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27-5・繋がり

 ようやく落ち着いたので、椅子を引っ張り出して真田さんを座らせて、僕は机に軽く寄りかかって腰を落ち着ける。


「吉見くんの元気な顔が見られて嬉しい」

「君達、無事だったんだね。

 てっきり、徳川が発した光に飲み込まれたと思ってた」

「うん・・・ギリギリだったけど、どうにか逃げることができた」

「そっか・・・よかった」


 そこで会話は途切れてしまう。たくさんの仲間を失った大敗を、まだ上手く受け止められない。僕は真田さんが一緒にいてくれたおかげで気を強く保てるけど、吉見くんは数分前まで「自分以外は全滅した」と思っていたんだから仕方が無いだろう。


「・・・ブラークさん。無事なんだよね?」

「うん。致命傷は無いみたい。でも、疲労が酷くてね。

 モンスターに襲われてたアンさん達を助けた直後に気を失ってね」

「・・・そっか」

「まだ寝てると思うけど、お見舞いに行く?」

「うん、もちろん」


 吉見くんの案内でブラークさんの部屋へ。扉を開けたら、青ドレスの令嬢が椅子に座ってブラークさんの手を握っており、他の6令嬢はブラークさんの体を拭いたり、顔を撫でたりして、甲斐甲斐しくお世話をしている。・・・てか、7令嬢が邪魔で、ベッドで寝ているブラークさんが見えない。


「うわぁ~・・・追い払った人達、全部ここにいた。

 真田さん、追い出さないの?」

「なんで追い出さなきゃなの?

 ブラークさんの看護してるんだから、あたしに妨害する権利は無いでしょ」

「まぁ・・・そうだねぇ」


 令嬢達の隙間から覗き込んで、眠っているのだけは見えた。今はまだブラークさんには手厚い看護が必要。目を覚まして迷惑そうにしてたら追い払うことにして、しばらくは7令嬢に任せることにする。


「源くん・・・真田さん・・・

 君達は『なんで?』って怒るかもしれないけど・・・」


 ブラークさんの部屋から出たあと、吉見くんに呼び止められる。


「伝えるべきか迷ったけど・・・もう1人、あの戦いの生還者がいるんだ」


 仲間達の瀕死状態=脱落は、現実世界で確認した。だから、生還者に心当たりが無い。吉見くんの案内で別室に行ってノックをしたら、「どうぞ」と素っ気ない声が聞こえる。部屋に入ったら、ベッドで我田さんが横になっていた。 


「徳川くんが発した光から必死で逃げてるのを見てられなくて・・・

 肩を貸して連れて逃げたんだ。

 君達に文句を言われるのは覚悟してる」


 仲間達が全滅をした状況で、1人でも良いから知人を救おうとした。吉見くんの気持ちは理解できる。だけど、なんで敵の我田さん?言うまでも無く不満だらけだ。


「助かったのが私で悪かったな」


 我田さんは俯いて、小声で呟いた。その眼には涙が浮かんでおり、僕を殺そうとした時の高圧的な雰囲気は感じられない。


「吉見が救いたかったのは私じゃなかった。

 だけど、私を見捨てられなくて・・・」

「我田さん・・・辛くなるから、それは説明しなくて良いよ」


 吉見くんが止めるけど、我田さんは説明を続ける。智人チートが発動した光の半球が迫る中で、吉見くんは沼田さんの救出に向かった。致命傷を負った他の仲間達とは違って、卒倒しただけの沼田さんなら、救出すれば生き残ることができた。だけど、矢傷を堪えて助けを求めながら必死で逃げる我田さんを見捨てることができず、結果的に沼田さんが見捨てられることになった。


