第36話:魔女の競技会
濡羽の意識が戻ったのは、その数時間後のことだった。
「おい! 勝ったのは俺だよな」
彼我見がそう隣で宣言する中、俺は真っ向から否定した。
「いや、俺だよ。叔父さん、大人気ないよ」
「お前も大人だろ!」
「確かに18だから俺も、もう大人か」
「大人同士なら対等に行こうか?」
両者、拳を構える。
そして同時に振り下ろした。
「じゃんけん、ポン」
「あいこでしょ」
「しょ」
「しょ
「しょ……」
勝負が終わり、やっと話し合いに移った。
「アイシス、俺を呼んだのはこいつと喧嘩させるためか?」
「違うわ。あなたには……」
「アイシス。俺に他人行儀はよしてくれ、親友だろ?」
「そうね、コホン。彼我見君、濡羽君を学院最強にしてくれない?」
俺は叔父の表情を見る。
叔父、彼我見はそれがどんなに良い結果をもたらそうと面倒なことを嫌う性格だ。
だから、この頼みを受けるとは思えな……
「良いぜ」
え、あの叔父が。面倒そうな仕事を引き受けた。
「受けてくれると思っていたわ。報酬は……」
彼我見は再度、アイシスの言葉を中断させた。
「報酬はいらない。お前の頼みってことは、重要な事だろ? いつも、お前とアウスが俺を頼る時は重要な時だけだ。ってことは、今回もそうだろ? いつも言っているだろ、重要な時は無償で助けたやるって、それが親友ってもんだろ」
「そうね。彼我見君はいつも、どんな問題でも私たちを無償で助けてくれた……今でも本当に感謝しているわ。本当にありがとう」
「良いってことよ。あとは俺に任せて、仕事に戻りな、お前は俺と違って暇じゃないだろ」
「じゃ、頼むわ」
アイシスは足早に去って行った。
「おじ……」
彼我見が一気に殺気を向けてきたので出かけた言葉を飲み込み、変える。
「師匠、アイシス先生とはどんな関係なんだ?」
「しーて言えば大親友だな。まぁ、俺は親友として、あいつのことを救えなかったけどな」
救えなかった? 何の事だろうか。
「おい! 俺の詮索よりも、大事なことがあるだろう?」
彼我見が俺の頭をゲンコツする。
「現最強の魔術師の俺がお前を学院最強にしてやるよ。死にながら修行に励めよ、死んだら生き返らせてやるから、感謝しろ」
彼我見は意地悪な笑みを浮かべていた。
これ、俺死ぬかも?
***
10日後、喝采と歓声が会場に響く中、開式の宣言が大きく響く。
コロッセオのような円形会場の観客席を人々が埋め尽くす。
世界に広がった魔法・魔術家系、技術、才能の全てが集った。
今、ここに現代魔法・魔術の全てがあると言っても過言ではない。
「世界中に広がりし、同胞である始まりの魔女、始祖の子らよ」
「魔術を高めろ、魔法を磨け! あらゆる困難、苦悶をその技と術にて撃ち倒せ!」
「我らは魔の子! 自由と願いを叶えし者なり!」
「始祖の御言葉のもとに、魔女の競技会の開催を宣言致します!!!!」
一斉に会場全体から声という声が挙がり、空に響いた。
会場外円部から魔法と魔術の閃光が花火のように咲いた。
数時間後……会場に実況の声が響く。
「速い速い、速過ぎるゥーー!!」
会場上空に設置されたコースをもの凄いスピードで人が飛ぶ。
飛行瞬走、飛行出来る魔法使い、魔術師がどれだけの速さでコースを完走出来るか競い合う競技。
先頭選手に追いつき追い抜こうと他の選手もスピードを速める。
「おっとコースアウトだ」
スピードを抑えられず、一人の選手がコースから外れた。
「今大会、最高点数976点が出されたぞ!」
会場では、多種多様な造形物が魔法、魔術によって作られ審査員が評価基準をもとに点数を算出していた。
それらを眺めるように貴賓席には複数の魔法使いが座していた。
「変わらず、うるさいですね」
青髪の美魔女がそう言うと隣に座る、光の貴公子が言った。
「良いじゃないですか? 学生たるもの、騒がずして意味などありますか?」
「うるさぎて草。でも青春で花」
光の貴公子と一つ席を空けて座っているウェーブの掛かった緑髪の女性が賛同するように言うと、美魔女は少し笑い、二人の方を向いた。
「君らも変わらずだね。ライター会長、ニトロ副会長」
「賢者にそう言って頂くと嬉しいですね……ジェニー・ギフト・マジシャン・フェメノン・アージュさん」
「長ったらしいだろ、ジェニーで良いよ。私は今日、次期光明と次期精霊と仲良くるなるために来たわけじゃないのでね。今日は弟子を見に来たんだよ」
「弟子ですか……誰のことですか?」
「どうせ分かっているんだろ。私は見に来たんだ、話をしに来たわけじゃない。意味のない会話と腹の探り合いはお断りだよ」
ライターはニコッと笑い、自分の隣の空いた席を一瞥してから答えた。
「ああ、朱のお二人ですね! やはり一番弟子は妹の方ですか?」
「フフ、ハハハハハ!!」
ジェニーは豪快に大きな声で笑った。
いつも冷静沈着とされる賢者が笑うという珍しい場面と帰ってきた反応にライターは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
「若い光よ。人々を導こうと考えるなら、人の才を深奥まで覗くことだ」
賢者らしい全てを知っているというプライドからくる表情と声音にライターは今まで以上に張り付いた笑みを深める。
「それは、楽しみだ」
ある競技開始の音色が響き、ライターの興味は更に高まる。
いや、ライターだけでなくここに集った全魔法使い、魔術師の期待と興味が湧き高まる。
それは焦燥と興奮から来る心と魔の高まり。
なぜなら、次の競技は……




