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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第33話:自称、最強の魔術師

 俺は中央階段広場で息を深く吸い吐いた。

 その深呼吸という心を落ち着かせる行為を何度も何度も行うが、俺の心から怒りという感情と言いように利用されたという反骨心は消えなかった。

 仕方なくその炎を鎮める言葉を吐いた。


「クソがァーー!!」


 気分が落ちるくと隣の女性に声を掛ける。


「俺をはめたのか? アイシス先生」


「違いますよ。どうやら教授らは私とあなたの約束の事を知ったらしく、私も給料アップに釣られて仕方なく」


「そうですか、なら仕方ないですね。職員は上に逆らえませんしね」


「許してくれるの? 謝罪で体を求められると思っていたのに……」


 やっぱり、少しだけ起こりたくなってきた。


「アイシス先生は俺の事、どんな奴だと思っているんですか。幼い時の俺を知っているのに……」


「濡羽のえっち」


「破廉恥な」


「ミア、ルナ。君らまで乗っかると俺の収拾が追いつかないから」


「濡羽君。また女子生徒に手を出したんですか?」


「本当に俺をどんな奴だと思っているんですか、本当に」


「冗談はこれくらいにして、こちらで貴方を強くするための人材を選んでおいたから、そろそろ来ると思うわ」


「ありがとうございます。ですが、冗談かどうか俺が決める事なので」


「え、冗談に決まってますよ」


「そうですよね」


 絶対に冗談じゃないな。


「アイシス、ここに居たか」


 廊下の奥から声が届き、人影が見える。

 しかし、この声聞いたことがあるような。


「遅かったわね。どうせ、顔を合わせるのが久しぶりでどんな顔で行けば良いか悩んでいたんでしょ」


「俺がアイツに会うからって悩む訳ないだろう」


 その人物は革鎧の上にコートのようなローブを羽織っており、艶のあるカラスような髪色のボサボサ髪、黒にも白にも属さない灰色の瞳。そして、どことなく雰囲気や体型、顔立ちが濡羽に似ていた。


「初見さんも居ることだし、自己紹介するか。俺は黒曜彼我見(こくよう かがみ)。そこの濡羽の叔父にして……最強の魔術師だ」


「この人が……」


「濡羽の叔父さん」


 黒曜彼我見、20年前の杖剣大戦時に活躍した三人の英雄『三杖士』の中で唯一の魔術師で最年少で一級魔術師となり、今は最も秘級に近い魔術師とも言われている。

 その功績に見合うだけの実力を持ち、勝負を仕掛けた魔法使いのほとんどを打ち倒し、七家の魔法使いでも彼に勝負を挑むのは無謀だとしている。

 ミアとルナが驚きで停止する中、俺は真正面から突っ込む。


「おい、何が最強の魔術師だ。50代にもなって恥ずかしいね」


 彼我見は額に怒りマークを浮かべ、一歩前に出て怒声をあげる。


「ああ! (自称)でも付けとけば満足か! マセガキ」


「誰がマセガキだ! ぶっ殺すぞ、中年」


「おいおい誰が中年だ。俺はまだ、ピチピチの41だ。それにお前、俺に勝ったこと一回もねぇーじゃん」


 ミアもルナもアイシスも中年じゃんと思いながらも、二人の口喧嘩に呆れて声を出さなかった。


「前回戦ったの学院に入る前だから5年前だろ。俺も5年で強くなったから、余裕で勝てるね」


「言ったな、マセガキ。それじゃ、稽古の前にその心をへし折るか」


 二人は仲良く、学院に併設された訓練場に移動した。

 濡羽と彼我見、二人の黒曜が距離を取って拳を構え、向き合う。


「これで俺が勝ったら、土下座な」


 俺は拳を振りかぶりながら駆ける。


「ガキに負けるほど俺も鈍ってねぇよ。勝ちたいなら、美人なねぇーちゃん連れてくるんだな」


 彼我見も同じように駆ける。


「「黒曜秘伝、黒斑!!」」

 

 両者の拳がぶつかる。


「「ぶっ殺す」」


「「黒曜秘伝——」


***


 三人は遠くから二人の勝負を無言で眺めていた。

 しかし、その静寂を破るようにアイシスが口を開く。


「ミアとルナさん。この勝負、決着つくまで時間掛かると思うから先に講義に行ってて良いわ。濡羽は私が口添えして、講義免除出来るけど二人は講義あるでしょ」


「分かりました」


「……はい」


 ミアは冷静に引くが、ミアは表情を少し曇らせ拳に力を込め下を向きながら答え、足早に去った。

 ルナはその様子が気になり、急いで追いかけた。


「待って、ミアさん!」


 ミアは足を止めたが、背後に居るルナの顔を見ようと振り返らなかった。


「何?」


「どうして、そんな悲しそうなの?」


 ミアは上体だけを後ろに向け、その暗い瞳を向ける。


「はぁ〜〜、分からないでしょうね。生まれた時から恵まれている魔法使いに私みたいに生まれた時から不幸しか背負っていない者の気持ちなんて」


 それは明らかな拒絶だった。

 大抵の人間なら、ここで引いてしまうだろうが言われたのは魔法使いでありながらも魔法使いらしくない行動をするルナだ。

 背後からミアを抱く。


「大丈夫だよ。ゆっくり呼吸しながら思いを吐き出して、私に何を言っても良いし、泣いてもいいよ」


 ミアは思い出す。

 確か、あの時もこんな気持ちだった、と。

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