第25話:記憶、そして魔奥
男性がまだ体も心も小さい10歳の少年を地面に転がし叩きつける。
少年は、泥に塗れながらも地面に手を付き立ちあがろうとする。
男性はそんな少年に手を貸す。
少年がその手を掴んだ瞬間、男性はまた少年を地面に転がす。
俺はその光景を端で見ていた。
これは、俺の記憶……
聞いたことがある。
魔法使いや魔術師といった者が持つ魔力が走馬灯に干渉してしまい、この状況を打破できる記憶を的確に第三者視点で見せる現象、『黄昏』。
「まだ勝負は終わったと言ってないぞ、濡羽!」
少年は自力で立ち上がり構える。
「叔父さん、もう一度」
「師匠と呼べ、バカガキ」
「バカは余計だろう!」
少年は男性に飛び掛かる。
そして男性にまた転がさられる。
この頃の俺は、修行を始めてまだ一ヶ月も経っていなかったから師匠であり叔父である彼我見の話をちゃんと聞き、真面目に修行を行なっていた。
去年、固有魔術を誰の意見も聞かずに刻んだことも影響しているだろう。
場面が変わる。
部屋の中で11歳の俺と彼我見がそれぞれ本を読んでいる。
彼我見が本を閉じ、俺を見る。
「いいか、濡羽。魔術師と戦う時は極力、魔奥を使うか?」
「……」
この時の俺は修行に対しやる気を失っており、彼我見の言葉に答えることなど無かったし彼の言っている事も覚えようとも聞こうともしていなかった。
黄昏現象の定義が合っているなら、これが今の俺に必要な情報だろう。
「魔法使いは世界から魔力を貰えるから魔奥を使っても魔力消費をあまり気にしなくても良いが、魔術師はそういう訳にはいかない。ただでさえ、魔奥自体が必殺級の一発技だから使い勝手が悪い、だから使う場面は敵に必ず当てられる場面だけだ」
彼我見は読書に集中する俺の顔を見てから話を続ける。
「でも、そうはいかない状況や戦いもあるしお前も絶対に体験するだろう。そんな時は、今から教える技術を使って魔奥を行使しろ」
来た。
「まず前提として魔奥を放つという定義と考え方を捨てろ。せっかくいっぱい魔力を消費するのに一発で済ませるのは勿体ないからな、魔奥を放つのではなく固定しろ」
固定?
「魔奥とは、膨大な魔力を消費する事でいつもより強い術を行使する奥義だ。だから放つことだけが、魔奥の真髄じゃない。魔奥を扱えてこそ、真髄だ」
「固定とは魔奥にて、一つの形代を形成する事だ。簡単に言えば武器を作るだな」
武器を作る。
エングがしていたのはその固定なのか。
だから、刀を作ってそれを振るっていた。
「魔奥で形成された武器だ。振るうだけでいつもより強力な攻撃を容易に放つことが出来る」
瞬間、体を妙な浮上感が襲う。
まるで今まで溺れていて、体が急に浮かび上がるような。
まだ、固定の仕方を教えてもらっていないのに……クソ!
床の絨毯を掴もうとするが、記憶であるため掴めず体と心、意識が浮かび上がっていく。
そして走馬灯、黄昏は終わった。
視界、感覚が現実に浮上していく。
目の前にあるのは強力な竜巻でも通ったかのような無地だった。
そして俺を受け止めているのは学院の正門柵だった。
ここまで吹き飛ばされたのか。
ルナを探すと、すぐ横にあった。
「ルナ、起きろ」
俺は立ち上がり、ルナの前に立つ。
「う……ここは?」
「どうやら、学院まで吹き飛ばされたようだ。立てるか」
差し出した俺の手を握り、ルナは立ち上がる。
「うん、何とか」
大きな杖を支えに、ルナは何とか自力で立つ。
全身血だらけで骨も折っているだろう。
時間を掛けれないな。
「ルナ、まだ戦えるか? 無理なら学院で休んでろ」
ルナは顔を地面に向け、答えない。
「濡羽くんはどうなの?」
「満身創痍だけど、やっと明確な勝ち筋が見えた。大変だが、俺一人であいつに勝つ」
ルナは息を吐き、顔を上げる。
俺の顔を覗く。
「今度こそ、勝ってね」
「分かってるよ」
「何をすれば良いの?」
「時間稼ぎだ。その間に魔奥の詠唱を終わらせる」
「時間稼ぎね。分かったわ、でも貸し一つね」
副会長の言葉に見えないが、まぁ良いか。
「ああ、貸し一だ」
広場の方から例の剣を担いだエングが歩いてくる。
学院の近くだが、学院には強力な結界が張ってあるから大丈夫だろう。
「お前ら、まだ立つのか? 諦めろよ」
「死んでもお前の所業を邪魔する」
俺の言葉に、エングは満面の笑みを浮かべる。
「ここまで斬り甲斐のある奴は初めてだ。さぁ、掛かって来い!」
ルナが前に出る。
「潜性魔法、『浮上』!!」
炎、水、木、岩、風、雷、光、闇ありとあらゆる現象がエングに向けて放たれる。
エングは肩に担ぐ剣を下ろし、構える。
俺はエングの狙いがルナに移っている隙に魔奥の発動準備に掛かる。
「『魔女は心奥にして魔奥を覗く』!!!!」
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