第41話:予想出来ない展開
明けましておめでとうございます。
これからも「黒泥の魔術師」をお願いします。
試合を終え、待機室で休憩中の俺にもたらされた情報に俺は驚きを隠せなかった。
「キューピー・ラバーがホワイト家の魔術師に敗れただと……」
俺以外にも魔法使いを敗る魔術師が出場していると思ったが、それがホワイト家だなんて……絶対にこの情報を聞いた叔父は顔を顰めるだろうな。
黒曜家とホワイト家は誓約の内容から初代から犬猿の仲で、長い両家の歴史の中で表立って争うことはなかったが裏ではだいぶ揉めており、どちらも苦汁を飲まされてきたので常にギリギリの関係だ。
「それにしても、何でお前がここにいるんだ? 橡」
俺はその情報をくれた黒縁眼鏡を掛けた自分より若い程度の少年を見る。
「御当主様の指示で旅団を連れてくるように命じられたのと、次期当主様にこの情報と言伝を預かっています」
何で旅団を動かしたんだ。
学院で何かする気か、まぁ家の方針に口は出さないけど。
「言伝って?」
「売られた喧嘩には倍返ししろと」
「あっそ」
なるほど、それで。
最近の目まぐるしい彼我見叔父さんの活躍に怒っていたホワイト家は今回の試合で自分たちにも出来るぞと言わんばかりに魔法使いを倒した。
これは魔法を魔術で打ち破ることを誓約している黒曜家に対する宣戦布告と見ていいだろう。
黒曜は売られた喧嘩を買い、売った相手に倍返しするのが礼儀だ。そのホワイト家の魔術師とぶつかるのも次の二回戦を勝ち進んだ準決勝だけど、それまで負けるなよ。
「橡、受け取ったから戻っていいぞ。後、俺は次期当主になる気がないから濡羽って呼んでいいぞ」
「いえいえ、本家の人間に分家の私が……」
「昔は呼び捨てだったのにな?」
橡の家は本家である黒曜家当主を支える補佐官を輩出する家系で、その関係から橡が小さい時から親交があったし、一緒に遊んだ記憶がある。
「その話は辞めてください。そろそろ戻らないといけないので、これで」
半ば逃げるように橡は待機室から出ていった。
橡と間を置いて入ってきたのは、シュッツだった。
「よっ、一回戦突破おめでとう」
そう彼は空いている席に座った。
「魔件局は今、会場の護衛してますよね。仕事中に抜け出すのは良いんですか?」
「ダメだけど、オジサンが居なくても元老院の問題解決室の人間も優秀な後輩も居るからな。織可とあの嬢ちゃんはどこに居るんだ、確か二人も出場選手だっただろう」
「織可は開催前から家の用事があって、試合の少し前に来る予定です。ミアは次、試合なんで別会場に居ますね」
「そうか、それならタイミング良いな。織可とオジサンが捕まえた魔導師居ただろう」
「居ましたね」
ミアを犠牲に大規模魔導円を起動しようとしたあの魔導師のことだな。
「アイツ、見た目の割に年も結構いってたから無理やり情報吐かせられなくてね。やっと最近、口を開けたんだがその中に気になる情報があったんだ」
気になる情報。
「オジサンとお前の読みでは魔導師とエングは同じ目的のための同士だと思っていたが実は違かったらしくてな。あの魔導師はエングの所属する組織に雇われたそうなんだ」
「組織って剣獣の事ですか?」
「いや、違う。剣獣もその組織の下部組織らしい」
剣獣を従える組織……この情報が足りなくて、アイシス先生との約束を果たせなかったのか。
「その組織は12年前に活動を始め、8年で50を超える魔法使いの殺害と複数の元老院議員を輩出した魔法使い一族全員の殺害に関わっているとされ、分かっているのは構成員の数とその異名と組織名だけだ。
組織の名は『傷跡』、魔法魔術世界の転覆を目論むテロリスト組織だ。構成員の数は死んだ刻み屋エングを除き、五名。
一人は魔導円を含む図形や数字に精通した魔術師『数学者』、一人は騎士甲冑に身を包んだ老年の男性騎士『傷痍騎士』、一人は闇夜を照らす光が如き魔法使い『明星』、一人は黒の喪服を纏った魔術師『黒寡婦』。お前も気をつけろよ、オジサンたちの見立てじゃ一人一人が魔法使いを容易く倒せるほどの実力を持っていると予想している」
そうシュッツさんは去ろうしている。
「シュッツさん、まだ四名しか説明してないぞ」
「ああ、忘れていた。最後の一人は情報が少ないんだ、分かっているのは若い女性な事と全身と顔を隠すようなローブを羽織っていることだけだ。オジサンたちはその人物が傷跡のボスだと踏んでいる」
「分かりました。周りにも言っておきます、仕事頑張ってください」
「へいへい」
シュッツはそう待機室を去った。
俺は考えことを始める。
傷跡、12年前から活動を開始した……何か引っ掛かるような。
俺は思考の海へと堕ちていく。
***
仕事に戻ろうと廊下をシュッツが歩いていると、前から押す人が居らず自ら動かしている気配もないのに動く車椅子に乗った人物が来た。
その人物は20代半ばほどの女性でマジシャンのような燕尾服を見に纏い灰色の髪、金色の瞳、片目には黒い眼帯をしており、黒のシルクハットから覗くように猫耳が飛び出ていた。その左腕から先は欠損しており、両足は包帯に巻かれていた。
「アレレ〜〜サボりかい? シュッツくん」
シュッツはその容貌に似つかわしくない陽気で飄々とした態度に慣れたように接する。
「局長……何でここに居るんですか?」
「私に隠し事は無理だと言わなかったかい? それと局長ではなくタリヤちゃんと呼ぶ。後、私を本部まで運んでくれないか」
「へいへい、タリヤちゃん行きますよ」
シュッツは慣れたように車椅子を押して魔件局の本部まで運んでいく。
運びながら常々、思う。
彼女、タリヤ・灰霧・シャフラが魔件局の局長にして10名も居ない秘級魔術師『愚者』だと知らなければ誰も思わないだろう。
「シュッツくん、喉乾いたから競技場の売店で飲み物買って」
「へいへい、分かりましたよ。タリヤちゃん」
本当、はたから見ればただの陽気な少女なんだよな。




