第55話:狂気とは?
「さて、先ほどの試合は東雲烈火選手の降伏というあっけない終わりでしたが今回の第三試合はどちらもビックネームにしてどちらが勝っても面白くなること間違いなしの試合です」
二人の女性が試合場に立っていた。
「一人は魔王の家系、フェメノン・ルージュ家に生まれた異才。攻撃最強の朱の魔法使いでありながら防御を得意とする異色でありながらも七家の魔法使いとして相応しい実力を持つ」
赤髪混じりの長い白髪が風に舞い、その手には大きな長杖を持っていた。
朱の魔法使いの正装である朱を基調として戦闘ローブを身に纏っていた。
「ルナ・フェメノン・ルージュ!!」
歓声と拍手が大競技場を包み込む。
「もう一人は淫魔の血を受け継ぎ運命を狂わせる、ファタール家に生まれた美女。彼女は13年前の悲劇を乗り越え、ファタール家の汚名を払拭することを誓ってキングクラウンで戦う」
桃色の髪を指でいじりながら、拳を構える。
学院生徒用の戦闘服を可愛らしく改造したそれを纏っていた。
「ミア・ファタール!!」
こちらにも歓声と拍手が送られる。
観客らは分かったので彼女は自分たちの知るファタール家の人間ではない事を。
「異才の朱の魔法使いと運命狂わせる魅惑の魔術師。どちらの方が強い!? どちらの方が硬い信念を持っている!? 互いに健闘を祈って——ファイト!!」
実況の言葉が締め括られた瞬間、先に動いたの桃色髪の少女だった。
「『黒斑』!!」
赤黒いエネルギー、狂気で強化を施した上での黒斑。
その威力は計り知れないがミアの拳はルナの頬を掠め、赤い線を引くに終わる。
だが、まだだ……まだ終わらない。
「『黒羽』!」
拳を突き出す不安定な体勢でミアは足を振るい、同じく狂気を施した蹴りを放つ……が、華麗に回避される。
それでもミアは続ける。
放った足を落とし、足払いでルナを崩す。
「『黒炎』!」
崩れ倒れたルナに向かって遠慮なく拳を叩き込んだ。
しかし結果は、ミアの拳が試合場の床板を破壊するだけだった。
ルナの姿は離れた場所にあった。
「馬鹿の割に考えたのね、私の潜性の欠点を見抜くなんて」
「考えるほどのことじゃなかったわ」
確かにお前が導き出した事だけど俺がヒントを出した上だって事は忘れるなよ。
そう濡羽は思いながらヒントありのもと求めた潜性魔法の欠点を思い出す。
ルナの固有魔法である潜性魔法の“潜性“は、あらゆる魔術と魔法を今の次元より低い次元に潜らせる事で消し去る術だ。
しかし、それには精密な座標情報と事前に発動を準備する時間が必要、故に事前に軌道が分かる放出、射出系攻撃のみしか出来ないという欠点を抱えていたが、前の試合でルナが見せた“魔力を潜らせる“を行えば、体質系統魔術や肉体を魔術で強化することもルナの前では出来ないだろう。
だが、潜性で潜らせる事の出来ない近接で攻めながら打撃の瞬間だけの魔術強化を行うことで潜性を完封することが出来る。
「逃げる術があるなんてね、魔法使いらしくない」
「戦闘において“らしい“など不要でしょ」
多分だが、ルナは自身を潜らせ違う場所で浮上させたのだろう。
移動の術としては優秀過ぎる性能でアレがあっては近接で攻める作戦も無意味になるだろう。
「そうね……狂気ってどんな物だと思う?」
合図だな。
「常軌を逸した精神状態じゃないの?」
「教科書通りの解答をありがとう。でも違うわ」
ミアは戦闘中でありながらも踊り出す。
「狂気ってのはね、夢や大いなる目標を成し遂げるための原動力を最も発揮している状態のことよ。教えを守る者、とてつもない努力を行う者は側から見れば狂気と言えるでしょ? そしてその原動力を摂取するには人生を支えてくれる存在や物が必要なの……あなたとの戦いじゃ、私は狂気に染まらないから少しズルをするわ」
俺は立ち上がり大きな声で叫ぶ。
「ミア、頑張れ!!」
その言葉と声がミアの耳に届き、脳に達した瞬間、ミアは狂気に染まった。
ミアの言う狂気を簡単に言うならゾーンに入るという事で、俺の応援が彼女にとってゾーンに入る上では必要らしく。昨日、デート中にミアに頼まれた。
でも、こんな多くの観客の前で大きな声で応援するなんて恥ずかしいな。
なんかみんな微笑ましい表情をしてるし、彼我見は嫌な笑みを浮かべてるし、やらなければ良かったな。
「これであなたをボコれるわ」
「ズルいわね、後で私も応援してもらおうかしら」
「私に負けてから慰めて貰えば? 狂宴魔術『狂戦士』」
ミアの全身を狂気が覆い強化した瞬間、彼女の姿が視界から消える。
潜性で解除しようとしていたルナは間に合わず防御体勢を取ろうとするが、少しばかり遅かった。
「『狂撃』ッ!」
狂気がルナのお腹で炸裂する。
「うっ……『浮上』」
無数の氷槍が出現し、ミアに向かって降り注ぐ。
次の瞬間には一斉に氷槍が砕け、砕いたと思われるミアが立っていた。
「本気出さなきゃ、負けるよ?」




