第47話:魔王
第八試合は魔王の戦いということで、観客が多く大競技場以外では収容出来なかったので、織可の戦いが終わった後に行われることになった。
俺たちも選手陣だけの特別観客席から眺め、試合を待っている。
「ねぇ、そもそも魔王ってどんな称号なの?」
ミアの質問にルナが戸惑う。
「どんなと言われても最強の魔法使いの称号としか……」
長年、ミアと居る俺がフォローする。
「ルナ、ミアには多分、魔王という称号の誕生とか歴史を教えた方が良いじゃないかな」
「そうですか」
そうルナは魔王の歴史を語り始めた。
魔王並びに光明、賢者、精霊の称号は始まりの魔女ご存命の時代に魔族との戦争時に生まれた異名が今も引き継がれている物で、魔王とは魔族を最も殺した魔法使いの王という意味。
ここで言う魔族とは、魔技と呼ばれる魔法と魔術の中間のような術を扱う魔力持ちの種族の事で、彼ら一人で魔法使い一人に匹敵するとされる。
「それって魔王はどれほど魔法使いが居ても敵わない存在って事」
「はい、程度の低い魔法使いでは歯が立たないでしょう。魔術師なんて言語道断です。それに妹は、98代目魔王は初代魔王に並ぶとされる魔法の申し子にして、戦闘の天才です」
戦闘の天才か、言語道断だけでも戦いたくなるのにシェリーは魔王の中でも上澄みって……戦闘意欲が湧くな。
「姉なら妹の魔法、知ってるでしょ。教えてよ」
「ミア、失礼だぞ」
魔法の情報なんてそんな簡単に漏らすものじゃない。
魔法使いも魔術師も情報を多く握っている方が強いんだから。
「良いですよ」
「いいのか? 本当に、怒られたりしないか」
俺たちに漏らしたからってルナが家の人間に責められるのは避けたい。
「難解で独特な魔法なら隠した方が良いですけど、シェリーの魔法は私と同じように単純な魔法なんで知ってるだけじゃ、大した脅威にならないんですよ」
その時、試合開始五分前のチャイムが鳴る。
「もう試合が始まるので試合の時に教えますね」
***
「第八試合、シェリー・フェメノン・ルージュ、対、限銃無窮」
短い銀色の髪を風に靡かせ、長杖を持ちながら魔王ことシェリーは試合場に立つ。
相手はカウボーイハットを被った男性で、腰にはホルスターを下げていた。
「シェリーが魔王になって初めての戦いを見ようと観客席はぎゅうぎゅうで溢れそうです。対する無窮は落ち着いた雰囲気ですが魔王を倒す策があるのか? それでは互いの健闘を祈って——ファイト」
試合開始と同時に、両者は術を行使する。
「銃撃魔術『銃創』……ッ!」
無窮の手の中に回転式拳銃が生成されるが、弾倉に込められた弾丸を放つ前に雷撃が破壊する。
「顕性魔法『雷撃』」
雷撃を放ったシェリーの掌には雷が踊っていた。
「顕性魔法。私の潜性魔法とは逆の性質で私のがあらゆるものを“潜行“させるのに対し、あの子のはあらゆるものを“顕現”する魔法」
ルナの解説に呼応するようにシェリーの掌で踊っていた雷が槍の形をとる。
「そして顕現したものは自由に変形・操作することが出来る」
「『雷槍』」
雷の槍が駆け、無窮の右肩を貫き抉る。
「くっ」
無窮は傷を抑え、膝を付く。
「まだやる?」
シェリーの背後には炎、水、風、雷、岩、葉……ありとあらゆる属性の槍が浮かんでいた。
無窮がここから勝つ筋はなかった。
これが魔王……98代目魔王シェリー・フェメノン・ルージュ。
「まだ負けてねぇ」
無窮は後方に飛び、距離を取りながらハントガンを生成する。
「負けでしょ、貴方の固有魔術『銃撃魔術』は銃と特別な弾丸の生成が出来る魔術。貴方本来の戦い方は状況によって銃と弾丸を使い分ける戦法だけどその肩じゃ、使えるのは反動の少ないハンドガンのみ。ハンドガンで出来ることなんて限られるし、その程度で魔王を倒せるとでも?」
「やってみなければ分からないだろう。『弾創、追尾弾』」
追尾する弾丸が生成され、シェリーに向かって撃つ。
「意味ないって」
水の塊が弾丸を絡め取り、停止する。
その間に無窮はシェリーとの距離を詰める。
この行動の理由はハントガンの弾丸程度ではシェリーの防御を突破するにはギリギリまで近づくしかないからだろう。
でもそれは一手でも間違えば、敗北が確定するような無謀な賭けだ。
「貫け」
シェリーの背後にあった槍が一斉に無窮に向かって飛ぶ。
無窮はそれらをギリギリで回避しながら駆ける。
これはもしかしたらあるかもって思ったがシェリーの余裕そうな雰囲気にないなと考えを戻した。
「広がれ」
瞬間、氷床が試合会場一面に広がり、全力疾走していた無窮は滑りそうになる。
そんな危機的状況で無窮は弾丸を発砲する。
「『爆撃弾』!」
シェリーが生み出した氷盾とぶつかった瞬間に弾丸は爆裂し、黒い煙がシェリーの視界を制限する。
それでもシェリーは冷静に、自分の周囲を炎で焼き包む。
煙が晴れ、シェリーの視界に映ったのは滑って転んだ無窮の姿だった。
「もう無理、負けだ」
あっけない形で第八試合は終了し、初日のキングクラウン第一回戦は終わった。
***
競技場から外に通ずる地下道を無窮は一人歩いていた。
「ああ、アレが今代の魔王か」
その雰囲気は試合に出ていた時とは異なり、ドス黒い殺気と死体の匂いを纏っていた。
「これ、もう要らないな」
無窮は自らの顔に指を突き立て剥がし、ゴミ箱に捨てた。
そこには長い緑色の髪をした悪魔のような男が立っていた。
悪魔は懐から狩人帽を取り出し被ると、狂気的な笑みを浮かべる。
「ハハ、楽しめそうだ」
そう悪魔は競技会場を後にした。




