第51話:色水晶
「貴方は色つき水晶という物を知ってるかい? アメジスト、シトリン、ローズクォーツなどの準貴石に分類される石のことで、通常の水晶が何らかの要因で色が付くことで生じる。私はこの水晶に色ごとに異なる術式を刻んだ。魔法の偉大さと強大さに恐怖しろ、魔術師」
赤水力によって生じていた火炎から、俺は飛び出す。
服や肌には所々、焼けたような箇所があったが、この程度では傷のうちにも入らない。
しかし、カールもこの程度で仕留めらないことなど重々承知だ。
「『水晶剣・乱れ』」
空中に無数の水晶剣が生み出され、濡羽に向かって一斉に放たれる。
剣先が濡羽を突き刺そうとした瞬間……濡羽は、一言。
「遅い」
一気に無数の水晶剣の射程圏内から外れ、カールの懐まで潜り込んだ
「チッ、水晶よろ……」
「させるか、黒斑」
黒い魔力を伴って放たれた打撃はカールの腹で炸裂した。
「ぐはぁぁあ」
「まだまだ、黒羽」
黒い蹴撃がカールの足を崩し、防御体勢を取らせないようにし、濡羽は決めに掛かる。
「黒風!」
風のように素早い黒斑が、肝臓に刺さり……
「黒雷!」
雷が如き怒涛の黒斑と黒羽の連撃が骨を砕き……
「黒炎!」
炎の猛りが昇るか如く、両腕で放つ黒斑が両肺を揺らし……
「黒岩!」
岩をも砕く波動を放つ黒斑が肋を超えた奥の内臓全部を壊し……
実況のバラディが唖然としながらも言葉を紡ぐ。
「一気に黒曜秘伝の技が炸裂だァーーー」
「いや、まだだ」
彼我見の言葉と同時に濡羽は深く構える。
全身に魔力を広げ、そこから拳へと凝縮する。
濃密に熟成されるワインのように練る。
そして極限まで練られ爆発寸前に奔流を、拳を突き出すと同時に放つ。
「純黒!!」
黒い魔力が爆ぜ、カールは試合上の壁に、壁が砕けるほど叩きつけられた。
観客たちがあまりの光景に驚愕し、言葉が出ない中、一人だけ、一番言葉を紡げなさそうな人物が紡ぎ宣言するように行使する。
「ッ『正八水晶・黄水力:癒」
全身、内臓がボロボロなカールの側に正八角形の黄色水晶が生まれ、カールの体を先頭に支障が来ない程度に一瞬で治した。
「これを使うハメになるとはな! 貴方は本当に魔術師か!?」
そして続けるように紡ぐ。
「『魔女は心奥にして最奥を覗く』」
俺はカールがその言葉を言い終え、俺自身が理解すると同時に駆け出していた。
見くびった。
流石に完全な純黒じゃ死ぬだろうと、魔力の練りと溜めを浅くしたから威力が足らず、倒せなかった。
忘れていた、こいつが魔法使いだと言うことに。
魔奥を使用した魔術師は通常の2倍の強さとなる、それが魔法使いなら……
「『地下に眠りし神秘の乙女』」
「『宮殿に座して願うは星の光』」
「『永遠に願いて、進化する』」
俺はカールの側まで到達した。
間に合った。
次は本気で、殺す気で殴る。
「黒斑!」
拳は真っ直ぐ避けも防ぎもしないカールに当たり、カールは砕けた。
辺りに散らばった水晶の破片が分からせる。
分身!?
純黒を食らった瞬間に水晶の人形と入れ替わったのか。なら、本体は何処——!
「『百代に一を、千代に十を。この身、遂げること叶わず』」
カールの姿は遥か上空にあった。
魔力は高まり、濃密なオーラとなってカールから発せられていた。
「あんな所に——ッウ」
黒蹄を発動しようとした瞬間、先ほどの破片が急に肥大化し、足に突き刺さる。
これでは、黒蹄も回復しないと移動もままならない。
俺は冷静に、止められるかも分からないカールの魔奥を止めるよりも、自分の回復を優先した。
それに魔奥を発動した魔法使いとは一度戦いたかったのだ。
「『代わりに得たりは、誰も見ない永久不滅の美貌』」
「『星々よ、この身を照らし賜え』」
「『この身に星を隠そうとも、星々は訪れず』」
内部に星の如き輝きを放つ水晶の蝶の群れが出現し、カールの周りを飛び回る。
「『ならば、この身は朽ちてこそ輝く花となろう』」
蝶の群れは舞うと同時に辺りに水晶の花弁を散らせ、花弁は煌びやか欠片、銀の風となってカールの周囲を駆け抜ける。
「『花は独りで枯れてこそ美しく。永久砕けて、破滅を願う』」
蝶の群れと銀の風がカールを包み込む。
そして……
「『儚く砕けし水晶の花』!!」
その場に水晶の化身が如き輝きと美しさを持った存在が生まれた。
水晶で出来た花が彩られた王冠と荘厳な美術品でもあり堅牢な要塞が如き鎧から覗く銀色の蝶の羽。
それらを身に包んだカールの周囲には四つの花弁で構成されながら月下美人に似た水晶の花が二つ浮かんでいた。
悠然と夢然にカールは天から濡羽を一瞥する。
「私が魔術師相手に魔奥を使わされるとはね、黒曜濡羽。貴方の名は永久に覚えておくよ」
「そうかよ。じゃ、一生忘れられないようにしてやるよ!」
完全に癒え、無限インクを解放した濡羽から、一瞬にして純黒を超える魔力が発せられる。
「出よ、海の王者! 海王の三又槍!!」
濡羽の手の中に黄金が如き輝きと神代の紋様が刻まれた三又の槍が生まれた。
「勝負はこっからだろ?」
「……貴方は何処まで私を楽しませくれるんだ」




