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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
キングクラウン 〜戦いに恋し、姉妹を愛す〜
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第29話:九人の教授による会議と決議

 アヴァロン講義棟にある時計塔最上階の部屋には一つの円卓が置いてあり、その円卓に九人の女性が座しており、異質な雰囲気を纏っていた。

 彼女らがアヴァロンを管理する九人の教授にして九人の魔女。

 黒髪の美女が口を開いた。


「九人、揃いましたね。では議題を読み上げます——生徒行方不明事件の真相を暴いた黒曜濡羽、彼の行為を“成功”とみなすか否か。そして、単位の授与について」


 微かな風が円卓を撫で、蝋燭の灯が揺らめく。

 静寂を破ったのは、赤髪の美女の鋭い声だった。


「彼は真相を暴いた、それだけで勅令は“成された”といえる。そして彼は殺した——“正義“の名で。弱者を守るために強者を討つ、それは我々が讃えるべき行為だ」


 青髪の美魔女が嗜める。


「だが、学院街の半分が半壊するほどの力を使った。遺産は街ごと標的を殺した。調書によれば人的被害はほとんど無かったが、街を再興するには膨大な金が掛かる、成果以前の問題だ」


 橙髪の美女が赤髪の美女の言葉に賛同する。


「被害の問題ではない。彼が犯人を突き止め、学院街の腐敗を白日の下に晒した。その価値を貶すべきではない!」


 白髪の美女が橙髪の美女を嘲る。


「価値? 勝ちのために学院が赤字になれと? 君はいつも“成果“しか見ない。彼は確かに勅令を成したが、学院に大きな損害を与えた」


 桃髪の美女が少し泣き目に言う。


「あの子は愛されたくて、頑張っただけ。誰かに認めてほしかった。それを利用したのは……私たちよ」


 円卓の影が一瞬、息を呑むように沈黙する。

 緑髪の老婆が正当性のある意見を述べる。


「……しかし、学院は秩序の上に成り立つ。彼の行為は規範の逸脱です、どんな理由があろうと“殺害”は禁じられている。秩序が崩れれば学院は立ち行かない」


 水髪の美女は真面目な会議であるのに変な発言を言う。


「でも見たか? あの遺産の輝き! あの瞬間、誰もが息を呑んだ。あれこそ、自由な魔術の到達点だ。堅苦しい規範で縛るには惜しい才能だぜ」


 紫髪の美魔女が水髪の美女の言葉を否定する。


「貴様、ふざけるのも大概にしろ。あれは才能じゃない、暴走よ。強力過ぎて全てを破壊するのは魔術ではなく魔法よ、あれでは勅令の達成とは言えないわ」


 青髪の美魔女が賛同する。


「同感だ。成果は認める、だが単位の授与は認めれるぬ。評価は“未達成“と記すべきだ」


 赤髪の美女が正義の立場から意見を述べる。


「——つまり、真実を掴み、悪を討った者を“罰する“のか? それは弱者を守るために強者を罰してきた我々の理念に背くぞ」


 白髪の美女が赤髪の美女の言葉を変える。


「背くのではなく、超えるの。理想を貫くために、現実を見なきゃいけない時があるの」


 桃髪の美女は少しズレた意見を述べる。


「愛して罰するなんて、どちらの手も血で濡れているわね」


 黒髪の美女が仕切り出す。


「……意見は出尽くしましたね。では——採決を取ります」


 蝋燭が静かに九つに分かれ、それぞれの手の前に灯る。

 火の色はその者の意見を意味するように色が変貌する。

 授与賛成には白色の炎が、反対には黒色の炎が、そして棄権は色が変わらなかった。

 結果は——賛成2、反対5、棄権2。


「決を以て定む。黒曜濡羽への単位授与は否認、学院街被害の責を重く見、遺産使用に関する規定を改定する」


「……正義を貫く者が報われぬのなら、我々の勅令とは何だ」


「現実だ、理想では街は再建できん」


 赤髪の美女の言葉を青髪の美魔女が真っ向から否定する。


「価値を証明した者が、報われぬ——くだらない制度だ」


 橙髪の美女は唇を噛み締めながら憤慨する。


「それでも秩序を保つのが“学院“なのです。彼のたたきは、記録に残します、報いは未来が決めるでしょう」


 静かに黒髪の美女が告げた。

 灯が一つずつ消えていく。

 最後の蝋燭が消えた瞬間、桃髪の美女の声だけが残った。


「——彼が愛されたと、誰か伝えてあげて」


 闇の中、九人の影が散っていった。

 円卓だけが、冷たく沈黙を守り続けた。

 そんな会議があり、結論が黒曜濡羽に言い渡される。


***


 俺はルナから手紙を受け取り、中身の書類を読んでいた。

 単位授与は取り消しで、遺産使用に関する規定を改定するだって?

 まだ後者は分かる。

 俺もあれはやり過ぎたと思ったが、前者の取り消しは分からない。

 勅令は全生徒に与えられる機会だ、それを無碍にして良いのか?

 手が震え、力を込める。喉から激怒が上がる。


「ぶっ殺してやる、あのババア共!!」


 手紙が盛大に破かれる。


「どうしたの貴方らしくない」


「ルナさん、こいつが豹変するってことはよっぽどよ」


「ミア、急いで抗議しに行くぞ。着替えるから二人は病室から出てくれ」


「だから、何があったの?」


「私にも説明して下さい」


 着替えるために二人を追い出し、一瞬で制服に着替える。

 傷口がまだ痛むが、着替えながら講義の文言を考える。

 待っていろ、ババア共。

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