第31話:術式潜性
リネス・パーソン筆頭教授補佐官。
彼は他の魔法使いと違い、常に魔力が外に垂れ流しになっており彼の周囲に渦巻いていた。
垂れ流しになっているが、彼の周囲から魔力は何故か広がっていなかった。
「リネスさんの魔法は少々特殊で、リネスさんの意思関係なく自分に作用しているんです」
ルナの言葉に納得する。
だから魔力が垂れ流しなのにあまり広がっていないのか。
聞いたことがある。強力な魔法の中には術者の行使から抜けるものもあるとか。
「はい、孤独な僕の孤独魔法は孤独を操れます。ゆえに孤独な僕は孤独なんです」
何回、孤独って言ったこの人。
でも確かに魔法が作用しているのかこの人と長く居たいとは思えないし、これが魔法に使われるか。
「それで、今日は何の用事があって?」
ルナはリネスに説明する。
「ああ、あれですか。あれは教授たちの行った会議の決議です」
学院を支配する九人の魔女。
そもそも魔女とは、始まりの魔女のように強力な魔法を扱う女性を指す言葉だ。
昔から男性より女性の方が強力な魔法を持って産まれ、歴史においても男性よりも女性の名の方が多いことがこの名称誕生の由来だとされる。
魔術師も女性の方が強い人が多いのもこの影響だと言える。
「孤独な僕が言うのも何だけど、教授らは頑固で自分の考えを曲げないから君らが抗議しても変わらないと思うよ。まぁ、孤独な僕が本当に言うことじゃないけど」
リネスさんの言う通りだ。彼女たちが意見を変えることなどこの学院が設立されてから一度もないのだ。
でも、出来ることはしておかないと俺は俺を憎むだろう。
「魔女の円卓はどこですか?」
魔女の円卓、この学院のどこかにある魔女たちの座す場。教授補佐官以外に知っている者はいない。
「無理だよ、教えるのは……」
「明日、一緒にご飯食べましょう」
「え、この講義棟の中央階段広場床に施された魔法式を発動することで転移する場所だよ」
ザルだな。
でも、一緒にご飯を食べるというのは本気だ。
魔法使いを理解する、これが長年の因縁を晴らす糸口になる。
「分かりました。それでは、これで」
「明日、一緒にメシ食おうな」
俺たちはリネスさんの言葉を尻目に中央階段広場に向かった。
「さて、どうやって魔法式を発動するか?」
魔法式の発動は魔術師では不可能だ。何故なら、魔法式に必要な魔力は魔法使いにしか操作出来ないからだ。
だが、ここには——
「私が居て良かったですね」
魔法使いのルナがそう言いながら魔法式全体に魔力を散布する。
散布された魔力を吸収した、魔法式が光り出す。
「ルナ頼む」
「確かに私なら魔力を充填出来るけど、発動と制御は違うわよ」
そう明言しながらしゃがみ、床の魔法式を指で撫でる。
「やっぱり、魔力感知の術式が付いている。これじゃ、登録した魔力以外じゃ発動は出来ないわ」
「それは正常な発動の話だろ?」
俺の言葉にルナは少し考えた後、血相を変えた。
「まさか、貴方正気?」
「正気だし、真面目だ。それにこれが君の固有魔法に合った使い方だろ」
「何? 何の話をしているの?」
一人、話に付いていけてないミアが声を張り上げる。
そんなミアにルナは解説を始めた。
「濡羽は、私の潜性魔法で一部の術式だけ潜らせて発動させようと言っているのよ」
「え、それで出来るなら良い事じゃない」
「ええ、確かに発動出来るけど成功確率は五分五分と言ったところですし、成功しても設定された場所に転移出来るとも限りません、もしかしたら別の場所に転移するかも」
そうなのだ。
俺の提案した方法は最も単純だが危険性が多い。
転移の術式だけを残してその他の警戒用術式を潜らせ行う。潜らせる部分をミスれば転移が失敗し、俺たちがどうなるかは分からない。
壁に生き埋めになるかもしれないし、肉体断絶も有り得る。
最良の結果でもここから遠く離れた場所に飛ぶだろうし、発動しなくても行なった事が教授らにバレて退学もありえる。いや、抗議し行ってもそれはありえるのか。
「危険だが、これしか方法がない。万が一の責任は俺がとる」
「責任をとると言われても、その万が一が起きたら貴方も私も死ぬかもしれないんですよ」
「確かにそうだが、今は俺を信じてくれ。俺も君の腕を信じる」
俺はルナの目を見ながらそう断言した。
ルナは見つめられる目を背け、床の魔法式に移し、しゃがんだ。
「まぁ、そこまで言われては断れないわ」
ルナの魔力が高まり、魔法を発動させる準備をしながら魔法式に魔力を送り込む。
「俺たちはどこに居れば良い?」
「私の側から離れないで、離れたら体の一部が分断されるわよ」
「ヒィー」
ミアがルナの側に居る俺の腕に抱きつく。
手を下ろしている為、腕に二つの柔らかい感触が襲う。
「ミアさん、少し離れてくれない? 当たってますよ」
「大丈夫よ、この程度スキンシップの内にも入らないわ。濡羽は私以外の女性関係がないから知らないのね」
「いえ、明らかにそれはスキンシップですよね。ミアさん」
ルナが作業に集中している状態でミアの言葉を否定した。
「ルナさん、これは私たちにとって普通なんです。ねぇ、ダーリン」
ルナの言葉など気にせず、そう言うミアに俺も抗議する。
「ダーリンじゃねぇし、離れろや」
無理やり剥がそうとする俺を見て、ミアはニヤッとした笑みを浮かべて言った。
「なんで? 反応しちゃうから」
「死ね」
「死になさい」
俺とルナ、二人の絶対零度の言葉と視線によってミアは怖気付く。
「は……はい」
「濡羽、ミアさん。準備出来ました」
「それじゃ、行くか」
俺とミアが緊張する中、ルナは術式に手を伸ばし、触れた。
「術式潜性、転移」
景色がテレビチャンネルを変えるように切り替わった。
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