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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第45話:風剣

 風が、竹の葉をさらりと撫でた。

 その音はまるで、水面を渡る琴の調べのように柔らかい。

 福州式の庭園——人口と自然が溶け合う、静寂の楽園。

 白壁と黒瓦の回廊が幾重にも重なり、曲がるたびに違う景色を見せてくる。

 池には蓮が浮かび、金色の鯉がゆっくりと尾を揺らしていた。

 水面には、紅い欄干と、空の青が鏡のように映っている。

 近くの岩山から細い滝が流れ落ちる。

 苔むした岩の間を抜けて滴るその音が、庭全体に静かな呼吸を与えている。

 風に混じるのは、沈香のような甘い香り。

 どこか懐かしく、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

 僕、茶臼織可は隣を歩く人物の方を向く。


「流石、千利兄だね」


「弟のためなら、このくらいするのは当たり前だろ」


 ここは茶淡家が運営する茶苑『チャカ』が新しく出展する学院街店だ。

 茶淡家はこのような形態のお店を無能力者の世界にも出しており、その利益で発展し準七家に選ばれている。

 昔の魔術師価値観ではこのような事を行う事はなかったが、茶淡家の当主となった僕の兄、茶淡千利は価値観に拘らず自由な発想を実現させる人物で、そのような視点は若い魔術師から憧れている、僕もその憧れる一人だ。


「でも、僕の魔術のためとはいえお金掛かったでしょ」


 僕の盆景魔術が領域内で再現する景色は、実際に僕が見た景色でなければならず、更に河の景色なら実際の河でなくてはならず。

 この福州式の庭園も庭景として再現できるように実際の福州式に則って作られている。


「弟のために努力とお金を惜しまないのは兄の勤めだろ。それにキングクラウンに出るんだから一つでも手札は多い方が良いだろう?」


「確かにそうだけど……」


 兄さんはどうにも僕のことを大変気に掛けてくれるが、僕はその気持ちに応えられているのかと病んでしまう。


「織可。そんな気に病むなら兄さんに試合で勝つ所を報酬に見せてくれないか? 織可が学院で学んで成長した所見たいんだ」


「分かった」


 その時、携帯の通信音が鳴る。


「ごめん、兄さん」


「いいさ」


 携帯を開き、キングクラウンの速報を見る。

 ルナさんは流石だけど、ミアも勝ったのか。

 マグス・ラナティと言えば、有名な人造魔術師だけどよく勝ったな。

 こうしちゃ居られない、僕も勝たないとな。


「兄さん、もう少しで試合始まるから会場に戻ろうか」


「もう、そんな時間か。織可、先に戻ってて良いぞ。まだ用事があるんだ」


「分かったよ、じゃ会場で」


 僕は急いで会場へと戻る。

 待機室には濡羽、ミア、ルナさんの姿があった。


「二人ともおめでとう」


 僕はそう言いながら、待機室に入る。


「織可、いま戻ってきたの?」


「ああ、兄さんの作った庭園が綺麗で時間忘れてたよ」


 ミアの質問に答え終わると濡羽が近づき、肩に手を置いた。


「親友、負けるなよ」


「負けるわけないだろう、君に教わった黒曜秘伝も活かすし」


「織可さんにも教えているんですか? 私には教えてくれてないのに」


 ルナさんが濡羽に詰め寄る。


「黒曜秘伝って魔術師専用の技術だからルナには教えても意味がないんだよ」


「じゃ、代わりに今日の午後、一緒に学院街を回りましょうよ。魔女の競技会でいっぱいお店が出ているそうですし……」


「それは……」


「ルナ、ごめんだけど。先に予約してるから」


「嘘……」


 ミアは勝ち誇ったような表情をし、対照的にルナは絶望的な顔をする。


「ルナ、今日は無理だから明日の午後で良いか」


 明日はキングクラウンの二回戦〜決勝までやる予定だけど大丈夫か。

 それにしても濡羽はモテモテだな。いかんいかん、試合に集中しないと。


「濡羽、本当に黒曜秘伝。俺やミアに教えて良かったのか? 確か黒曜秘伝って黒曜家とその分家以外門外不出だったはず」


「お前らは親友だからって、叔父さんを説得したんだ。でもお前らが他の人に教えるのは無しだぞ」


「分かってるさ、そのくらい。本当にありがとう」


 よく濡羽の戦いを見ていたから分かっていたけど、黒曜秘伝は便利だ。

 魔術師が戦闘において届かない所に手が届き、戦闘力を格段に向上させる。


「あ、もう試合の時間だ。じゃ、僕は行くね」


「絶対に勝てよ」


「勝ちなさいね」


「勝つことを願っています」


 三人に勝利を願われ、若干重いと思いながら僕は満面の笑みで答える。


「勝つさ」


 試合会場、大競技場。


「第七試合、茶淡織可、対、刀剣宗近の戦いを始めます」

「どちらの家系も準七家に属し、茶淡家は風流を、刀剣家は剣術を掲げ活動しどちらも表世界でも活動している珍しい魔術師一族でもあります。風流と剣術、どちらが上なのか今、決まる」

「互いに誇りと名誉を懸けて、ファイト!!」


 試合開始と同時に僕と相手は動いた。

 僕は魔術を発動する準備を、相手の宗近は刀を抜き構えた。

 刀剣家、剣術を主体に魔術を行使し剣術の腕では黒曜家の戦闘魔術師を超えるとされる剣術使いの魔術師。

 対する僕は、ただ風流に重きを置いた風流魔術師だ。

 でも負ける気はしないし負ける気なんてない。

 さぁ、掛かって来い! 風流魔術師の意地を見せてやる。

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