「私達を諸共に焼こうとしたチートのところには・・・

 脇坂を見捨てたチートのところには・・・もう戻る気は無い。

 アンタ等にとって、私と沼田じゃ価値が違いすぎることくらい解ってる。

 沼田の代わりになれないことくらい解ってる。

 だけど私が助かっちまったこと、勘弁してくれ」


 不満しか無いけど、泣いている我田さんを見ていると何も文句を言えない。


「無事だったんだ?おーちゃんの矢で脱落したと思ってた」

「バカだよな、織田は。

 私じゃなくて、最初にチートを射ていれば、戦況が変わってただろうにさ」 


 我田さんは、櫻花おーちゃんに射貫かれたことを怒っている?でも、雰囲気からは怒りや苛立ちを感じない。


「確実に急所を貫ける特殊能力なのに、わざと致命傷を外しやがった。

 イイ子ちゃんすぎてムカ付く」


 櫻花おーちゃんは智人チートを憎んでいた。チートに致命傷を負わせるチャンスがあった。でも、それをせず、我田さんを致命傷を負わせずに退けることを選択した。

 僕には「なんで?」の答えは1つしか思い付かない。おーちゃんの行動で生還できたのは誰なのか?それは僕。


  『貸し一つね』


 櫻花おーちゃんが最後に語りかけてくれた言葉が、脳内で起きる。おーちゃんは、恨みを晴らすことより、弟分の僕を救うことを選んだんだ。


「・・・おーちゃん。僕、まだ守られなきゃならないくらい頼りないの?」


 我田さん言った「イイ子ちゃんすぎてムカ付く」が理解できる。

 大きすぎる借りを作ってしまった悔しさと悲しさが同時に込み上げてくる。


「源くん。君に賭けたの・・・多分、織田さんだけじゃないよ」

「・・・え?なんのこと?」

「君の特殊能力・・・昨日の戦いのあと、確認した?」

「なんのこと?」

「まだなら確認してみて」


 吉見くんに言われて、富醒・レンタルを発動させてみる。


「・・・え?」


 レンタル可能状態で目の前に出現したのは、以前から借りっぱなしだったリターンだけではない。土方さんのファイヤーウインドミル、近藤くんのアーマーファンブル、沼田さんのヒール、鷲尾くんのアジリティ、そして藤原くんのルーラーが表示をされている。逃走時には、慌ててリターンを選択したので、それ以外には気付けなかった。


「・・・なんで?」

「一昨日・・・決戦前夜のここで藤原君が提案したんだ。

 『自分はもうダメだと思った時は、源くんに特殊能力を託せ』

 『源くんなら託された能力と想いを無駄にはしない』ってね」


 藤原くんは、智人チートとの戦いで1~2人が欠ける覚悟はして、「脱落する前に特殊能力を僕に貸せ」と提案をした。きっと、全滅までは考えていなかったはず。・・・だけど


「全員が・・・僕に託した」


 ヤバい。「おーちゃんに救われた」と「藤原くんの提案を受け入れて皆が託した」のコンボはキツい。カード化をされて目の前に表示されている仲間達の特殊能力が、涙でぼやける。


「・・・尊人くん」


 真田さんが寄り添って、僕を優しく抱き締める。


「無理をしないで。泣いて良いんだよ」


 ダメだよ真田さん。そんなこと言わないでよ。優しくしないでよ。ずっと気を張って、泣かないように我慢してたのにさ。・・・もう無理だよ。


「うわぁぁぁぁっっ~~~~~んっっ!!!」


 櫻花おーちゃんの想い、藤原くんや仲間達の想い、全てが温かくて辛い。何もできなかったのが悔しい。

 脱力して、その場に両膝を降ろして、真田さんに抱き締められながら大声で泣く。 


出席番号10番【近藤浩二】・・・脱落

出席番号23番【沼田縫愛】・・・脱落

出席番号27番【土方仁美】・・・脱落

出席番号28番【藤原史弥】・・・脱落

隣のクラス【鷲尾和士夫】・・・脱落


出席番号5番【織田櫻花】・・・脱落

出席番号19番【寺坂照代】・・・脱落

隣のクラスの担任【蓮井怜香】・・・脱落


隣のクラス【脇坂脇太郞】・・・脱落

 今話で第4章終了。脳内プロット的には、全ストーリーの2/3が終了しました。

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