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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
24/42

第24話:真剣勝負

 インクのドームが解け、意識を取り戻し魔力で動けるほどに回復したルナが見た光景は、正に爆心地と言っていいほど建物があったと思えないほど荒涼としたクレーターだった。

 クレーターの縁には正反対の位置で地面に倒れ伏す二人の姿があった。

 一人は後ろで髪を結ったエング。

 もう一人はこの惨状を引き起こした黒曜濡羽。


「濡羽、大丈夫!」


 ルナは駆け寄り、濡羽の状態を見る。

 見た目は酷いが自分の魔力で起こした現象だからか、遠目で分かるほどはっきりしたエングより酷い傷ではなかった。

 揺さぶられ、濡羽は意識を取り戻す。

 俺が最初に見たのは涙を流し、顔を赤く腫らしたルナの姿だった。


「勝ったのか?」


 俺は上体を起こし、向こうに倒れるエングの姿を見る。

 エングは俺以上にもう戦える状態ではないとはっきり分かる。

 その時、急にルナが俺に抱きつく。


「え?」


 爆発の影響でまだ耳がキーンとなっていてルナが何か言っているのはわかるが、何と言っているのかは分からなかった。

 俺は無言でルナの体を感じながらエングをよく見る。

 その唇は微かに動いており、何か言おうとしていた。


「ルナ、まだ終わりじゃない」


 少しづつ耳が機能を戻していく。

 近くのルナの声が聞こえる。


「どう言うこと?」


「あいつはまだ諦めていない」


 エングの言葉が段々聴こててくるのとルナが耳を澄ませるのは同時だった。


「『魔女は心奥にして魔奥を覗く』」


「『人を斬るは人の性、神を斬るは神の性!』」


 魔女は心奥にして魔奥を覗く、この文言から始まる術がある。

 魔法使い、魔術師の中でも優れた者にしか扱えない始まりの魔女から脈々と受け継がれし、秘奥。

 己の魔法、魔術の全てを一点にぶつける単体特化の奥義『魔奥』。


「『天下に轟き天を伏し、地を鎮めしは五本の名刀!』」


 先に動いたのはルナだった。

 彼女も理解しているのだ。

 魔奥が発動してしまえば魔術師であっても魔法使いに匹敵すし得ると、それにエングは今、魔法化薬で世界との繋がりを持っているから更に脅威となるであろう。

 杖の先端をエングに向け、魔法を行使する。


「『浮上』」


 岩石を飛ばすと同時に、エングの体から斬撃が生成され、岩石を粉々にする。

 俺は驚愕の表情で見る。

 魔奥は発動に際して膨大な魔力を消費する。

そのため詠唱中では魔力を瀬戸際まで近づけ、発動まで抑える。

 例えるなら今にも決壊しそうなダムを何とか保つという高度な技術が求められ、一般の魔法使い、魔術師では詠唱中には魔法、魔術を行使するなど不可能なことだ。

 それを行なっているのは復讐の炎に昂られた精神力と克己心だろう。


「『鬼を斬りし刀、三日月が如き刀、霊力宿りし刀、数珠巻かれし刀』」


「『夢斬りて病治し、鬼斬りて執政守る刀』」


 俺も立ち上がり、インクを操作する。


「黒水、『天雨』」


 インクを水滴状にし、雨としてエングに向けて放つが『雨の打刀』で見せたような細かい斬撃が雨粒全てを切り裂く。

 

「『それらを凌駕するは神を尊く殺めし神が鍛えし神刀』」


「『意思を持ち海を割るは天羽々斬剣、地を征服し荒ぶる神を治めし布都御霊』」


「『八岐の尾より生まれ、天の武力そのものである天叢雲剣』」


 エングは立ち上がり、上段に構える。 


「『我は剣の祖に代わって名刀、神刀を振るう!』


 無限の斬撃がエングの手の中から天に向けて刀身を形成していく。


「『我は五輪を越え虚、異、無、雨、血、雨を掲げる!』」


「『心の境地たる虚無、技の流れたる異風、戦いの場たる血雨!』


 俺はインクを操作し、何度もエングに向ける。

 ルナは岩石、火球、風刃という無数の現象を放つ。

 それらは斬撃の元に切り伏せられ、詠唱は進む。


「『万象を現しながらも万象を捨て、ただ剣を振るう』」


 エングの手に握られたのは天下五剣、神代三剣の性質を持った剣の到達点。

 魔力がエングを中心に奔流を巻き、周囲一体に流れを作る。


「『神と人を別ち繋げ、(テンチジンワ・)天と地を創りし逆鉾(シンジンイチニョ)


 時代を越え、人と神の境界を超えた一振りの刀は神々しくもあり俗っぽくもあり豪華でありながらも質素だった。

 槍のように長く鋭い刀でエングは両手で持って構える。

 俺は焦り、困惑していた

 先ほどまで満ちていた魔力の一切を感じない。

 これは、まさか……

 エングは口を開く。


「濡羽、ルナ……ここからが真剣勝負だ」


 エングは剣先を後ろに向けるように刀を横に構える。

 俺とルナは身構える。


「これで終わってくれるなよ……天地颶風(テンチグフウ)


 エングが刀を横に薙いだ瞬間、全てが吹き飛ぶ。

 緊張感も、生死の重さも、心構えも、魔法も、魔術も、建物も、地面も、雲も……

 視界にある全てが瞬間、まるでそういう摂理であるかのように吹き飛ぶ。

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