第50話:提案、決別
祝、50話!
一時間後、試合場に俺は立っていた。
会場は変わらず熱狂が包んでいた。
「第二回戦第一試合、黒曜濡羽、対、カール・クラフトの試合を始めるぜ」
「てめーら、が知っての通り、キングクラウンの試合ではあらゆる武器の仕様が禁じられ己の魔術と魔法のみで戦うんだが……濡羽選手からの要望で今試合から特別待遇で一つの物品を試合中15分限定での使用が許可されるぜ」
流石に第二回戦から使わずに勝つのは無理だろうと、使いますと言ったけどこんな大々的に言うなんて……まぁ、大きく言っておかないと使った時に試合停止になるほど揉めそうだしな。今も揉め始めるし……
観客から罵声が実況と濡羽に飛ぶ。
「おかしいだろ!」
「神聖な試合を侮辱しているのか!」
「てめーら、落ち着くんだ。これは教授の決定なんだ」
教授の決定という言葉に観客は静まる。
流石に九人の魔女と敵対する勇気がある者は少ないらしい。
「それでは互いの健闘を祈って——ッッ、ファイッッ」
試合はあっさり始まった。
俺とカールは、距離を取りながら一つの所作も見逃さないように相手の一挙手一投足から目を離さない。
俺はカールに奇妙さを感じていた。
こいつ、殺意が揺らいでいる。
「濡羽さん、一つ提案を良いでしょうか?」
「何だ、試合中に」
「ここで棄権しませんか? 貴方は魔術師で、私は魔法使いです。どっちが勝つのかなんて明らかでしょ」
「普通はそうだが、昨日の試合で魔法使いが魔術師に敗れたみたいだが」
「キューピーの事ですか? 彼は魔法使いですが女性に好まれることに熱中し過ぎた腑抜けですよ。それにルナ様の前で恥をかくのは嫌でしょう?」
ああ、なるほど。
ルナと仲の良い俺は邪魔だが、ルナの目がある中で殺しては嫌われるからと躊躇し、今この提案を投げかけている。
冗談じゃない、戦いに色んなことを持ち込みすぎだ。
戦いに必要なのは覚悟と実力だけで十分だ。
「カール・クラフトだったか?」
「はい、提案に乗っていただけますか?」
俺は笑みと共に返す。
「乗る訳ないだろう。戦いのイロハも知らない芸術家気取りは去りな」
黒斑!
カールの腹に叩き込む。
練り上げられ濃密となり、黒色へと変色した魔力が打撃と共に爆ぜた。
カールは衝撃で、後ろに吹き飛んだ。が、足で踏み留まった。
「!」
拳を叩き込んだ場所には薄い六角形の水晶が張っていた。
「これが貴方の返答ですか。死ぬ前に一つ訂正して下さい、私は芸術家気取りではなく真の芸術家であると」
魔力が高まり、術式に流れ込まれる。
水色の水晶が地面から生じ、そして——
「水晶魔法『水晶槍』」
槍や棘へと変形し、濡羽を突き刺すように放たれる。
俺はそれを軽々と回避し、反撃しようと魔力を高めた瞬間。
「やらせませんよ。『水晶剣』」
水晶の槍によって死角になった場所からカールは飛び出し、水晶の剣を突く。
「チッ、近接も活ける口かよ。芸術家じゃなくて戦士にでも転職しろ」
魔力を纏った腕で咄嗟に防御に成功するが、掠ったのか頬に一筋の傷が刻まれ、血が流れる。
「貴方には言われたくないですね。それに私は魔法使い、兼、真の芸術家を変えるつもりはありません。『水晶矢』」
カールの背後に生まれた魔法陣から洗練された造形物である水晶の矢が複数生まれ、放たれる。
俺は逃げるように黒蹄で空中に飛ぶが、カールに操作されているのか向きを変えて追ってくる。
想定していなかった俺は、まともにくらう。
当たった瞬間、水晶が爆ぜ、光を反射しキラキラと輝くと同時に鋭利な破片がばら撒かれる。
「芸術家を舐めてもらっては困ります。造形とは魂を込める作業、魂の込もった造形物に追尾の術を刻むなど容易いこと」
「確かに造形は良いが、魔法使いとしての技量はまだまだだな」
カールの目には無傷の濡羽が映る。
濡羽が何をしたのかをカールは事前に調べていた情報から精査する。
「なるほど、黒衣ですか」
「何だ、知っているのか?」
「はい、黒曜秘伝唯一の防御技で相手の放った魔法、魔術が自らに当たる瞬間に自らの魔力をぶつけ、相手と術の魔力の繋がりを断ち切ることで無力することが出来る」
「下調べしているのか。戦いらしくなってきた」
「そちらも私の情報は調べてきているのでしょう」
「いや、俺はネタバレなしの本番を堪能したいんでね」
実際の戦場じゃ、下調べなんて出来ない。命を賭けた戦いは常に本番だ。
「黒曜らしい」
「そうだな。こんなに長く話したんだ、魔力も十分練れただろう?」
「そちらは練れましたか? 私の造形物に目を奪われていたようですが」
「戯言も終わりだ。黒曜秘伝、黒鳥!」
俺の体を羽毛のような黒いオーラが覆い、獲物を襲う鳥のようにカールへと飛び掛かる。
カールは両手を交差し、掌を向けてくる。
「終わりなのは貴方ですよ。水晶魔法『水蓮華・黄水力』」
両の掌から黄色の水晶で造られた蓮華が咲き誇り、光を纏う。
俺の拳と蓮華が衝突した瞬間、俺の体に電撃が奔った。
「チッ、電撃を扱えるのか!」
体が麻痺して上手く動かせねぇ。
「違いますよ、電撃もです。『六角・赤水力』」
身動き取れない俺を囲うよう六つの六角形の赤い水晶が出現する。
そして、焼き尽くすような火炎が水晶から生じ、俺を焼いた。




