第43話:彼の隣
第四試合は東雲家の魔術師が勝利したらしい。
その時、俺は自分の携帯と借りたミアの携帯で同時に第五試合と第六試合を視聴していた。
第五試合。ルナ・フェメノン・ルージュ、対、夜烏鵺。
第六試合。ミア・ファタール、対、マグス・ラナティ。
***
第五試合会場、両者は互いに相手の動きを注視する。
ルナは先手も後手も行えるが、後手の方が得意で鵺もそれが分かっているので動けずに居た。
しかし、その静止を破るように待てなくなった鵺は魔術を行使した。
「変態魔術、『変生』」
鵺の体が変貌していき、人の形をした獣へと移る。
その四肢は強靭な筋肉で補強され、手は広がり爪は鋭く伸びる。全体的に頑強で大きくなり、鵺は四つん這いに似た腰を低く落とすような構えを取った。その見た目は虎に似ていた。
変態魔術、体質系統の魔術でその体を生物のそれへと変化させる魔術。
ルナの潜性魔法は潜らせることが出来るのは、生物以外の全てが対象で普通の魔法や魔術なら潜らせ無効化することが出来るが体質系統の魔術を無効化することは出来ない。
鵺は獣の足で地面を強く蹴り、ルナに飛び掛かる。
「ッ!」
ルナは手に持つ長杖を振るう。
しかし、宙で翻った鵺に容易く回避され懐に入られる。
鵺の足が地面に付くと同時に剛爪が振るわれるが、その爪が届く寸前で鵺は体勢を大きく崩す。
「『潜沼』」
鵺の足元が沼のように沈んでおり、足元を掬われる。
「『浮上』」
身動きの取れない隙にルナは潜らせていた魔術を再浮上させ、現実化させる。無数の炎球が鵺に向かって、弾幕のように降り注ぐ。
「『部分変態、豹』」
足だけを豹の足へと変化させ、その足腰とスピードで沼から抜け出し、回避行動をとる。
「逃がさないわよ……『浮上』」
鵺が回避した場所を包囲するように氷の槍が出現し、放出される。
無数の氷槍が鵺に叩きつけられる瞬間、彼はその体を更に変化させる。
背中から大きな猛禽類の両翼が生え、羽ばたき彼は空へと逃げる。
「朱の魔法使い。諦めた方が良いですぞ」
「何を言っているの?」
「私の魔術は生物の進化そのものであり、私はそれぞれの生物の一長だけを私に与えることが出来る」
更に鵺の体が変化していく。
既存の足が偶蹄類の物に、バッタ目の後ろ足が生え、両腕は熊に、背中からは猛禽類の翼を、両目は昆虫の複眼へと変態した。
「地を駆け跳ぶ脚、剛腕剛爪の手腕、空を回る翼、全てを見る眼……人の体を超える生物の体など挙げたらキリがない。私がこの形態を取っても君を狩ることは無理だというの先ほどの攻防で分かった、だがのらりくらりと時間を掛けて魔力を消費させてしまえば勝機はある」
「朱の魔法使いに大胆な発言ね」
「実際、そうだろう。魔法使いとて人、進化の集合体である私に勝てる道理など……ッ!」
その時、何らかの攻撃を受けたのか翼が欠け、鵺は地面に堕ちた。
「チッ」
鵺はルナから距離を取ろうとバッタの脚で地面を蹴ろうとしたが、スカってしまって地面に崩れる。
見ると、バッタの脚は人間の脚へと戻っていた。
「何をした?」
「私の潜性魔法の仕組みって知ってる?」
そうルナは解説を始めた。
世界は縦、横、上下(奥行き)の立体で構成された3次元の物理空間だ。ここから上下を無くせば、二方向に動ける平面の二次元となり、縦または横だけになると一方向にしか動けない線の世界となる。
ルナの魔法は魔法対象の次元を落とす=潜らせることで現実の次元から感じることも触れることさえも出来ない低層の次元へと落とすことが出来、上げることも出来る。
「だから、それで魔法や魔術なんかを潜らせているんだけど、それだけじゃ通用しない人も居るから私は更に対象を細分化したの……魔法や魔術を構成する魔力へと」
「は、何を言って?」
鵺が驚くのも無理はない。
魔法とはその強大すぎる効力から繊細な操作に対しての難易度は高く、対象を魔力にし魔法を発動させるのなど普通の魔法使いには無理なことだ。
「生物は対象外だから体内に匿う魔力への干渉は無理だけど、さっきみたいに既存の体から魔力を用いて大きく飛び出ている部分なら対象に指定できる」
それはつまり、鵺は大規模な変化が出来ないことを意味する。
「それと私の魔力が付着していれば、更に小さく目に見えない物も潜らせることが出来る」
瞬間、鵺は息苦しくなる。
呼吸しようと何度も空気を吸っているのに意味がなかった。
「酸素を潜らせたの……さっきの大胆な発言を後悔しながら負けを認めることね」
鵺は気絶し、ルナの勝利が決定した。
ルナは勝利に身を震わせることなく思う。
ミアちゃんは大丈夫そうかな? 相手、変な魔術師だったけど。
でも彼の隣に立ちたいなら、勝たないとね。
***
第六試合会場。
ミアは相手を見る。
相手は南の異国出身の魔術師で異質な雰囲気を纏っていた。
そして魔力の発露と共に、その言葉を口にする。
「『دریا』」




