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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第53話:誤算

 いつの間にかカールの周囲に浮かんでいた二つの花のうち一つが花弁を失い枯れていた。

 カールの背後に様々な色の刃が出現し、日の光のように満遍なく放たれた。

 俺は黒蹄で、三次元的に回避するが全て回避することは出来ず、体に切り傷は増していく一方で、攻撃が終わった頃には血だらけの濡羽の姿があった。


「魔術師にしては耐えた方だと思うが、これでキングクラウンで優勝するという夢でも叶わない妄言を吐く事は出来ないだろう」


 濡羽は薄く笑みを浮かべる。


「何言ってんだ? いつ俺がギブアップした?」


「その状態でもまだ意識があって会話が成立するのか。本当に魔術師らしくない貴方の一族は戦士にでも転職すべきじゃないかな?」


「それは無理な相談だ。誓いを守らないといけないんでね」


「貴方には無理だ。自分の実力を過大評価し過ぎじゃないか? 『儚花』——『愛華剣(アイカ)』。女神の愛に抱かれて死ね」


 もう一つの花も散り、山をを割りそうな巨大な大剣が剣先を地面に向けるように出現し、地面に向かって落ちていく。

 濡羽はニコリと笑い、槍を構える。

 決して動じない大山のようにどっしりとしながらも力は海のように自由であり激しくうねっていた。魔力は高まり、槍の穂先に集う。


「『海神の怒り(シー)()揺地(クウェイク)』」


 穂先から海流が如き水圧と流れがうねるように放射され、地震の如き振動を纏いながら大剣にぶつかった。一瞬は拮抗したが、すぐに圧倒的な水量によって崩壊し、カールを撃ち抜いた。


「かはぁ、何故!? 今、この瞬間にその槍で攻撃した?」


「気づいたんだよ。お前が何かした瞬間に、周囲の花の花弁が一枚減っていることに、だから分かった。お前の力は儚さから来る絶大な効力だ」


 確かにカールの周囲に浮かんでいた四花弁の花二つは無くなっていた。


「花弁が一枚砕ける時、お前の中に一度だけの絶大な力が宿る、それをお前は移動や顕現に使っていた。だから、花弁の無くなった今、お前にはアレを防ぐ手段はないと踏んだ」


「なるほど、だが私がこの程度で負けだとは思わないことだ」


「分かってるよ。魔法使いはこの程度じゃ、まだ本気を出したとは言えない。まだ手札があるんだろ、それを折ってこそ俺の勝ちだ」


「ほざけ! この手札を切った時点でお前の勝ちなどありはしない。確かに先ほど、お前が言った通り私の魔奥は花弁を一枚散る時に一行動だけの絶大な力を得る。それは半分正解半分不正解、私にはもう一つ花がある」


 カールの魔力が高まる。


「『永花』——」


 カールの纏う王冠と鎧に変化が生じる、王冠は溶け出し肌に浸透し茎と葉を描く紋様へと転じ全身に広がり、鎧はコルカチムに似た花へと変じ、体に根差し大きく咲く。

 そしてカールの手元には長杖のような大剣が生まれ、刃から花弁がうっすら散る。


「『雪償鎧』、『風益剣』」


 あれはヤバいな。

 俺は冷静に距離を取り、インクで壁を作る。


「女神に祈れ——」


 カールが長杖の先端を濡羽に向け、花から青白い魔力が注がれる。

 妨害を置き、離れる。

 この行動は確かに正解だったがそれは魔術師が相手の話で真に魔奥を操る魔法使いには通用しない。


「充填……換装……『永遠に咲く花の風』」


 閃光。

 インクの壁を貫通し、濡羽の腹に小さな穴を開け、試合場の壁を傷付けた。


「ごふぅ……」


 遅れて俺は吐血しながら痛みに神経が支配されるより早く、槍を床に突き刺す。

 そして苦しみながら紡ぐ。


「『海神の怒り(シー)()大蛇(サーペント)』!!」


 床の割れ目からインクの大蛇が生まれ、カールへと襲い掛かる。

 かつてその蛇は海の男たちを恐怖へと堕とし、人と人の繋がりを絶った怪物は今、魔法使いに牙を剥く。

 大蛇とカールが争っている隙に、濡羽は己の治療と思考を始める。

 なるほど、儚花と真逆の永花の効果は“蓄積した魔力の循環“。

 あの鎧が電池で儚花を使っていた時に魔力を貯めていて、今はその貯めていた魔力を花とあの長杖みたいな大剣で循環し、その余波を攻撃に運用している。


「思考なんて無駄ですよ」


 大蛇がカールに敗れ、インクに戻る。


「永花は発動した時点で勝利確実、無敵の一手。儚花よりも出力は落ちるが継戦能力の高さから、魔術師を倒すには最適な状態」


「ああ、そうだな」


 でも、無敵で万能な魔法なんて存在しない。絶対に欠点が存在し、勝機はそこにある。

 槍を解き、インクを四肢に纏わせ、動きの補助と強化を行う。


「『海神の怒り(シー)()鱗躰(スケイル)』」


 筋肉を模した器官と鱗で攻撃&防御を行う。

 俺の状態にカールは驚きと同時に軽蔑で持って応じる。


「はっきり言ってがっかりだ。ここにきて(魔術)を捨て(武術)で私を倒せると思っているのか?」


「俺はそう確信した。試してみるか?」


「『雪花』——」


 花と道具(長杖のような大剣)で循環していた魔力がカールの四肢に広がり、駆ける。

 そして大剣を濡羽の首を断つように振るった。


「『撫で雪』」


 ガリっ……鱗で大剣の刃を流し、俺はカールに懐に入った。

 そしてカールに向かって放つ黒の打撃。


「『黒斑』!」


「ウッ……まだだ!」


 内臓に響く衝撃と痛みに顔を歪めがらも耐え、カールは流された刃を杖として向ける。


「『永遠に咲く花の風』」


 閃光が……奔る……はずだった。


「終わりだ——」


 見誤ったな、自分の体の限界を。

 魔力の循環は魔術師でも行えるが何故、行わないのかそれは体に相当な負荷が掛かるからだ。

 カールはそこを華や紋様に刻まれた術式で抑えていたみたいだが、負荷はゼロではなく。

 先ほどの俺の一撃でボロボロの体は完全に壊れ、魔力の循環など不可能になったのだ。

 今度は殺す気で叩き込む。


「『純黒』!!」


 黒の奔流がカールの体を貫く。


「私の……負け、だ」


 カールは倒れ、気絶した。

 俺はガッツボーズを掲げる。


「第二回戦、第一試合、黒曜濡羽の勝利!!!!」

これ以降では語る場面がなかったので競技場について解説。

コロッセオみたいな円形になっており、外苑部に観客席と特別観客席がある。

キングクラウンの試合時には結界が張られており、結果内においては選手登録された人以外は選手に魔法、魔術を行使できなくなっている。

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