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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第15話:伏線

 濡羽らが奥の部屋に入った直後の教会内部、シュッツはニコラウを含めた異端審問官らの一挙手一投足を見逃さないように見続ける。


「流石ですね、シュッツ捜査官。やはり魔術無しで相手するのは不可能でしたか」


 シュッツは思考する。

 こいつら、魔力痕跡対策をしている。

 魔法使いも魔術師も人それぞれ魔力が異なり、魔法や魔術を発動すると魔力の痕跡がどうしても残ってしまい魔力からその者に犯罪歴があるかどうかなどが絞れるし、魔術師なら出生した時に魔力情報を境会に提出するので完全に絞れてしまう。


「コンラート、魔術の使用を許可します。他の者は援護して下さい、生かしてここから逃さないように」


「了解」


 コンラートがモーニングスターを振り回しながらジリジリ、シュッツとの距離を詰める。


「『伏線回収』」


 コンラートの頭上、天井に付けられたシャンデリアの金具が外れ真っ直ぐ落ちる。


「『血拍加速』」


 瞬間、コンラートが加速しシュッツの背後に回る。

 そして、モーニングスターの棘付き鉄球を振り下ろすがシュッツが先に魔術を行使する。


「『伏線破棄』」


 完璧に当たると思った一撃が横にずれ、床板を砕く。

 晒されたコンラートの隙にシュッツが追撃しようとした瞬間、ボルトが飛んでくる。

 シュッツは回避を余儀なくされ、追撃を止める。

 そのボルトは囲うように立つ異端審問官が持つクロスボウが発射されたものだと分かる。

 ニコラウは口を開く。


「今のであなたの固有魔術の能力が何となく分かりましたよ」


「じゃ、言ってみろ」


「シュッツ捜査官の固有魔術は少し先の兆候を視認し、発動または消去する能力ですよね」


「ああ、当たりだぜ。オジサンの伏線魔術は、伏線を見て回収または破棄が出来る。こっちが当てる番だな……コンラートの魔術は血液魔術だろ、どうだ合ってるだろ」


 コンラートは黙るが、その沈黙は正解と言っているようなものだ。


「固有魔術は人間が作るからほとんど似通った能力になるからな。お前と同じ固有魔術の魔術師を倒したことがあるし、その対処法も分かっている」


「コンラート、冷静に立ち回れ」


 ニコラウの言葉にコンラートは従いながら魔術を行使する。


「『血拍加速』」


 物凄いスピードでモーニングスターを振り回しながらコンラートはシュッツに迫る。


「『伏線回収』」


 コンラートの脇腹にボルトが突き刺さる。


「は?」


 撃ったと思われる異端審問官も驚いていた。

 その隙をシュッツが見逃すはずがなくコンラートの鳩尾に拳を叩き込む。

 コンラートは地面に崩れる。


「血液魔術による強化は血液を一部分に集める性質上、どうしても思考能力や視界も悪くなるし発動した後も血液をすぐ全身に巡らせないと貧血のようになってしまう。そしてオジサンの伏線回収はその過失の起こる確率が1%でもあるのなら回収することが出来る」


 シュッツは視界不良状態のコンラートの隙を突く形でボルトが味方に当たるという事故を起こしたのだ。


「やはり、私が出ないと無理そうですね」


 ニコラウはそう帽子を外す。

 黒髪を後ろで結った東洋人の顔が明らかになる。


「ここら辺の魔術師じゃないな。アジア、日本の魔術師だな」


「ああ、ニコラウも偽名だ。お前ら、帽子と動きにくいローブを取っていいぞ」


 一斉に異端審問官らが帽子とローブを取る。

 その下には和服のような戦闘服を着ていた。

 その戦闘服には獣の爪痕のようなデザインがあった。


「獣の爪痕、お前ら剣獣か」


「正解だ」


 剣獣、剣と魔術を用いた戦闘と護衛を生業とする傭兵集団。


「さて、俺がここまで晒した理由は長年捜査官をやっているシュッツ捜査官ならもう分かるよな」


「俺たちを殺す気か」


「ああ。こっちで拾ったベルナールとコンラートが相手にならないんじゃ、俺たちも本気を出さないといけないからな。本気出すなら視界が狭まる帽子と動きにくいローブを取らないといけないし、どうせ殺すなら名乗っても良いかなと」


 ニコラウと名乗っていた男以外の剣獣がどこからか剣を出し、構える。


「クリス。急いで逃げろ、お前が逃げられるだけの時間は稼ぐ」


「シュッツ! 相手は一級犯罪者集団よ、殺されるわよ」


 クリスが物陰に隠れながらシュッツの言葉に文句を言う。

 一級犯罪者集団とは魔件局の選定する犯罪者集団の中でも上位1%に与えられる危険度で、戦闘に特化した魔件局の戦闘課が動く事案だ。


「タダで殺されねぇよ。言ってるだろ、お前が逃げられる隙くらいは作る」


 クリスは分かっていた。

 それは命を捨てると言っているようなものだと。


「馬鹿よ、命を捨てるなんて…私も戦うわ」


 クリスは物陰から姿を現し、持っていた拳銃を構える。

 その手は恐怖で怯えており、撃っても当たらないことは明らかだった。


「なげぇよ、もう殺れ」


 ニコラウと名乗っていた男の言葉に剣獣の一人が動き、クリスに迫る。


「え?」


 クリスは反応出来ず、ただ茫然と立つ。


「クリス!」


 剣獣の凶刃がクリスに振るわれた。


「ぐはぁ」


 瞬間、剣を振るっていた剣獣に一人の男性がぶつかる。

 男性を投げたと思われる人物は奥の扉近くに立っていた。


「シュッツ捜査官、俺も加勢しますよ」


 シュッツとクリス、剣獣もその人物に驚く。


「何故、ここに居る? 黒曜濡羽」


 濡羽はただ一言答える。


「勅令のためだ!」

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