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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第12話:異端者

「濡羽、ここからどうするの?」


 深夜ゆえに誰もいない中庭で俺たちは相談を開始した。


「どうするって、今から教会に向かう以外の選択肢はないだろ」


「危険じゃないか?」


「そうです。シュッツ捜査官に従った方が良いでござる」


 織可とタクオは苦言を呈す。


「このタイミングしかないんだ。まだシュッツ達がWWが活動する場所を知らない、今しか俺たちが奴らをだしぬける最後の瞬間、勅令を成せる最後のチャンスなんだ」


「確かにシュッツの言っていた通り、ここから先は生死に関わる。俺は行くが、付いてくるかは自分達で決めろ」


 俺はそう校門の方に向かう。

 たかが勅令……単位、卒業のために命を侵すやつなんて居ない。

 一人を覚悟した方が良いな。

 そう考えていると背後から、ミアが抱きしめてくる。


「ミア、俺は君だけには付いて来て欲しくないと思っていたんだが……」


「え?」


 ミアは驚いた顔をするが、俺は気にせず彼女の方を向いて両肩を掴む。


「ミア。本当に頼む、君は寮に帰ってくれ。後のことは俺を信じて待っていてくれないか?」


 織可、タクオは男だし実力もある。

 最悪、捕まっても大丈夫だがミアはダメだ。


「それじゃ、私はアンタが危険な身にあっている事も知らずただ待っていろっていうの?」


「大丈夫だ、俺を信じろ」


「冗談じゃないわ。濡羽、アンタはどうしてそうなのよ! アンタは身近な人を過度に庇護し、問題を自分だけで背負おうとする。さっき、私が風紀委員に捕まった時、アンタ……部屋の外に委員が待ち構えている事に気づいていたでしょ! 知ってて、私を行かせて庇わせて私を戦いから遠ざけた」


 気付いていたのか。


「どうして? どうして、私を皆んなを頼れないの? 一人で全てを背負うのは大変だし、苦しくてもアンタは根を上げない。私や皆んなはアンタの何なの? 親友、仲間、大事な人……ここではっきりさせておくわ」


 ミアは涙を流し、その美しい顔を歪めながら俺の制服の襟を掴む。


「私はアンタの友達! アンタの愛玩動物でも守られるほど弱い訳でもない!」


「……ミア」


 言葉がそれ以上、出なかった。

 俺は分からなかった、分からなかったんだ。

 両親を失ってから他者の愛し方、接し方、頼り方を。


「黒曜濡羽! 私はアンタの何なんだ!」


 そう言えば、ちゃんと言葉にしていなかったな。


「友達だよ。それでいて命に換えても大事な人だよ」


「よろしい、抱いて頭を撫でろ」


 俺は愛しい命令に従い、ミアを抱きながら頭を撫でる。

 ミアの綺麗な桃色の髪が指の間をスッと通る。


「あ、ごめん。良い雰囲気だった?」


 後から来た織可とタクオに揶揄われたが、ミアのおかげでこれまで以上に二人にも自然に接しられる気がした。

 俺たちは四人は校門を通り、学院街の外れにある教会に向かった。

 大通りを抜け、小道を通り、着いた教会には灯りと人の気配があった。


「ああ、新しい加盟者の人かな?」


 教会のある墓場へ続く唯一の道の前には黒色の円錐形に尖った顔を隠す帽子と修道服を着た二人の人物が居た。


「はい、加盟者です。このまま教会に行けば、良いですか?」


「いや、この帽子を被ってもらうのと合言葉を覚えてもらう」


 俺は人数分の帽子を受け取る。


「合言葉は……『魔法使いに鉄槌を』だ」


「え」


「どうした? お前達も魔法使いを恨んでここに来たんだろ」


「は、はい。そうです」


 俺たちは帽子を被り、教会に向かった。


「生徒の行方不明の原因はこの組織が関わっていると思ったけど、行方不明者は全員魔術師だったよな」


「そうよ」


 どうなっているんだ。

 犯人は誰で、何が目的なんだ?

 考えている内に教会に着き、俺は扉を叩く。


「合言葉を」


「魔法使いに鉄槌を」


 扉が開き、あの帽子を被った男性が俺たちを教会に入れる。

 教会内部には同じ帽子を被った多くの人間がおり、ちらほら学院の制服を着ている者が多々見られる。

 中央には大きな十字架があり、その周囲には薪が置かれていた。


「皆んな、作戦通りに周囲を探ってくれ」


 俺たちは教会内部を見て回った。

 祭壇と中央の十字架には近づけなかったが、内部構造は普通の教会だった。

 そして参列席には魔法使いへの鉄槌という題名の本が置かれていた。

 情報交換を終えると教会の奥の扉から一人の人物が現れた。

 同じ帽子を被っているが装飾が少し違っており、この中で最も偉いというのは明らかだった。

 その人物は祭壇に立ち、話し出した。


「古き加盟者、新しき加盟者。ようこそ、魔法使い(マグス)への()鉄槌(マレフィカールム)に。私は代表異端審問官を務めるニコラウ・クラーマーです」

 

 演技と思うほど大きくお辞儀をするその人物は声音と体格から男性だと分かる。


「さて、今回も生きの良い異端者を捕まえましたのでどうぞ、ご覧下さい」


 奥から複数の人間に囲まれて、一人の男性が出てくる。

 口には布を巻かれ、黄色の布地にドラゴンや悪魔、苦悶の表情をとる人間の描かれた膝丈ほどの長さの服を着用していた。

 口の布が剥がされるとその男性は大きく声を荒げた。


「助けてくれ! 許してくれ! 私は魔法使いじゃない!」


 恐怖で涙を流しながら、その男性は助けを呼ぶ。

 それを見ている者たちは男性に怒声と罵声を浴びせる。


「火炙りにしろ! 異端者め!」


「火炙り! 火炙り!」


「殺せ! 殺せ! 悔い改めろ!」


 それは昔あった魔女狩りと異端裁判そのものだった。

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