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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第10話:ある日の記憶

 延々と風紀委員は俺との距離を詰めることは出来なくとも、追い続けてくる。


「止まれ! 我々は決闘なしでの魔術使用を許可されている。止まらなければ魔術を使うぞ!」


 この距離で当たる訳がないだろ。

 魔術は銃よりは使い勝手は良いが、この距離を当てるには相当なエイム力が必要だ。


「おお、それは怖いな」


 俺は急に風紀委員の方に振り返り、迫る委員の一人に肘打ちを喰らわせる。


「くはぁ」


 肘打ちを受けた女子生徒は痛みで崩れる。


「すまないな。女性には手を出すと叔父に言われているが、これは戦闘での不可抗力ってもんだ」


 また元の方向を向き、走る。


「き、貴様! 逃げるな」


 あっけに取られたのか委員達の動きが少し鈍っていた。

 更に委員との距離を稼ぎながら、腕時計を見る。

 ちっ時間がねぇ、いそがねぇと。

 爆破音と共に前方に拳を構え、風紀委員の代表格と思われる女子生徒が立ちはだかる。


「貴様ァー! 仲間をよくも……爆ぜろ、炸裂!」


 女子生徒は魔力を拳に込め、炸裂すると思われる攻撃が放たれるよりも先に俺が攻撃を叩き込む。


「黒曜秘伝、黒斑(クロフ)


 鋭い鷹の如き一撃が放たれ、女子生徒の胸に叩き込まれる。


「ぐっ。に、逃げるな!」


 これで倒れないなんて、普通の魔術師にしてはよくやる。

 若干、距離は縮まってしまったが大丈夫だ。


「止まりなさい」

 

 さっき俺に魔法は好きかと問いた女子生徒が立ちはだかる。

 白髪長髪の中に一房だけ赤い髪を持つ女性生徒の胸には生徒会の証が付いていた。


「生徒会役員庶務、ルナ・フェメノン・ルージュ。貴方を確保します」


 フェメノン・ルージュ家の者か。

 黒曜と同じく始まりの魔女の直系、七家の一つ。

 朱色の魔法使いの一族、かの家は初代から一つの異名にして烙印を継承している。

 最強と謳われる魔法使いの称号、魔王を。


「良いかもな。最強の魔法使いをこの黒曜が倒すのは」


「何を言っているの? 貴方の固有魔術は……」


「ああ、だからここまで来たんだろ……時間だ」


 ルナの背後、地面から水が一斉に噴き上がる。

 決められた時間に水が噴き出す、仕掛け噴水。

 そして俺の固有魔術は自ら生成することは出来ないが、ありとあらゆる液体を操作することが出来る。


「液体魔術。広がれ、『池』」


 噴水の水が平面上に広がり、ルナと風紀委員の足を拘束する。


「形と成せ、『水剣』」


 水が剣の形を成し、穂先を拘束したルナの喉元に当てる。


「動けば殺す。こっちにも正当な理由があるんでね」


「それはこっちも同じよ。潜性魔法、『潜性』」


 剣が消え、広がっていた池が消える。


「私には魔術も魔法も効かないわ。諦めて、投降しなさい」


 クソ、見誤った。

 彼女が朱の悪魔か。

 あらゆる魔法、魔術を無効化する魔法使い。


「諦めるかよ。液体魔術——」


「それ以上、好きにはさせないよ」


 背後から強襲される。

 両腕を光の輪で拘束され、足を挫かれ崩される。

 それを一瞬で成したのは一人の男子生徒だった。

 金髪碧眼で王子のような顔立ちの男子生徒。


「……生徒会長」


 その言葉を最後に俺は何かの攻撃で気絶した。

 夢を見た。

 遠く懐かしい夢を。

 叔父さんの家のそばにある森。

 俺は修行と勉強が終わると、駆け足でそこに向かった。

 だって、そこには赤色の髪を風に靡かせる天使が居たから。

 天使は修行で傷付いた俺の心と体を癒し、一緒に遊んでくれた。

 暖かい日の光が木漏れ日となって降り注ぐ中、幼い俺は彼女と遊んでいた。

 古い記憶で、彼女とすぐに会えなくなってしまったからか少女の顔と名前ははっきりと思い出せなかったが、赤く長い美しい髪だけが記憶に鮮烈に刻まれていた。


「ハハハハ、やったな」


「え〜い、濡羽。追い付いて見なさい」


 遊び疲れた後は、いつも大きな木の下に寝転んで休むのがいつの間にか習慣になっていた。

 少女はその時、不意に立ち上がった。


「濡羽。私には夢があるの」


「夢?」


「知ってる? この世界は私たちが思っているよりも広くて神秘に溢れているの。お母さんの話では迷宮って言う十三の世界があってそこで神秘を得るため探索する人々を探索者って言うんだって。大人になったら、一緒に探索者になって迷宮を冒険しようね、濡羽」


 手を伸ばし、夢を語る君の瞳は宝石よりも月よりも綺麗だった。


「迷宮は危険らしいから、魔法をもっと上手に扱えないと」


 俺はその眩しさにどうしても弱くなってしまった。


「——ならきっといけるよ……でも、僕は……」

 

 弱くなる俺を少女は押した。

 俺を押し倒し、涙を流しながら少女は言った。


「濡羽も一緒じゃなきゃ、だめ!」


「濡羽がいないんだったら、意味なんてない。だから……一緒に行こう?」


 あの時の俺はどうしてか、この日々が大きくなっても永遠に続くと信じていた。

 だけど、俺は少女に別れを告げることなく去ってしまった。


「起きろ!」


 大きな声で覚めると尋問室で椅子に体を縛り付けられていた。

 机を挟んでそこにはルナ・フェメノン・ルージュが居た。

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