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景、好きだっていってんじゃん。

作者: さかな

「景、好き。」よく私は景にいう。でも景は、困ったように笑って、頷くだけだ。景が私を好きでいてくれてるのは知ってる。でも、果たして景は私の言葉を信じてくれたのだろうか。たとえ、信じてもらえてなくても、この想いが変わることはない。

昔は景が側にいなかった。そりゃあ、そう。会ったこともなければ、名前も知らない。当たり前のことだけど、今は信じられない。昔はどうやって過ごしていたんだろう。そう、不思議に思ってしまうくらいに、景、あなたのことがたいせつだ。


私たちは付き合ってから、定番のとこはすべて回った。一カ所を除いて。私たちが付き合いはじめたのは1年前の秋からだ。今は夏。そう、夏祭りに行ってないのだ。もちろん、行く約束はしてる。今日に。

ピロン。スマホが鳴った。景からだ。「思ったより混んでる。待ち合わせ場所、美代の家の前でいい?」・・・バッ!!メールを見たと同時に、カーテンをおもいっきり開ける。そこには、いたずらに笑った景がいた。ムッ、と私は思ったけど、景の和服がかっこよかったので、割合してあげることにした。私も後は家を出るだけだったので、すぐに家を出る。

「ちょっと。早すぎない?!まだ約束の時間まで、あと30分は余裕であるよ?!」

「まあ、いいだろ?ほら。美代も準備満タンだし。」

「いいから行くよ。」

景は無視して、祭の会場へ向かった。



「ちょっと待てよ。美代。人混みで、はぐれるぞ。」

前を見ると、人人人。差し出された景の手を取る。

「ありがと。」

景の顔を見上げると、真剣な顔をしていた。すこしドキッとする。

「なあ、美代。花火が終わったら、言いたいことがある。聞いてくれるか。」

なんだか、嫌な予感がする。聞きたくなかった。一応けいは、私の気持ちを聞いてくれている。でも、断ったらダメなんだってことは、なんとなくわかった。だから私は、なにもわからなかったふりをする。

「なに。急に。言いたいことがあるなら、いまいいなよ。」

景はすこし驚いた顔をする。

「そう、だな。そうだよな。」

景は張り付けた笑みを浮かばせて、黙り込んでしまう。

「いいにくいなら、言わなくたって、いいんだからね?」

これが、私が言える、精一杯の本音だ。

「ありがとな。でも、これはいわなくちゃいけないんだ。」

そういった景の顔は、決意に満ちていた。



「俺、花火が綺麗に見えて、人がいない穴場を見つけたんだ。」

しばらくして、景はそういった。

「ここからすこし、距離はあるんだけど。今から屋台見てこーぜ。」

そういった景の顔はいつもみたいに眩しくて、うん。とすなおにうんずいた。



射的やヨーヨーすくいをやったあと、焼きそばとじゃがバター、リンゴ飴を景と二人で持ち、穴場へと向かった。

「ねえ景、好き。」

景はいつものように、困ったようにわらった。

「美代って、いつもはツンデレなのに、こういうのだけはストレートだよな。男子ってこういうの弱いんだぞ?」

いつもは頷いてくれるのに、今日ははぐらかされた。嫌な予感がさらに増す。花火が終わったらなにを言われるんだろう。不安で頭が真っ白になる。聞くのが怖い。でも、聞けないのはもっと嫌だ。よし、覚悟を決めよう。スウと大きく息を吸う。

「ねえ、景、話したいことってなに?ちゃんと教えて。」

ドキドキと、緊張で心臓がうるさい。景は黙っている。私がもう一度言おうと口を開きかけたとき、景は言った。

「別れよう。一年間、ありがとう。」

長い長い時間が流れてるようで、一瞬だった。

「え。」ボトッとリンゴ飴が落ちて、バリンとあめがわれる。バクンバクン。さっきとはすこし違う感じで、心臓がうるさい。

「う、うそでしょう?」

信じられない。信じたくない。でも、そんな想いを両断するように景は言葉を重ねる。

「ごめん。幸せだったのはほんとだ。」

ばろぼろと涙がこぼれる。すこしも止まる気配がしない。ドオン。花火が上がった音がする。反射的に空を見上げる。花火が大きく上がってることはわかるのに、涙でにじんで、よく見えない。

「景、なんで。い、一年も付き合ってる、のに。私のなにがダメだった?素直になれなかったから?な、直す。他にもダメなところは直すから。だから!・・・別れるなんて、言わないで。」


いつの間にか、景の手から食べ物はなくなっていて、代わりに私の肩を掴んでた。

「違う。違うよ。美代はなにも悪くない。」

景も泣きそうな顔をしていたが、今の私は気にかけもしなかった。

「っな、なら、いいじゃん。別れなくたって。」

「ごめん。そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。で、でも、美代に俺は釣り合わない。美代はかわいくて、優しくて。付き合ってくれたのがうそみたいだ。でも、日が経つに連れ、不安になって来たんだ。ほんとに、俺のこと、好きでいてくれてるのかなって。美代だから、嘘じゃないだろ、って、理屈では分かってても、不安になるんだ。こんな俺は、美代にふさわしくない。」


ブチッと私の中で何かが切れた音がした。おかげで涙が引っ込んだ。

「聞いててイラッときたんだけど。なに、釣り合わないって。そんなのいったら、私だって景と釣り合わないよ。わかる?男なら釣り合うようになって見せるとか言いなさいよ。私はずっと、好きだって言ってるでしょう。不安になるならいってよ、わからせてあげるから。」

最後は強気に笑って見せた。うまく笑えてたかはわからないけど。景は顔を上げた。

「ごめんな、美代。」

言葉はさっきと同じだが、意味はさっきと変わったような気がする。

「ふがいなくてごめん。もう一度、俺と付き合ってください」

言葉では言わない。私は景に抱き着く。力強く。景の服が、若干着崩れたき気がするが、気にしない。

「何いってんの。最初から別れてなんかないよ。言ったでしょ。好きだって。別れようって言ってきたときだって、頷いてないよ。ねえ景、好きだよ。」

「ああ。俺も、好きだ。美代。」

景はそういって、美代の体に腕を回した。そして美代の髪を撫でて、唇を落とす。

「好きだ。美代。」

景は美代の頭の後ろに右手を回して、、、。そうしてすぐに、今までで一番、盛大な花火が上がった音がした。






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