第54話:相反する
濡羽とカールの試合後、第二試合が始まった。
「第二回戦第二試合、ブラン・ホワイト、対、東雲烈火の試合を始めるぜ。互いの健闘を祈って——ファイト」
先に動いたのブランだった。
魔術を行使しようと準備しながら烈火に距離を詰めた瞬間、烈火は突然、両手を挙げた。
「降伏です」
「はっ?」
「へ?」
ブランと実況はその言葉に素っ頓狂な声を出す。
そして実況は再度、確認する。
「あの本当に降伏ですか?」
「そうです」
観客らも困惑し始める。
栄誉あるキングクラウンの出場者に選ばれたのに、試合で降伏するなどキングクラウンの長い歴史の中でも例は少ない。試合開始すぐに幸福など史上初だろう。
「では、東雲烈火選手の降伏により第二試合勝者はブラン・ホワイトに決定です」
観客たちは困惑していたが、ブランは内心ホッとしていた。
東雲烈火、どういう意図か分からないが戦わなくて良かった。彼女が第一回戦で見せた実力は嘘だろう。
もし戦っていればどうなるか分からなかった。
ブランは試合場から足早に去る烈火から奇妙な思惑を感じながらも心のうちに留めた。
***
救護室でカールとの戦いで負った傷を癒やし、魔力の回復を終えるると第三試合で戦うミアとルナの元に向かった。
待機室で向かう道中、第二試合で戦わず勝ったブランと会った。
「よ、さっきの試合は楽しくなかったな」
「……」
ブランは何の反応を見せない。
「おい、話してるだろ」
「黒曜濡羽。黒曜家前当主、黒曜輝天の息子で黒曜彼我見の甥。両親が死んでからは彼我見に師事し実力を付けていたが固有魔術に禁忌とされる操作系統に全ての魂魄量を割いた愚かな魔術師にして次期黒曜家当主。僕とは大違いだな、不遇と貶されようが高い地位に就く」
「訂正しろ、俺は黒曜家当主にはならないぞ」
「ハッ、何を言って。僕をあざ笑っているんですか? 七家の当主になりたくない者などいない。七家の当主それは元老院、境会よりも上の立場で血統も実力も認められた最高峰の存在でどんな事を出来、どんな事も許される」
「そうかよ。で、その立場にどんな意義や意味があるって言うんだ?」
黒曜家当主という立場があっても縛られるだけで出来ることなど少ない。
俺の父が、彼我見叔父さんがそうだった。
「ハハハ、僕と君とでは物事に対する考え方が違うらしい」
ブランは怨嗟の込もった視線を俺に送る。
「準決勝、僕が君を倒す。覚悟しておくことだ」
ホワイト家の魔術師、戦ったこと無かったな。
同じ七家の魔術師で魔術を魔法へと押し上げようとしている連中だ、弱いはずがないよな。
「そっちも黒に敗れることを覚悟しろよ」
黒曜とホワイトが何故、ここまで互いを嫌悪し協力しないのか?
それは見た目でも実績でもなく。
ただ、性格と言動が合わないのだ。
色としての黒と白は交わるが彼らにおいて、その法則は通用せず彼らの間に灰色などない。
ただ争い続けるのみで、その争いが両家を成長させてきた。
***
俺が待機室に入るとそこには三人の姿があった。
ミアとルナは距離を取って座っているが視線はバチバチだった。
織可はというと少し緊張しているのか汗を掻き顔も青かった。
「三人とも準備万端じゃないな」
「濡羽」
「濡羽くん」
「濡羽、心臓が飛び出そうだ」
ミアとルナはすぐに俺を挟むように立った。
織可の表情は先ほどより改善した。
「まぁ、三人とも落ち着け。試合前に緊張したりするのは分かるが、心身を安静にしないとベストコンディションで戦えないぞ」
「私はもう大丈夫よ、濡羽成分を摂取したから」
そうミアは俺の胸に頬をスリスリしてくる。
俺の体に当たっている柔らかい物は無視しつつルナの方を見る。
「そうですか……さっきの状態では勝負にならなさそうだったので嬉しいです」
ルナは終始、笑顔だがその心は笑っていなかった。
「それはそっちじゃない。私はさっきから万全で濡羽に会って強化されたから負けるのは貴方よ」
「フフフ、面白いことを言いますね」
また視線が交差しバチバチする。
うん、互いに戦う気があるなら十分か。
問題は不安でいっぱいの織可か。
俺はミアとルナから離れ、織可の隣に座る。
「大丈夫か?」
「ああ、君に会って和らいだよ……でも僕の相手、あの魔王だろ」
第一回戦で見せた魔王シェリーの魔法と戦い方。
全属性で攻める、それは単一の属性しか持たない魔術師特攻の戦法だが俺を含む一部、強者には効かないし織可なら何とかなりそうな気がした。
「織可。お前の魔術は魔王に通じる、俺の見解が間違っていたことがあったか?」
「無いね……君の言葉で考えてみて理解した。確かに僕の魔術なら戦えるね」
織可の短所は圧倒的な力の前では思考放棄してしまう事でこれは多くの魔術師が持つ短所だが、それを乗り越えれば何でも卒なくこなし己と魔術と相手の術への理解が高いことが長所の織可のことだからもうシェリー対策の先方や作戦の一つや二つ作っている事だろう。
「ありがとうな、濡羽」
「親友の助けになるなら当然だろ」
これで大丈夫だな。
決勝で戦う人物が誰かは分からないが、俺としてはこの三人の中から生まれて欲しいな。




