第13話:異端裁判
魔女狩り、中世末期から近世にかけてヨーロッパで行われた魔女とされた人々への迫害や訴追、処刑を指す言葉で多くは女性が対象とされ、証拠が捏造されたり、拷問によって自白が強要されたりする不当な裁判が行われた。
背景には教義に反する背教者を悪とし、スケープゴートとしての役割もあったとされるが実際は表社会に魔術師や魔法使いの存在が露見した事による混乱が原因だった。
そして今、目の前で行われようとしているのは魔法使いを魔女に見立てた魔女狩り、そして有罪になれば処刑確実の異端裁判だった。
「ここにルキウス・アエメリウス・マメルクスを異端の罪に問う。魔術師殺害、禁忌の儀式行使、婦女への暴行——いずれも神と人の法に背く物である。被告よ、汝はこれを否むか、認めるか」
代表異端審問官ニコラウの言葉に異端裁判は始まった。
マメルクス家と言えば、代々元老院議員を輩出する魔法使いの名家じゃないか。
犯罪行為をしていたことに疑問は湧かないが何でここに……
拘束されたルキウスは唇を震わせながら、膝を折る。
「ち、違う……! 私は……私はただ……巻き込まれただけなのです……!」
声は裏返り、魔法使いの威厳も強がりもそこにはない。
観衆である魔術師たちはジッと魔法使いの憐れな姿に笑みを浮かべながら見る。
一部の観衆は罵声を飛ばす。
「憐れだな、魔法使い!」
「どうした? 魔法を使ってみろ!」
彼を拘束する鎖には魔力封じの術が刻まれているようでルキウスは何度も魔力を練っているが散らさせ、魔法を行使できなかった。
更に観衆たちはルキウスを笑った。
俺はその雰囲気、不気味さと同様に人間の恐怖を感じた。
「静かに、今は裁判の最中である」
そう言うニコラウを含めた異端審問官も微かに笑っていた。
「証人をここに呼んである。彼らの声を聞いてみよう」
奥から三人の人物が出てきた。
「証人らよ、ここに君たちを傷付けたまたは傷付ける場面において加害者は被告人ルキウスであっているかね?」
「はい、彼です。私は路地で彼に魔法で脅され、彼に襲われました」
「はい、彼が魔術師たちを屈服させ殺す場面を見ました。あれは人間の所業ではありません」
「私の友は彼に連れて行かれ戻って来ず、探したら儀式で使ったと思われる祭壇の上で焼け焦げていました」
「三人の証言が揃い、また現場より禁書の断片が発見されている。弁明はあるか?」
ルキウスは頭を振る。
「そ、それは……知らない! 誰かが私を陥れようと……!」
その声は弱く、説得力を持たない。
ニコラウは鋭い視線を送りながら言葉を紡ぐ。
「なぜこれほどの証がありながら、彼は今まで魔件局に捕まらず裁かれなかったのか? それは彼が元老院議員である伯父の庇護にあったからである」
ルキウスは勝気を得たかのように大声を出す。
「そうだ! 俺の伯父、ティベリウスは元老院議員だぞ。大事な甥の俺に何か危害を加えてみろ、一族郎党皆殺しだぞ!」
その脅し文句はかえって有罪を裏付けるものにしか聞こえなかったが、彼にとってそんな事は問題にならず。
この文句を言えば、誰もが従うと知っていたし実際そうだったが、今この場においては違った。
観衆、異端審問官たちは失笑する。
俺たちはその態度に困惑する。
「ここで電話が繋がっている。ティベリウスさん、大事な甥を助けられますか?」
ニコラウは手元にある古い電話の受話器をルキウスの方に向ける。
「ルキウスか?」
受話器から年老いた老人の言葉が聞こえる。
「伯父上、私だ。ルキウスだ、助けてくれ」
「……」
「伯父上、どうしました。早く、助けを」
「それは無理だ」
「え?」
「お前のせいでマメルクス家は終わりだ。この賊らに私以外の一族の者と庇護者らが殺されてしまった。護衛も、女中も、女も、男も、子供も全員殺された」
「は?」
ニコラウは受話器を自分の耳元に当てる。
「貴方もこの後、殺されますよ。ティべリウス元老院議員、あなたは多くの家族を自らの汚職を隠すために冤罪にし不幸にしてきた」
「ならば、私だけを殺せば良いだろうに何故子供たちを……赤子も……」
「家族一人の罪は家族全員が負わねくては、それに魔法使いに生まれた者は等しく悪なんですよ」
「狂人め」
電話が切れる。
「さて、判決を言い渡す。被告ルキウス・アエメリウス・マメルクス、汝の怯えも涙も罪を洗うものではない。証拠は揃い、証言は重なり、罪は明白である——汝を異端と定め、火刑に処す!」
群衆から歓声が沸き、ルキウスは鉄鎖に縋りつき泣き叫ぶ。
「嫌だ……! 助けてくれ……!」
異端審問官らに無理やり連れられ、中央の十字架に吊るされる。
薪が十字架の足元に置かれる。
「火炙りだ!」
「燃やせ、燃やせ!」
ニコラウはマッチに火を付け、ルキウスの前に立つ。
「願わくば彼の来世は魔法使いではなく魔術師になることを」
マッチが落ち、薪に火が付く。
火はすぐに広がり、ルキウスの足を静かに焼く。
「アアアアァァァァ痛い、痛い」
火は彼の足、股、胸、頭と昇り彼の全身を炎が包む込んだ。
響いていた叫び声も消えていき、最後には灰しか残らなかった。
「さて、今日は何とこの裁判にゲストが来ています。拍手で迎えましょう」
まさか、俺たちの事か。
ニコラウの言葉に俺たちが焦り逃げようと行動に移す瞬間、スポットライトが照らされる。
「魔件局のシュッツ捜査官とクリス捜査官です」
盛大な拍手と光に照らされ、二人の人物は帽子を取る。
そこには先程、話したシュッツとクリスが居た。
「バレちまったらしょうがねぇ。全員、そこを動くなよ。一人残らず、殺人罪と殺人共謀罪でしょっぴく!」




