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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第22話:血戦 下

「斬雨!」


 エングの魔術によって無数の斬撃が雨のように降り出す。

 俺は自身の流れた血液で傘のような物を作り、斬撃を防ぐ。

 エングは俺の真横に移動し、自身の握る刀の刃に黒い斬撃を纏わせる。


「黒太刀!」


 刀が振るわれると同時に薙ぐような黒い斬撃が飛ぶ。

 俺は一瞬、傘の形成を解き黒い斬撃を防ぐ盾を生成するが容易く盾は壊れ、胸に大きな傷を負う。


「ぁかはぁ」


「その程度で俺の斬撃が防げるか!」


 続けるようにエングは刀を納刀し、居合の構えを取る。

 そして抜刀する。


「抜刀!」


 先ほどよりも素早い鎌鼬のような斬撃が飛ぶ。

 避けることも防ぐことも出来ない。

 どうすれば?

 真っ直ぐ斬撃が迫り、到達する寸前——


「潜性」


 斬撃が突如、消え失せる。


「は? 何が起こった」


 その現象、いや魔法には覚えがあった。

 対魔術・魔法において絶対性を取る魔法使い。


「助けに来たわよ、濡羽くん」


 赤髪混じりの白い髪をした少女は大きな杖を構え、俺とエングの間に降り立つ。

 俺はその少女の名前を口にする。


「ルナ……何で」


「あの時、言いましたよね。危ない状況になったら助けると」


 それは俺がこの広場に向かう直前だった。

 学院の正門を通ると何故か、門の側にルナが居た。


「何故、君がここに? お見送りか」


「いえ、違うわ。あなたに気になることがあるの」


 気になること。


「どうして? 平気で自分の命を仲間の為、親友の為に差し出せるの」


 俺は想像していなかったルナの質問に少し驚き、間を開けるがすぐに答える。


「俺には両親が居ないんだ。いや、居たけど殺された」


「ごめんなさい」


「君が謝ることじゃない。少し俺の話を聞いてくれ」


「両親が亡くなって俺は叔父さん、黒曜彼我見に引き取られた。叔父さんは引き取った俺に子供では到底耐えられない修行を無理やり課し、何度も俺は死にそうになったし諦めたくなった。でも、その度に叔父さんはこう言うんだ。

 今のお前に大切にしたい守りたいという人は居ないが、いつかお前にもそういう人が出来ると思う……でも失うかもしれない。その時、お前は後悔するだろう……大切な人を失う悲しみを知っていたのに何で俺は大切な人を守れるほど強くならなかったんだってな、だから俺は心を鬼にしてお前を痛めつけ鍛える。恨んでもらって構わない、俺はお前が幸せな人生を送る手伝いが出来るのなら本望だってな……カッコつけてるよな

 その時の俺にその言葉の意味は理解できなかったけど、少しして大切な人が出来たんだ。一生居たいと思うような人が、その人とはすぐ離れ離れになってしまってけどまたいつか会う時、その人を守れるほど強くなりたいと思ったしこれから出来るであろう親友、友人、仲間を守りたいと思った。ミアもその一人だし、織可もタクオもアイシス先生も俺にとって大事な人だ、大事な人を命を賭けて守るのは当たり前だろう」


「あなた、魔法が好きだって言った時から思っていたけど本当におかしいわね」


 俺っておかしいのか?


「それじゃ、私は生徒会庶務として生徒の一人であるあなたが危険な時、助けてあげるわ」


「その時は頼むよ、ルナ・フェメノン・ルージュ」


「長いからルナで良いわよ、濡羽くん」


 そう彼女と別れ、今に至る。


「まだ動ける? 濡羽くん」

 

 俺は彼女の背中を見ながら答える。


「ああ、まだ動ける」


「貴様、魔法使いか?」


 エングは刀の切先を向けながら問う。


「ええ、私は朱の魔法使いフェメノン・ルージュのルナよ」


「ルージュの魔法使い! これは大物だ、切り甲斐がありそうだ。太刀」


 大きな斬撃が真っ直ぐルナに飛ぶが、彼女にとって放射系の攻撃など無意味だ。


「潜性。その程度?」


 斬撃が消え失せる。


「最高だ。これはどうかな、黒千斬」


 無数の黒い斬撃が空を飛ぶ群れ鳥のように展開され放たれる。


「良い線だったけど、無駄よ。『潜海』」


 無数の黒い斬撃が一斉に消える。

 やはり、ルナに防御を任せれば例のが出来そうだな。


「ルナ、俺を守れ。そうすれば勝てる」


 ルナは俺の目を見て、疑うことなく従う。


「分かったわ。勝ってね」


 俺はその言葉に傷口を抑えながら、言葉を紡ぐ。


「遺産使用許可申請」


 その言葉は学院を管理する九人の教授の耳に入り、検討を始めた。


「これは正義のための戦いであることを認め、承認」


「これは人を守るための戦いであることを認め、承認」


 空間全体にそれぞれの教授の言葉が響く。


「これは学院のための戦いであることを認め、承認」


 この切り札は学院を脅かしかねない為に使用に際しては教授らの承認が絶対不可欠だ。

 エングは俺のしようとしている事が危険だと理解したのか、無数の斬撃が俺に向かって飛ぶがルナがその斬撃を消失させる。


「これは人道に背かぬ戦いであることを認め、承認」


「これは真実のための戦いであることを認め、承認」


 エングもルナが居ては無駄だと分かったのか、懐から何か取り出す。


「これは臆病者ゆえの戦いであることを認め、承認」


 それは瓶に入った薬だと分かる。

 本能的に危険だと分かったのは俺だけではなくルナもそうだったらしくエングに向かう。


「これは欲求を満たす戦いであることを認め、承認」


「これは挑戦欲のある戦いであることを認め、承認」


 斬撃が飛び、ルナの動きを妨害する。

 そしてエングは瓶に入った薬を飲んだ。

 瞬間、ルナに切り傷が刻まれる。


「くっ……」


「ルナ、大丈夫か」


「これは調停が必要な戦いであることを認め、承認」


「気にしないで、大丈夫よ」


「遺産使用を許可します」


 無機質な音声と共に、空間に隙間が生まれる。

 そこに俺は手を突っ込む。

 同時にエングは呟いた。


「『(うつろ)の短刀』」


 瞬間、斬撃が飛ぶことなくルナの体に斬撃が刻まれていく。


「アアアアァァァ」


 悲鳴の中、美しい肌が切り裂かれ、血が飛び散る。

 20秒ほどで斬撃が止むと、ルナは何も発することなく地面に倒れ伏した。


「まずは一人……」

 

 エングの軽い態度に俺は怒りを顔に浮かべながらそれを取り出した。

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