるからその時の対処をお願いしてたんだ」
まぁ、その代償に貸しを一つ作ってしまってけど。
「濡羽……私、貴方やミア、織可くんと親友になって本当に良かったわ」
ルナはそう俺の顔を見る。
俺には何のことか分からなかったがエング戦での恩を少しでも返せたのあれば良かったし、ミアも思っている事だと思うがここは俺が代弁してあげよう。
俺はルナの視線に応え、見つめ返す。
「俺もミアも多分、織可も君と親友になれて良かったよ。ルナ」
ルナは顔を背ける。
「……そう」
こういう時、ルナは顔を背く。
もしかしたらルナはツンデレなのかもしれないなという邪推が生まれる。
それを察知したのかルナは怒り口調で俺と顔を合わせる。
「濡羽、いま失礼なこと考えていましたよね」
「いや、全く何も考えてないよ……」
「そうですか。私たちのことなど良いので、もう一人の親友の試合を見に行ったらどうですか?」
「アイツの試合は見なくてもある程度、どんな展開かは分かってるしお前らほど心配しなくて良いからな」
「私たちより心配してない……そもそも心配させないようにしてあげましょうか?」
ルナは笑っているのに笑っていない表情をしていた。
「怒ってるよね?」
「怒ってませんよ」
「ミアにはマニアの件があったし、マニアの相手をするルナの事も心配するのは当たり前だろう。まぁ、俺が織可の事を買っているってのもあるけど……」
「何でそんなに織可くんのこと評価するんですか? そもそも茶淡家と黒曜家に接点なんてないのにどうやって仲良くなったんですか?」
質問が多いね。
まぁ、暇だし答えるか。
「前者の答えは後者を説明すれば自ずと分かると思うから俺と織可が仲良くなった経緯を話すな」
それは俺とミアがまだ二学年の頃だった。
「君らが黒曜濡羽とミア・ファタールだな」
「あ?」
「う?」
俺たち二人に声を掛けてきたのは茶髪の物静かそうなイケメンだった。
「お前は誰だ?」
「僕は茶淡織可。君たちの悪行は聞いてるよ、随分派手に暴れているらしいね。同級生として準七家として君ら二人の悪行は認めない! 裁かせてもらうよ」
織可は俺に手袋を投げつける。
当時の俺とミアは進級可能単位を達成するために同学年、後輩、先輩問わず決闘を挑みボコしていた。
ボコられた側は嫉妬からか俺たちが悪いことをしているなどの噂を流し、学院の中で俺たちは悪者としても強者としても有名だった。だから、織可のように正義心から断罪してくる者は初めてだった。
魔術師社会は実力主義だ。
強者が認められ、弱者には何の権利も与えられない、それがルールだ。
だから織可のように強者が成すことを悪と断じる者と会ったのは初めてだった。
俺は手袋を手に取る。
「その戯言を負けて後でも言えれば立派だな」
俺は容赦なく織可をボコリ、単位を奪った。
織可は普通の魔術師であるにも関わらず悔しそうにしていた。
「くそ、僕に力があれば……」
実力主義社会で成長した魔術師は負けても強者に負けるのはしょうがないと悔しそうにしないのが大半だ。
それは魔術師の強者であっても魔法使いに敵わないという摂理に従っているから、悔しくて強くなっても魔法使いには勝てない。魔術師に生まれた時点で敗北者という思想が染み付いてるから悔しそうにしないのだ。
「織可と言ったな。俺たちと友達にならないか?」
「誰が悪者と……」
「まぁまぁ、友達になってくれるなら俺がお前を強くしてやるよ」
こうして俺は織可と友になり、成り行きで俺と織可は親友になった。
「何? その少年漫画みたいな展開……その話が前者に繋がるとは思えないんだけど」
ルナは不機嫌そうだった。
先に親友になっていた者の話を聞いて嫉妬しているのかな。
「まぁ、落ち着け。織可の才能は俺という存在が居なくても織可を高みに連れて行っただろうが俺に師事した影響でそれ以上の高みにアイツは到達した」
俺は続ける。
「簡単に言うなら今のアイツは俺という魔術師が居なければ、学院在籍の魔術師の中じゃ、俺を抜けば最強だ」




