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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第18話:果たし状

 気付くと保健室のベッドの上で寝ていた。

 知らない天井と同時に何が起こったのかフラッシュバックした。

 エングに攫われるミアの姿、それを止める事の出来ない惨めな自分。


「起きたか?」


 カーテンを開けて、シュッツ捜査官がベッド脇の椅子に座る。


「シュッツ捜査官、何で俺なんか優先したんですか」


 俺の事など放っておいて時間を掛けていれば、ミアが攫われることなど無かった。

 シュッツ捜査官は答えなかった。


「分かっていますよ。魔件局の捜査官である以上、合理的で確実な手段を取らなけばならない事も!」


 分かっているんだ。

 あの状況で待ち続ければエングとの戦いになり、俺とミアの命が失われるかもしれない事なんて、だから確実に救える俺を助ける選択も理解できる。

 でも、人は真に合理的に理性的に生きていく事なんて出来ない。


「でも、危険であっても抗って欲しかった。貴方はミアが攫われている時、ただ茫然と突っ立っていた、俺はそれが堪らなく憎い」


 俺はシュッツ捜査官の襟を掴む。

 そこでやっとシュッツ捜査官は口を開いた。


「……すまない」


 俺は涙を流し、襟から手を離し、崩れ落ちる。


「謝らないで下さいよ。馬鹿野郎って殴って下さいよ、責めて下さいよ」


 この怒りも憎しみも詭弁だ。

 ミアが攫われる時に、何も出来る権利の無かった俺に対する軽蔑と自嘲を隠すための。


「俺の性です。俺が単位のためなんかに勅令に、この事件に手を出した。貴方に警告された時、こうなる危険性も想像していたし順々承知していたのにこのざまです

 自覚しましたよ。俺はまだ子供なんだ……人命の責を負うことは出来ないって事に。でも同時に悔しいんですよ、エング相手に何も出来なかった自分を心底恥じます」


 シュッツ捜査官は乱れた襟を戻しながら言う。


「それが分かっているだけ、お前は立派だ。でも、自分を卑下するのは辞めろ。ミアやお前に付いて来た仲間たちは、お前を信じてここまでしたんだからな」


 シュッツ捜査官の言葉に俺は納得した。

 俺は馬鹿だな、俺を貶すことは俺を信じた仲間を貶すことなんて当たり前に今気づくなんて。


「ガキに頼むことでも言って良いことじゃないと自覚しているが、まだ仲間のために戦えるか」


 俺はシュッツ捜査官の顔を見る。

 清廉潔白で真面目な捜査官の顔……こんな捜査官も居るんだな。


「俺からも頼みます。まだ戦わせて下さい」


 単位? 勅令? そんな事は忘れよう、今はミアを助けるために動く。


「その意気だ。制服、ここに置いておくから着替えたら着いてこい」


 シュッツ捜査官はそう言い残し、カーテンを閉じながら出ていった。

 俺はベッドから立ち上がり、学院制服を手に取り、袖を通す。

 鏡を見ると、そこには一人の少女を救うに相応しい生き生きとした表情の男子生徒が映っていた。

 保健室を出ると、シュッツ捜査官が待っていた。


「行くぞ」


 シュッツ捜査官に連れられ来たのは学院長室だった。

 ノックする事なくシュッツ捜査官は入る。

 

「シュッツ、遅いぞ。って何で生徒を連れてる」


 文句を言う学院長の横にはクリス捜査官とライター生徒会長、ルナ庶務の姿があった。


「学院長。脅迫文通り、こいつを行かせます」


「ならん。生徒を危険な目に晒すなんて……それに黒曜濡羽など、最低でも魔法使いを向かわせるべきだ」


 学院長は俺に蔑むような視線を向ける。


「それに売女の血が混じった娼婦の一族の人間など救う価値もない」


 俺は怒りで殺気を学院長に向けてしまう。


「ひっ!」


「濡羽君、生徒会長()の前で殺気を出すなんて随分横暴だね」


「生徒を蔑む先生を許しては良いんですか?」


 ライターは黙る。


「それで脅迫文というのは?」


 シュッツ捜査官が机に置かれた紙を俺に渡す。


「あ、おい。貴様、勝手な事を……ひぃ」


 シュッツ捜査官が殺気を飛ばした。

 俺は紙を見る。

 そこにはこう書かれていた。

 エング・サー・ベル・血染だ。

 黒曜濡羽。 ミアを返して欲しくば、深夜に学院街中央広場に一人で来い。

 端的な文章で罠であり果たし状だと分かる。


「シュッツ捜査官、俺行きますよ。でも、その前に奴らの目的を探らないと」


「そうだな。この戦闘は十中八九時間稼ぎだ、真の狙いは別にある」

 

 あの紙に書かれていた事が狙いだろう。

 でも、まだ明確に分かっていない。

 あの紙に書かれている事が合っているなら、あの点の場所に何かある。


「何か物的な証拠はありますか」


「ああ、そう言えば液体の入ったビンがあったな」


 液体の入ったビン……液体。

 いや、そんな事はありえない。

 でも、もしそうなら全て繋がるし行方不明になった生徒が何に使われたかも説明がつく。


「何か分かったみたいだな」


「あの教会で地図のようなものは見つかりましたか?」


「ああ、あったな」


「クリス捜査官、弟のタクオを呼んでください」


「奴らの狙いが分かりました」


 その夜、俺は学院街中央広場に居た。

 大きな噴水を中心とした円形の広場で、十字に伸びた道が特徴だ。


「来たぞ、エング」


「来たか、黒曜濡羽。さぁ、殺し合いを始めよう」


 噴水越しに俺たちは向かい合う。 

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