第20話:魔導師
魔導師とは、始まりの魔女がまだ生きていた時代に居た魔術師、魔法使いと同じく魔力を扱う種で彼らは外側に記号を刻むことで魔導と呼ばれる術を扱う。
刻まなければ術を行えないという欠点が元で淘汰され、魔神大戦で絶滅したと思われていたがその生き残りの子孫が今、織可とシュッツの目の前に居る。
隣に立つシュッツ捜査官はあまり驚いてなさそうだった。
「我は偉大なる魔導師レオンハルトの血を受け継ぎし、アング・オイラーである。頭を垂れよ」
尊大に振る舞う刺青の入った男、アングの事を気にせず友であるミアを心配する。
ミアは気絶しているようで上の服は乱暴されたのかはだけており、下着と胸が少し見えていた。
「この生贄を気にするか? これは大事な要なのでな、お主らに渡すことは出来ぬ」
アングは下卑た顔を浮かべながら舌なめずりをする。
要、どういう事だ。
「貴様らが見惚れるのも分かるぞ。やはり淫魔の血が混じった女子は美しいのう、生贄ではなかったら我も存分に楽しみたいところだが、仕事を頼まれているのでな」
「その臭い息を飛ばすのはやめてくれないか。オジサンは魔件局の人間だ、魔導円を発動するのを止めれば痛くはしない」
「うるさいぞ。魔法使いに媚を売る汚れた魔術師風情が、魔導師たる我の築いた魔導円の発動を止めると? 巫山戯るのも大概にしろ、この魔導円を築くのに一ヶ月かかったんじゃぞ」
大きな口を開け、唾を飛ばしながらアングは抗議する。
「なら、その少女を解放してくれないか?」
「分かっておらぬな。この少女は魔導円を発動する上での要なのじゃぞ、この女子の死で魔導円は発動するそいう記号を刻むことで発動性能を向上させたのじゃ。我ながら我は天才じゃな」
は、ミアの命を犠牲に大量殺戮を行う?
「アングさん、これは命令だ。今すぐその少女を解放し魔導円の発動を辞めないなら実力行使に出る」
シュッツさんの言葉から明確な怒りを感じる。
「やってみよ。たかが魔術師二人が魔導師に勝てるとでも?」
シュッツさんが動いた。
その手には拳銃が握られており、狙いはアングに定まっていた。
そしてトリガーが引かれ、弾丸が真っ直ぐアングに向かうがアングは笑みで持って迎える。
「笑止。小型魔導円『防御結界』」
弾丸は結界に阻まれる。
「チッ、魔導円か」
「貴様らが来ることなど想定済みよ。我ら魔導師は貴様ら魔術師と違い、後手の方が得意。魔導円の用意さえ出来れば貴様らなど敵になりえんわ……小型魔導円『攻撃炎槍』」
アングの周囲に炎の槍が出現し、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「伏線魔術、伏線破棄」
当たるという伏線が破棄され、炎の槍は壁に着弾する。
「その調子じゃ。小型魔導円……連結……『攻撃炎槍』、『攻撃水槍、『攻撃風槍』掛ける20」
無数の魔導円が連結し、同時に作動する。
炎の槍、水の槍、風の槍が20ずつ計60の槍の穂先が二人に向けられる。
「諦め降参するか?」
アングは安全地帯でふんぞりかえる。
「シュッツさん、僕に任せて下さい」
僕は前に出る。
思い出せ、講義を。
魔導円、魔導師が廃れた第二の理由を。
魔導円は何かしらの物体または空間に描いて置かなかければ発動出来ず。
ある程度の効力を持った魔導円を描くのに最低20秒掛かる。
そして一度描いた魔導円は修正できず、発動か解除するまで刻まれ続ける。
しかし、その刻まれた描かれた空間ごとを変えて仕舞えば魔導円は消失する。
固有魔術の系統の一つで生成、操作、変換の三つを上手く動作させることで扱える高難易度系統魔術。
指定した空間を自分の術が込められた領域で塗り潰す、領域系統魔術。
「固有魔術、盆景魔術……『庭景』」
瞬間、教会という空間が塗り潰され術者である織可、シュッツ、アングの三名が領域に引き摺り込まれる。
その領域、空間は日本庭園だった。
選定された木々、高度に配置された草木と石、中心の池。
日本人の感性によって作られた自然そのものの庭園。
「領域系統魔術じゃと……魔導円が全て消えた」
アングは口を大きく開け、驚く。
「さて、お縄についてもらおうか」
シュッツ捜査官はジリジリとアングに近づく。
アングはへっぴり腰ながら逃げ出す。
「嫌じゃー」
すぐさま追おうとするシュッツ捜査官を僕は止める。
「シュッツ捜査官、大丈夫ですよ。僕の固有魔術『盆景魔術』は指定した空間を盆の上と仮定し、僕の見たことのある自然風景を再現することが出来ます。そしてある程度、操作できます」
織可に意思に従って、草がアングを拘束する。
「チッ、なんじゃこの草は?」
僕たちは拘束されたアングに近づく。
「さて、学院街に描かれた大規模魔導円の詳細と解除の仕方を教えてもらおうか。あんな危険な代物に安全装置が無いわけないだろ」
***
エングと対峙する濡羽の元に魔力を介した通信が入る。
「今、大規模魔導円の術者を拘束したようだ。これでお前の作戦はお終いだ」
エングは右手で顔を覆いながら天を見る。
「これで終わり? 終わりのはずがないだろう」
エングは手を離し、俺を見る。
「黒曜濡羽、分かっていないな。この作戦は俺が楽をするための作戦なんだ」
は、何を言っているんだ。
「学院と学院街を破壊するのが俺の使命じゃない。俺の使命は貴様のような才能ある若い者を殺すこと……手始めは貴様だ、黒曜濡羽」
なるほど、そういう狙いだったか。
安心した。
「丁度良い。俺もお前と決着を着けたかったんだ」
あの時、俺は目の前でこいつにミアを攫われた。
虚しさと鬱憤をこいつにぶつけて、こいつを殺してやっとこの勅令は終わりだ。




