第49話:待ちぼうけ
キングクラウン開催前の俺とミアの日常なら、自由に街を歩くなんて夢のまた夢だっただろう。
歩けばミアは奇異の視線を向けられ、俺は好奇の視線を向けられる。
ミアは更に酷く、勘違いした男が声を掛けてくるのは日常茶飯事。触れようとする者までいた。だから、ミアが一人で学院街に出ることなどほとんどなった。
しかし、今はキングクラウンでの活躍も広まったのか俺とミアには期待の視線を向けられ、堂々と笑って歩くことができる。
——それだけで、キングクラウンに出場して良かったと言えよう。
「あの、握手お願いします」
幼い子供から握手を求められるほどだった。
でもミア、やっぱり君は美人過ぎて少年の初恋奪っているぞ、確実に。
俺とミアは屋台を巡り、その両手が埋まるほどに食べ物を買って食べていた。
「私、人がいっぱい居る場所で楽しいって思ったの、生まれて初めて」
そう言って笑うミアの頬に、屋台の灯りが淡く揺れる。
きっと、彼女はこういう光景をずっと遠くから見てきたのだろう。
「俺も祭りは久しぶりだな」
両親がまだ居た時はよく連れていってもらった。
けど、彼我見に引き取られてからは修行ばっかりずっとしてたし、彼我見自身があんまりそういう場に行きたがらないから性格で、それをアイシスが怒るのは日常茶飯事だったな。
「そう、じゃお互いに祭りを楽しみましょう」
そう笑うミアはとても美しく愛らしかった。
「ああ、そうだな」
その時、不意に親子の会話が耳に入る。
「お父さんたち、まだ仕事残ってるから家でお留守番出来るか?」
「うん」
「帰ってきたら祭りに行こうな」
その会話に思い出す。
両親との最後の会話を。
「濡羽、ごめんな。夜遅くまで仕事で」
父親の温かい手が頭を撫でる。
「大丈夫だよ、お父さん」
「濡羽、仕事が終わったら一緒にケーキ食べて祝いましょうね。だからお利口さんでお留守番しててね。貴方もそれで良いでしょ」
母親の温かい手が俺を包み込む。
「そうだな。濡羽、誕生日プレゼントは何が欲しい?」
「じゃ、魔術教えて」
それが両親の最後の声だった。
次会った時には喋らなく冷たい手をしていた。
「濡羽、大丈夫?」
ミアの言葉に現実に引き戻される。
「ごめん。ちょっとフラッシュバックしていた」
声と顔に出ていたのか、ミアは心配してくる。
俺は何故か、ミアの手を握っていた。
「濡羽?」
ああ、温かいな。
いつかの時、彼我見の言っていた言葉を思い出した。
人は冷たいよりも、温かいを好み。一人よりも、仲間を好む。
「俺、本当にミアや皆んなと出会えて良かったよ」
ミアは少し驚いた反応をするが、すぐに応える。
「私も濡羽と出会えて良かった」
一瞬、ハグしそうになったが抑える。
だって、俺はミアの彼氏じゃなくてただの親友だからな。
「ミアって、兄弟いるのか?」
兄が居るなら、早めに紹介してもらわないと怒られそうだ。
ミアの返答はいつもより遅かった。
「知らないのね」
「え?」
「何でもないわ。兄は居たけど今は居ないわ」
「それって?」
「13年前、私が6歳の時に私以外のみんな殺されたの。犯人は一人の魔法使いだった」
魔法使いの犯行で13年前……俺の両親が“殺された“のも13年前だ。何かミアの事件と俺の両親の事件は関連性でもあるのか。
「その魔法使いはまだ子供だったこともあって……元老院から大きな処罰を受けず、今も自由に生きてるの」
ミアの声が、冷たい。
「ねぇ、濡羽……“変えられないもの“もあるのよ」
彼女の目が一瞬、壊れたように笑った。
その笑顔が恐ろしく、美しくて——俺は何も言えなかった。
「ごめん、変なこと言ったわ。忘れて」
そうして俺とミアのデートは終わった。
翌日、大競技場には多くの観客が詰め、歓声が嵐のように渦巻いていた。
「さぁて、今日はキングクラウンの決勝までやっていくぞ。優勝者が決まるまでその目が渇くほどにかっぽじって見ろよ、テメェら」
実況のバラディの声に、観客はどよめく。
巨大な魔硝スクリーンに映し出される対戦表。
第一試合。黒曜濡羽、対、カール・クラフト。
第二試合。ブラン・ホワイト、対、東雲烈火。
第三試合。ルナ・フェメノン・ルージュ、対、ミア・ファタール。
第四試合。茶臼織可、対、シェリー・フェメノン・ルージュ。
「ここで黒曜彼我見からありがたい言葉をいただくぜ」
「黒曜彼我見だ。皆に宣言しよう、この日、魔法使いと魔術師の歴史は変わる、新しい時代の到来となるだろう。椅子にふんぞり返って、高みの見物を決め込んでる連中、新時代がお前らを引き摺り下ろすぞ」
流石、叔父さん。
全方面の首脳部に堂々喧嘩売ってるけど、これこそ黒曜家らしい。
「今日生まれるキングクラウンの優勝者は、新時代の旗となるであろう」
こうして火蓋は切られた。




