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15-3・真田さんはどこ?

 宿場町に到着したら、7人の令嬢はそれぞれの家に帰っていった。「ちょっと素っ気ないんじゃね?」と思いつつ、ようやく解放されて安堵をした僕は真田さんを探すんだけど、どこに行ってしまったか解らない。


「こんなことやってたら、今日中に帝都に着けなくなっちゃうよ~」


 宿場町は10K㎡弱の広さしかないんだけど、手掛かり無しで真田さんを探すのは難しい。


「まさか、先に行っちゃった?」


 真田さんの足では、短時間でそれほど遠くには行けないはず。町の入口(帝都側)まで行って街道を眺めるけど、彼女の姿は無い。


「どこに行っちゃった?」


 怒って西の都市セイに帰っちゃった?それは無いと思いたい。町中を探し回って行き違うより、入口で待ち伏せた方が会えるのではないか?僕は、質素な門の前に立って行き交う人達を眺める。馬に乗った騎士さん、馬車に乗った商人さん、徒歩の旅人、疎らだけど様々な人が通過をする。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 帝都に急ぎたい気持ちは解るけど、モンスターに襲われてる女の子を放置できるわけがない。助けたあと「勝手に帰れ」ってのも冷たいと思う。僕は間違ったことをしたとは思っていない。だから、なんで真田さんが怒っていたのか解らない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 真田さんの対応に苛つく反面、もの凄く不安になってきた。北東村ペイイスで合流してから今まで、真田さんは、ずっと僕の傍にいてくれた。現実世界では比較的“ぼっち”が平気だったけど、今は寂しく感じる。彼女がいなかったら、智人トモと袂を別つ勇気が持てなかったと思う。


「あの・・・身長が僕の肩の高さくらいで、銀の胸当てを着た子・・・

 1回戻ってきてから、また出て行きませんでしたか?」


 ジッとしてられなくなって、門番さんに話しかける。


「おお・・・女神のレリーフが入った立派な鎧のボウズな。

 ガキがたった1人で目をつり上げて戻ってきたから覚えている。

 そのあとは通過していないぞ」

「ありがとうございました。

 その女の子、僕のツレなんです。時々様子を見に来ます。

 もし出て行こうとしたら、引き留めて下さい」


 こ~ゆ~時って、お駄賃チップをあげておけば言うことを聞いてくれるんだろうか?いくらぐらいが良いんだろうか?よく解らないから、門番さんに銀貨1枚を渡す。多分、日本円で1万円くらいの価値がある。


「お、おいっ!」


 門番さんの顔を見て「渡しすぎ」ってのは解った。だけど、このまま真田さんと離ればなれになるよりは、「チップをあげすぎ」の方がマシ。


「お願いします!絶対に引き留めて下さい」


 町中を探し回ることにした。先ずは、入口から一番近い食堂へ。いなかったので、次の食堂へ。「今日中に帝都に行く」と張り切ってた本人が、サッサと宿泊を手配したとは思えないので、宿屋はスルーをする。この状況でオシャレに目覚めたとは思えないので、服屋さんもスルーをする。ずんだパンを売ってたお店にも顔を出したけど、真田さんの姿は無い。


「もしかしたら、今頃、門番さんに引き留められているかも」


 一度、町の入口(帝都側)に確認に戻ることにした。


「ミコト様っ!探しましたわ!こんなところに居られたのですか?」


 尋ね人とは別の声。振り返ったら赤いドレスのアンさんが近寄ってきた。


「真田さん見ませんでしたか?」

「サナダ?」


 そう言えば、アンさん達は僕にばかり話し掛けていて、真田さんは自己紹介をできていない。・・・てか、真田さん自身が完全に壁を作っていた。


「僕と一緒にいた子です」

「おおっ、背の低い少年ですか?」

「少年じゃないんだけど、この際、そこはどうでも良いです。

 どこかで見ませんでしたか?」

「いいえ、見てませんわ」

「もし見付けたら、帝都側の入口の近くの食堂で待つように伝えて下さい」

「承知しました」


 アンさんにお願いをしたあと、走って町の入口まで行く。だけど、真田さんの姿は無い。門番さんに聞いたけど「まだ来ていない」と言われた。振り返って町の中心に戻ろうとしたら、アンさんが両手でドレスの裾を少しあげて、小走りで寄って来た。


「・・・ん?なんで付いてくるんですか?」

「ミコト様を今宵の晩餐に招待する為に呼びに来たのです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ダメだ、この人、真田さんを探す気が全然無い。そう言えば、この世界の住人は頭がちょっと足りないんだっけ?

 

「ミコト様っ!」 「ミコト様っ!」 「ミコト様っ!」

「ミコト様っ!」 「ミコト様っ!」 「ミコト様っ!」 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 青いドレス、黄色いドレス、ピンクのドレス、緑のドレス、黒いドレス、白いドレス、切羽詰まった現状では“量産型”としか思えない令嬢達が次々と寄ってくる。申し訳ないけど、全く興味が無いので、最初に会った「アンさん」以外の名前は全部忘れた。・・・てか、邪魔。


「真田さん見ませんでしたか?僕と一緒にいた子です」

「おおっ、背の低い少年ですか?」

「愛想の悪い下僕ですね?」


 異世界あるある⑤

 主人公は可愛くて優秀な奴隷を所有する。おそらく、所有物という属性を与えることで「可愛い子を独占したい」という願望を表現する手段なのだろう。重要なのは「可愛い子を支配下に入れる」と「奴隷にも分け隔てない俺は優しいでしょ」なので、「なんで有能なのに奴隷に落ちぶれているのか?」の説明はワリと大雑把。


「真田さんは女の子だし、僕の家来じゃなくて仲間です!」

「あら、奴隷如きを同格に扱うなんて、お優しいのですね」

「・・・同格ってより、彼女の方が格上です」


 あれ?おかしい。智人トモが真田さんを見下した時と一緒だ。普段の僕は、あまり他人の言動を気にしないのに、色違いの量産型達に腹が立ってきた。


「宿以外で冒険者が立ち寄りそうな場所ってありますか?」

「可能性があるとすれば冒険者ギルドでしょうか?」


 こんな小さな町にも冒険者ギルドってあるんだ?滞在をするつもりがなかったので、全く気付かなかった。


「ギルドとは言っても、都市のような立派なギルドではありません。

 冒険者が立ち寄りやすい酒場を兼ねた小さなギルドです」

「そこはどこですか?」 


 場所は宿場町の真ん中くらい。走れば5分くらいで行ける場所だ。いても立ってもいられなくて駆け出したら、量産型達は揃って後から付いてきた。


「ミコト様、晩餐には来ていただけるのですよね?」

「では、お泊まりは我が家に来て下さい」

「私が一晩のお供をさせていただきますわ」

「いいえ、私がっ」

「では、皆でミコト様の愛をいただきましょう」


「なんなの、この人達、気持ちが悪い」


 異世界あるある⑥

 ハーレム要員は喧嘩をしない。読者がドロドロの愛憎を求めない、作者がドロドロの愛憎を表現できない、どちらの理由で恋敵同士が険悪にならないのかは不明。

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