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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第19話:計画破綻

 エングは笑みを浮かべる。


「あの女を助けに来たみたいだが、生憎ここには居ない。残念だったな、今頃儀式の発動手順の中に組み込まれているはずだぜ」


「俺がお前の言葉を信じるって本気で思っていたのか」


「は? 何を言っている」


「俺がお前の相手をするうちに頼れる捜査官と親友がミアを助けに向かっているし、儀式も破壊する」


 時間は戻る。


「敵の目的は遡流術式を用いて過去の大戦で使われた核兵器をこの学院を含めた学院街で起爆する事です」


 俺の言葉に全員が沈黙する中、ライターだけが声を上げた。


「核兵器を再現する遡流術式となると、長期間の大規模儀式や膨大な魔力が必要になるんじゃないか?」


「ええ、ですので彼らはこの液体を用いてこの学院を含めた学院街に描いたんですよ、大規模魔導円を」


「魔導円、魔導師の生き残りが関与しているという事か?」


「そうです。この地図の点を結んだらこのように教科書に載っていた魔導円のような物が描けましたから」


 魔導円とは、複数の記号を大きな円で囲うことで描ける陣だ。

 円内の記号とその大きさで術の範囲と威力、効果が決まる。

 操れるのは記号に意味を持たせることが出来る魔導師だけだ。


「馬鹿馬鹿しい、魔導師が生きているとしてこの大きさの魔導円を発動できるほど魔力があるとは思えない。魔導師も魔術師と同じく体内で魔力を生成する種族だからな」


 学院長は俺を貶す。


「だから、生徒を誘拐していたんですよ」


 シュッツは俺の言葉の真意に気付いたようだった。


「魔力奴隷技術か」


 大戦中に行われた非人道行為の代表格と言っても良い技術で、この技術は捕まえた敵勢力魔術師にのみ行われる拷問とも言ってもいい所業だ。

 魔術師の魔力生成器官、つまり心臓に管を繋ぎ、培養カプセルで命を繋ぐことでその魔術師が寿命で死ぬまで魔力を奪われ続ける魔力奴隷とする技術。

 他者の魔力は血液と同様に体に直接入れる事は出来ず、濾過し分解することで元の10分の1まで減るが誰もが使用できる魔力となる。


「行方不明になった生徒の数は50名ほどでしたよね。一週間もあれば、この魔導円を起動できるほどの魔力は十分用意できます」


「現状いつでもこの魔導円は発動できるのに何故、まだ発動しないのか? それは……」


「朔望影響でしょ。魔導円は朔、つまり新月の時に効力が落ちて望、満月の時に効力が最も高まる。そして今日は満月よ」


「ルナさん、ありがとうございます」


「感謝は結構よ。それでどうやって止めるつもり」


「魔導円は規模によって遠隔発動型と直接発動型の二種類があります。今回のは規模から直接発動型なので、この点のどこかに術者が居るでしょう。そして、そこに連れていかれたルナは発動を安定させるために組み込まれ、助けに行かなければ殺されるでしょう」


 点の数は50以上ある。

 この中から術者とルナの居場所を探すのは普通の方法では困難な事は分かっている。

 しかし、ここには優秀な魔術師が居る。


「ほら連れてきたでw、我が家のバカ弟くん」


「濡羽氏、拙者に何のようでござるか」


 タイミングよくクリス捜査官とタクオが来た。


「シュッツ捜査官、液体は?」


「これだ」


 俺は受け取った液体と点が書かれた紙をタクオに渡す。


「タクオ、君の文化魔術でこの記号一つ一つの意味と配置理由が分かるはずだ。それで魔導円を発動すると思われる場所を探して欲しい」


「分かったでござる」


 タクオは液体と紙を地面に置き、左右に両手を置く。


「文化魔術、文化閲覧」


 液体と紙を起点に輝き出す。

 タクオの固有魔術、文化魔術は対象が歴史を持った文化物ならその対象の詳しい情報を知ることが出来る。


「濡羽氏、記号の意味は何となく分かったでござるが発動場所を精査するには演算領域と出力が足りないでござる」


「マジで不出来すぎて草生えるわ、うちの弟」


 クリス捜査官がタクオの肩に手を置く。


「じゃ、私の演算領域+固有魔術、発動しまーす……ッ! 検索魔術、ドーン」


「シュッツ捜査官、クリス捜査官の固有魔術の効果は?」


「クリスの固有魔術はキーワードを元に情報を検索することが出来る」


 それならタクオの文化魔術との親和性は高い。


「濡羽氏、分かったでござる。場所はここでござる」


 タクオが指で示した点は例の教会だった。


「あの教会か。確かにアソコは儀式を行うのにはうってつけだな」


「この教会に行くのはシュッツ捜査官と……」


「濡羽、僕も行かせてくれないか」


 タクオに付いてきたのか織可の姿があった。


「濡羽もミアも危険な状態なのに一人で寮で待つのは忍びないよ。それに僕なら儀式が発動しても破壊することは出来る」


 確かにそうだが、織可を……いや、織可は俺を信じてくれているんだ。

 俺も信じるべきだな。


「頼めるか、織可」


「ああ、親友の頼みを断るわけないだろ」


 そして濡羽とエングが会った頃、教会にはシュッツ捜査官と織可の姿が会った。


「出てこい、犯罪者ども」


「ああ、僕の友達を返してもらうよ」


 瞬間、教会の祭壇が開き、下から十字架状の柱に縛り付けられたミアの姿が顕になる。

 その柱の横には全身に刺青をした男性が立っていた。


「我が神聖で高潔な魔導を邪魔しようというのは貴様らか」


 彼が魔導師だろう。

 ここ学院街に二つの闘争が同時に始まった。

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