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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
生徒行方不明事件 〜魔法に恋し、親友を愛す〜
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第1話:恋の始まり、

 恋の始まり、出会いの始まりは唐突でその後の人生のあり方を変えてしまう。

 人生にとって大きな衝撃と言えよう。

 少年は階段の降りた先の床に尻餅をついた状態で、階段に立つ少女を見る。

 少女は一言、杖を向けながら言う。


「貴方、魔法は好き?」


 問われた少年は魔法使いではなく魔術師だったが少女を見ながら答えた。


「俺は、魔法が大好きだ。魔術と違って自由で優雅で誰にも貶されることも汚されることのない美しさに満ちた魔法が大好きだ」


「そう、じゃ。ありがたいと思いなさい」


 少女が杖を振るうと少女の左右に魔法陣が出現する。

 魔法陣の放出先は少年に向けられていた。


「『浮上』」


「これが貴方が恋焦がれる魔法の見技よ。体感しなさい!」


 魔法陣から青色の光線が少年に照射される。

 瞬間、熱が肌を焼き焦がし体内の水が抜けていく。

 神経に奔る痛みに地面を這いずり回る。

 この恋の最初は、精神的ではなく物理的な衝撃だった。

 何故、こうなったかはだいぶ前に戻る。


***


 魔法魔術学院アヴァロン。

 将来の活躍を約束された魔法使い、魔術師の卵が通う千年を超える歴史を持つ伝統的な学院にして島だ。

 魔術的な結界に囲まれた島で、島内には学院を中心に学院生徒が授業で使う教材などを扱う商店などが連ねる学院街が広がっている。

 学院自体は大きな時計台がそびえる講義棟と左右に向かい合う形で存在する二つの寮棟、その間に広がる庭園によって構成され上空から見ればコの字形になっている。

 九人の教授と百人を超える教授補佐や職員によって運営される魔法・魔術を極めることに関しては名実的な世界一の大学と言える。

 そんな学院の庭園内に数多くあるベンチの一つで俺は木陰に包まれながら読書に勤しんでいた。

 漆黒にも形容される髪色と瞳。

 それと対立するハズの仄かに赤みを帯びた白色の肌が、均整の取れた顔立ちの元に共同している容姿の整った少年。

 庭園内は日の光で陽気に満ちているが、俺の周りはどこか億劫とした陰気が漂っていた。 

 そんな陰気を晴らすように陽気過ぎる雰囲気を纏った桃色髪の少女が近づき、俺から本を没収した。


濡羽(ぬれば)、おはよう!」


 本を没収された俺、濡羽はどこか慣れた感じで少女に視線を上げた。


「何だ、ミア。朝っぱらから、お前はうるさいな。また、先輩に告られたのか?」


 腰まで伸びた桃色のウェーブ掛かった綺麗な髪とピンクの人を惹きつけるような美しい瞳。

 少女ながら大人顔負けの容貌とスタイルは人々を魅了してやまない魅惑溢れる若き魔術師だ。


「確かにそうだけど、今日はその話じゃないよ。そもそも、私ってそんなに告られた事、アンタに報告してた?」


「入学から三年間で100回は聞かされた。てか、お前は基本人の恋愛話か告られたことしか話さないからな」


「本当にごめん。ってまたこんな難しい本を講義前に読んで、脳がパンクしないの? 私なら絶対に無理ね」


 ミアは本の内容を一目見たら、嫌な顔をしてすぐに閉じた。


「魔術師の本分は学びだろ。お前は実技の点数は良いけど、筆記がダメダメだ。そんなんじゃ、卒業も出来ないだろ。今年でお前も俺も最高学年でもう将来を考える歳だ」


「濡羽も実技はダメダメじゃん」


「そうだけど……俺のは少し違う問題だからな」


「それに私、卒業したら濡羽の妻になるもの」


 俺は分かりやすく頭を抱える。

 はぁ、こういう発言が多くの男性生徒を玉砕させているのか。

 本当にすまない、玉砕した同級生、先輩、後輩達よ。


「ミア、お前は思ってもない事をそう軽々しく言うから多くの人を勘違いさせるんだ。もう少し考えてから話すことを心掛けた方が良い」


「考えてるわよ。まるで、私がバカみたいじゃない!」


「バカですよ。ミアさんわ」


 そう遠くからコーヒーを二つ持った少年が近づいてきた。


織可(おりべ)も私をバカにして!」


 茶淡(ちゃうす)織可(おりべ)

 若干黒み掛かった茶髪童顔の少年で、俺やミアと違い筆記、実技、実習三つとも成績優秀でミアの話ではその甘いマスクに惚れている女子生徒は多いらしい。


「はい、ブラック」


「ありがとうな。お前は相変わらずカプチーノか」


 俺はコーヒーを受け取り、香りを楽しみ飲む。

 織可も同じように飲むと答える。


「どうにもブラックは好きになれなくてね。まぁ、どこかのバカ女と違って好まないだけでブラックは飲めるけどね」


「誰がバカ女よ。アンタら私をバカにしすぎじゃない、ブラックくらい飲めるわよ」


「じゃ、俺のブラックを飲んで思いっきり吐いたのはどこの誰かな?」


 ミアは俺の言葉に明らかな反応を示す。


「飲めると言うなら飲んでみなよ。飲めるんだろ」


 織可は絶対に楽しんでいるな。

 ミアの反応は面白いから楽しみたくなる気持ちは分かるけど、流石に酷過ぎか?


「分かったわ、飲んでやるわよ」


 ミアは俺からコーヒーの入ったカップを奪うと一気に飲み干した。


「おい、大丈夫か?」


 煽った張本人である織可も流石に心配しているがミアは平気な様子だった。


「これ本当にコーヒー? 水の味がするんだけど」


「……濡羽?」


 織可の問いに答える。


「ああ、俺の固有魔術でコーヒーを水に変質させておいた。それより早く話してくれよ、本題を」


 ミアを急かす。


「そうね。最近……」


「おうおう! こんな場所で何をしているんだ?」


 大柄の魔術師が二人ほど魔術師を連れて大股で近づいてきた。

 その目には俺に対する蔑みと妬みがあった。 

筆記試験:魔力と術式構築などに関する数学、魔法使いと魔術師の歴史、物理などの高等化学。

実技試験:試験会場内で提示された課題をクリアする。武器などの持ち込みは許可されていない。

実習試験:筆記、実技をまとめた試験で戦闘や指揮、研究など総合的。持ち込みは許可されている。

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