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謎のダンジョン①

 これは、藤原くん達と共同生活をするようになって数日経過した頃のお話。

「どうしたヘボ!もうギブアップか!?」

「まだまだっ!」


 お屋敷の近くの空き地で、僕は木の棒を使って藤原君との模擬戦をしていた。盾を使った回避を覚えて、少しは強くなれたと思っていたけど全然ダメ。藤原くんには全く歯が立たず、地を這うのは僕ばかり。「特訓と名付けられた虐めなんじゃね?」ってレベルで、見事な連敗記録を更新していた。


「攻め方が単純すぎる!

 ちっと休憩させてやるから、戦いの駆け引きを考えろ!」


 木陰に入って休憩をしながら、藤原くんと近藤くんの模擬戦を眺める。連日惨敗しているんだから、駆け引きはそれなりに考えている。でも、藤原くんに見透かされて反撃される、もしくは、イメージした通りに体が動かない。


「どうやれば、あんなに上手に戦えるんだろ?」


 剣道が上手な近藤くんはともかく、藤原くんは、喧嘩(実戦)慣れをしているとは言え、この世界に来るまでは剣なんて振ったことが無いはず。


「負けて当たり前・・・なんて言えないよね」


 近藤くんなら、藤原くんの剣術にどう対抗するんだろう?藤原くんが仕掛ける度に、「僕ならこう動く」をイメージしながら近藤くんを見て、「僕と近藤くんの動きがどう違うのか?」を確認する。


 同じ敷地内で、真田さんが沼田さんと土方さんに魔法の講釈をしている。


「メロンかグレープフルーツを持つイメージで掌を合わせてね」


 真田さんの掌の間の空間が歪む。


「魔力で冷気を作ったから触ってみて」


 沼田さんが真田さんの掌の間に手を入れる。


「わっ!すごーい!ヒンヤリしてる!どうやるの?」

「余計な意識を全部オフにして、集中力を高めて・・・」

「『余計な意識を全部オフ』ってなに?」

「部活の時、楽器以外のこと考えてないけど、演奏のことは考えてるでしょ?

 それと同じ感じかな?・・・多分」

「意味が解んない。他の演奏者や指揮者のことを考えちゃダメってこと?」 

「え~~~と・・・そうじゃなくて」

「私、特殊能力で火の玉飛ばせるんだから、

 こんなメンドイことしなくてもよくね?」

「まぁ、そうなんだけど・・・

 それを言っちゃったら話が終わっちゃうというか・・・」

「もっとすごい魔法は無いの?

 掌から火のドラゴンが飛び出すとか!そ~ゆ~の覚えたい!」


「真田さんは、燃えるカバなら出せるよ!」


 西都市セイの魔法勉強会で真田さんが使った魔法を思い出して口を挟む。


「なんでカバ?」

「早璃ちゃんってカバ好きだったっけ?」

「カバじゃないっ!ドラゴン!尊人くんは余計なことゆーな!」


 真田さんの凄さをアピールしたつもりだったのに、真田さんに怒られた。


「オメーはカバの心配なんてしてねーで、こっちに集中してろ!」

「痛ぇ!」


 しかも、見取り稽古を怠っていたので、藤原くんに頭をど突かれる。「戦いの駆け引きを考えろ」をしてなかったのは反省するけど、僕、カバの心配はしてないよ。



 これが実戦だったら、今日1日で10回くらい惨殺されたかな?特訓が終わったあと、1人で芝生に寝転がって「戦いの駆け引き」や「近藤くんにできて僕にできないこと」を考えていたら、膨れっ面をした真田さんが隣に座った。魔法の講義が終わったらしい。


「どう?沼田さん達は魔法を使えそう?・・・その顔見るとダメ・・・かな?」

「うん、ダメ。縫愛は頑張ってるけどゾーンを意識できてない。

 ひとみんは頑張ればゾーンに入れそうだけど、

 『特殊能力あるから要らない』って言って、全然真面目にやってくんない」


 まぁ、確かに特殊能力で真田さんが使う魔法以上のことができる土方さんは、魔法を覚える必要が無いだろうな。


「転移者の僕等には難しい技術だからね」

「ありゃ?尊人くん『難しい技術を使える自分はすごい』って言ってる?」

「言ってない。僕が『凄い』だったら、真田さんは『凄すぎる』になっちゃう。

 僕は、真田さんが特殊能力を貸してくれたおかげでコツを覚えられたけどさ、

 それが無かったら、何にもできてないと思う」


 僕と真田さんは、日々、空き時間を見付けて魔法の練習をしている。真田さんの場合は「やったらやった分だけ上達する」からなんだろうな。ロクに魔法を上達させられない僕が練習をする理由は、近接戦闘 (剣術)が人並み以下の僕では、他の技術を学ばなければ「何もできない奴」になってしまうから。そして、魔法へのファーストコンタクトと理解力では真田さんを上廻ってたのに、あっという間に追い抜かれて悔しいから。「真田さんには適わない」と諦めてしまうのは簡単だけど、それじゃ永遠に追いつけなくなってしまう。


「だから、沼田さんと土方さんが魔法に取っ付きにくいのは仕方ないよ」

「そっかぁ・・・そうかもね」

「まぁ・・・僕等じゃ満足に習得できない魔法を、

 独自路線で使い熟している真田さんが『凄い』のは事実だけどね」

「うへへへへっ。尊人くんに免じて、そ~ゆ~ことにしといてあげる」


 どの部分が「そ~ゆ~こと」にしてもらえたのだろうか?沼田さんと土方さんが魔法に取っ付きにくいこと?それとも真田さんが凄いこと?名詞が無いのでよく解らないんだけど、とりあえず、膨れっ面をしてた真田さんが、いつもの真田さんに戻った。


「そろそろ夕御飯の時間だよ。帰ろっ」

「うん」


 立ち上がって、服に付いた土埃を祓い、藤原屋敷に帰宅する。

 今日の夕食係は吉見くんと鷲尾くん。調理は当番制で、チームメイトの8人が2人グループになって担当をして、一巡をするとクジ引きでメンバーを変える。ただし、吉見くんと沼田さんは同じグループにはしない。理由は、ちゃんとした料理ができる2人を一緒のグループにしちゃうと、その時だけしか美味しいご飯がたべられないから。藤原くんと近藤くんも同じグループにはしない。理由は、露骨な手抜きが発生して、ロクなご飯が食べられないから。


「帝都の東の端に謎のダンジョンがあるんだってさ。

 なんか面白そうだよね?」


 吉見くんが仕入れてきた妙な情報を、夕食の席で発表する。


「ダンジョンって、ゲームとかで攻略する迷路みたいなやつのこと?」

「うん、そうだろうね」


 僕は「興味2割」「面倒くさそう3割」「僕には関係無い5割」、そんな感情で吉見くんの説明を聞く。


「面白そう!尊人くん、明日、行ってみようよ!」

「・・・・へ?」


 真田さんが眼をキラキラと輝かせながら、僕限定で巻き込みやがった。この瞬間、僕の感情の「僕には関係無い5割」が強制排除をされ、「面倒くさそう3割」も押し流される。

 まぁ、代わりに、真田さんが一緒なら「興味2割」が200%増しくらいにはなるけどね。




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