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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第28話:濡れた羽

 エングの胸をインクのレーザーが貫通し、俺は勝利を確信する。

 魔奥を止めるために魔力の放出を止めようとするが、魔奥は行使者の意思に反して無理矢理にでも魔力を奪って、インクの槍を強めていく。

 どうにか、インク増減の制御は出来ているが操作の制御を完全に失ってしまった。

 インクは暴走し、槍は勝手に動き、建物を薙ぎ払う。


「クソ、止まれ! 止まれ!!」


 俺の魔力が完全に無くなれば、この槍は止まるだろうがそれでは無限に増えるこのインクの再封印が出来なくなる。

 そうなった、この学院も学院街も終わりだ。

 何とか操作権利を掌握しようとするが、急激な魔力減少の副作用で頭痛と疲労感が俺の体を蝕む。

 操作をしないと……いや、俺は何をしているんだ。

 増減の権利は俺が握っている。


「液体魔術、消去」


 その言葉と共に暴走していたインクのほとんどが消え、残った一滴を持っていた小瓶に再封印する。

 封印を終えた瞬間、緊張が解け疲労と負荷が体を襲う。


「ごふぇ、ゔぇええぇ」


 血と胃液の混じった赤黄色の液体を吐く。

 体がどんどん冷たくなっていき、足がふらつき地面に倒れそうになった。


「大丈夫?」

 

 ルナが俺の体を支え、俺はルナの胸に寄りかかる。

 柔らかい胸の中で俺は意識を失った。

 〜〜

 現実とかけ離れた幻想を夢見る

 川向こうに両親が笑顔で立っていた。


「父さん、母さん。ここに居たの? 俺もそっちに」


「ダメよ、濡羽。まだ貴方はこっちに来てわ」


「そうだぞ、濡羽。そっちの世界にはお前を大事にしてくれる人が居るだろ」


「でも、俺は二人と……」


「大丈夫よ、私たちを信じて……それに向こうに」


 母さんの言葉に、振り返ると背後にあの少女が居た。


「——」


「濡羽。まだ私の夢を覚えてる?」


「覚えているよ、一緒に大迷宮を探索しよう」


「なら、一緒に来て……」


 俺は少女に手を取られ、共にその場所を去った。

 そして気づくと意識が戻り、瞼を開け、現実世界を見ていた。

 寝台の上で、ベッド脇にはルナとミアの姿があった。


「気付いたのね、いま医者を呼ぶから」


 ミアは足早に病室から去った。

 残ったルナが俺に顔を近づけてくる。


「大丈夫?」


「大丈夫だ。山場は乗り切ったかな」


 目覚める前に見た夢のことを思い出す。

 川を渡って、両親の元に行っていたらこっちには戻ってこれなかっただろうな。


「あなた、本当に魔術師?」


「ハハ、魔法使いの君が俺を疑うか。答えは簡単だ、俺はただの魔術師さ」


「魔術師ね。私の目にはあなたが魔法使いに見えたわ」


 第二、第三者から魔法使いに見えるのかな。

 確かにあのインクは確かに強力だが、まだ俺の手に余るな。

 それに、俺が魔法使いならもっと上手くやれただろう。


「褒めてくれて、ありがとう」


「褒めているわけじゃなくて、本当に——」


「で、エングははどうなった?」


 アレで俺はあいつを殺せたのだろうか。


「胸に大きな穴が空いて失血死したわ。それとあなたに死ぬ前にこう伝えろって言われたわ」


 基礎的な魔力操作で当時の音声が再現される。


「俺のやり方が気に食わないなら、お前のやり方でこの世界を変えてみろ」


「本当にあいつらしい言葉だな」


 俺のやり方でこの世界を変えろか。

 魔法使いと魔術師の溝を埋めるだけではこの問題の根本的な解決には至らないだろうし、どうすべきは皆目検討がつかないな。

 でも、あいつを殺した俺の業だな。


「どうして貴方はあの状況でまだエングに挑めたの? もしかしたら死んでたかもしれないのに」


 確かにあの一撃がエングの攻撃に負けていたら、あの場でインクの操作を完全に失っていれば、死に至る場面はいくつもあった。


「鳥が空を飛べない時はどんな時だと思う?」


「え、雨が降っている時じゃないの」


「そうだ。鳥の羽は雨に濡れたら重くなってしまって空を自由に飛ぶことは出来なくなってしまう。そんな状況だからこそ、空を飛ぶ努力をしなけらばならない」


 ルナは分からないようで意味不明という表情をする。


「簡単に言えば、羽が濡れたから何だ? 大事な翼を失ったからなんだ? 雨が降っているから、追い詰められているから? だからこそ、空を飛ぶため勝つために濡れた羽を乾かし、雨が止むのも待つ努力をすることに不思議なことはあるか?」


 ルナは絶句という表情をする。


「あなたって頭良さそうだけど、戦闘とか心意気の話だと脳筋なのね……」


「どこが脳筋だよ、普通のことだろう。そっちこそ、人が死ぬのを見るのは初めてだろ、大丈夫か?」


 俺は同じ七家だが、叔父さんに人を殺しても精神に影響がないように特訓されているから大丈夫だけど、ルナはそんな修行もしていないし殺害の片棒を担いだんだ。

 表は普通だけど、内心は思い悩んでいるだろうに。


「濡羽くん、私をそこらの虫も殺せない人と同じに思わないことよ。私はこれでも経験豊富な魔法使いなのよ」


 自分で経験豊富って言うのかよ。


「大丈夫なら良いけど、もし辛いなら俺に相談しろよ。男の俺に出来ることは少ないと思うけど、お前は大事な友達だからな」


「濡羽くんって本当にモテないの?」


「ああ、非モテ貶しか?」


「ちょっと濡羽! 何、私以外の女とイチャイチャしてんのよ! 病人だからって何でも許されると思わないことね!」


 急に病室の扉を開けた現れたミアが、俺の上に乗ってくる。


「ちょ、ミア。まだ完全に治ってないから、傷口が開く!」


「私という彼女がいながら!」


 叩きながら抗議してくるけど、君は俺の彼女じゃないでしょ。

 まぁ、俺も反省する所があるから抵抗はしないけど……


「生きてて本当によかった……もうこんな無茶しないでね」


 怒って泣いて本当にミアらしい。

 彼女のこう言うところに俺は惹かれて、友達になったんだったな。


「分かったよ……だけど、俺はお前の彼女じゃないだろ。ルナさん、何隠れて出ようとしているんですか!」


  どこかに行こうとしたルナを呼び止める。


「いやー、これから事をするのかなと」


「しないよ。てか、何を妄想してんだ」


 この人って、こんなキャラだっけ。


「濡羽がしたいなら良いよ」


 ミアが俺の上でそんな事を言う。


「お前も相変わらずだな。しねぇよ」


「ちぇ」


「ちぇ、じゃないよ。はぁー、それで俺の単位はどうなった?」


「その件ですが…」


 こうして、生徒行方不明事件は終わった。

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